採用代行 / 費用・契約・法務

採用代行が偽装請負になる境界線

公開 2026-09-06

採用代行の担当者と毎日Slackでやり取りしていると、いつのまにか自社の社員と同じ扱いになっていきます。「今日はこの職種を優先して」「10時の定例に出て」「この時間帯に送って」。ひとつひとつは自然な会話ですが、これが積み上がると、契約は業務委託でも実態は労働者派遣とみなされる状態に近づきます。判断の物差しは、昭和61年労働省告示第37号(37号告示)です。

以下は告示の条文にもとづく一般的な整理です。自社の運用が該当するかどうかの個別の判断は、社会保険労務士・弁護士または管轄の労働局にご確認ください。

37号告示は何を見ているか

告示の正式名称は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」です。厚生労働省の疑義応答集には、契約形式ではなく実態に即して判断されると明記されています。

第2条は、請負の形式で契約していても、次の2つの要件のどちらも満たさない限り労働者派遣事業とみなす、という構造になっています。

要件1:自分が雇っている労働者の労働力を、自ら直接利用していること

3つの下位項目があります。

項目中身
イ 業務の遂行に関する指示その他の管理(1) 業務の遂行方法に関する指示 (2) 業務の遂行に関する評価等に係る指示
ロ 労働時間等に関する指示その他の管理(1) 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇等に関する指示(単なる把握は除く) (2) 時間外・休日労働の指示(単なる把握は除く)
ハ 企業における秩序の維持・確保等のための指示(1) 服務上の規律に関する指示 (2) 労働者の配置等の決定・変更

これらを「自ら行う」のは受託者側でなければならない、という読み方です。発注者がやってしまうと要件を外れます。

要件2:請け負った業務を、自分の業務として独立して処理していること

項目中身
イ 資金業務処理に要する資金を、すべて自らの責任の下に調達・支弁する
ロ 法律上の責任民法・商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負う
ハ 単なる肉体的労働力の提供でない(1) 自己の責任と負担で準備した機械・設備・器材・材料により処理する、または (2) 自ら行う企画、もしくは自己の有する専門的な技術・経験に基づいて処理する

さらに第3条で、両方を形式的に満たしていても、法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであれば、労働者派遣事業であることを免れないとされています。

採用代行の現場で起きやすいこと

告示の言葉は抽象的なので、採用の現場に置き換えます。以下は「これをやると直ちに違法」という話ではなく、要件を外れる方向に働く行為の例です。

発注側がやりがちなことどの要件に触れるか
「今日は何時から何時まで対応して」と稼働時間を指定する要件1ロ(労働時間等の指示)
「明日までに残業してでも終わらせて」と依頼する要件1ロ(2)(時間外労働の指示)
毎朝の朝会に出席を求め、その日のタスクを割り振る要件1イ(1)(業務遂行方法の指示)
担当者個人の働きぶりを評価してフィードバックする要件1イ(2)(業務遂行に関する評価)
「この人ではなく別の人に替えて」と個人を指定する要件1ハ(2)(配置の決定・変更)
自社の就業規則や服務規律に従わせる要件1ハ(1)(服務上の規律)
自社が貸与したPC・回線でのみ作業させる要件2ハ(1)(機械・設備の調達)

逆に、外れにくい形は次のようになります。

エラベルの見解

現場で最も多いのは、悪意なく境界を越えるパターンです。採用は動きが速いので、「今すぐこの候補者に返信してほしい」という場面が毎日あります。そこで担当者に直接DMを送り、返信の時刻まで指定する。これが日常になると、契約書がどうであれ実態は指揮命令に見えます。

防ぎ方はシンプルで、「即応が必要な業務」を最初から契約の外に置くことです。たとえば候補者への一次返信だけは自社に残し、代行には文面のテンプレート整備と週次のリスト作成を任せる。急ぐ仕事を外に出すから指示が細かくなるのであって、切り分けを変えれば指示の必要がなくなります。法務の問題を、業務設計で解く発想です。

業務委託・派遣・紹介の違いを一度整理する

採用代行(業務委託・請負)労働者派遣有料職業紹介
誰が指揮命令するか受託者(代行会社)派遣先(自社)
発注側に必要な手続き原則なし派遣先としての義務ありなし(紹介会社が許可を持つ)
費用の性質業務委託費派遣料金成功報酬(理論年収の一定割合)
成果物契約で定めた業務の遂行労働力の提供雇用関係の成立

自社の社員と同じように日々指示を出したいのであれば、派遣という選択肢のほうが素直です。業務委託の形にしながら実態を派遣にするのが、いちばん避けたい形になります。

契約書で決めておくこと

契約書を整えても、運用がずれれば意味がありません。四半期に一度、実際のやり取りを見て契約と合っているかを確認するところまでを仕組みにしてください。

エラベルの見解

もうひとつ見落とされやすいのが、担当者を指名することと、配置を決めることの違いです。要件1ハ(2)は「労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと」を受託者側の要件としています。ここだけを読むと、発注側が担当者を選ぶ行為が引っかかるように見えます。

実務的な整理としては、契約前に「この人に任せたい」と選ぶことと、契約後に「この人を外して別の人にして」と配置を動かすことは、性質が違います。前者は取引相手を選ぶ行為で、後者は相手の労務管理に踏み込む行為です。エラベルは担当者を見てから決められる仕組みですが、これは契約前の選択の話です。稼働が始まったあとの体制は担当者側と代行側の責任範囲、という線を最初に引いておくと、この論点は整理できます。

まとめ

よくある質問

定例会に代行の担当者が出るのは問題ありませんか

報告と合意の場であれば、一般に問題になりにくい形です。避けたいのは、その場でタスクを割り振ったり、個人の作業手順を細かく決めたりすることです。議題を「進捗の共有」「方針の合意」に絞ると、性質が変わりにくくなります。

自社のSlackに入ってもらうのは避けるべきですか

チャンネルに入ること自体ではなく、そこで何をやり取りするかが問われます。成果物と期限のやり取りに留めるならリスクは高くありません。個人宛のDMで作業指示が飛ぶ状態になると、実態として指揮命令に近づきます。窓口用のチャンネルを1本作り、個人DMを使わない運用にしている会社が多い印象です。

副業の個人に直接依頼する場合はどうなりますか

構造は同じですが、個人に直接依頼するほうが境界を越えやすい傾向があります。相手に組織としての管理者がいないため、こちらが管理せざるを得ない場面が出るからです。稼働時間を相手が決められる形にする、成果物単位で受け取る、といった設計を最初に決めておくことをおすすめします。

出典