採用代行 / 費用・契約・法務
採用代行を切り替えるときの引き継ぎ項目
採用代行を別の会社に切り替えるとき、いちばん時間を取られるのは契約手続きではなく引き継ぎです。回収するものを決めていないと、新しい依頼先はゼロから立ち上げることになります。しかも、選考中の候補者がいる状態では、切り替えの空白がそのまま辞退につながります。この記事では、回収するもの、渡すもの、そして時期の設計を順に整理します。
回収するもののチェックリスト
契約が終わる前に受け取っておくものです。編集できる形式で受け取ることが条件になります。閲覧しかできない形式だと、次の依頼先が使えません。
採用の設計に関するもの
- 採用要件の定義書(必須と歓迎、落とす理由)
- 選考フローと、各段階の判断基準
- 想定年収の考え方と、条件提示の範囲
運用の成果物
- 求人原稿(媒体ごとの入稿内容を含む)
- スカウトの文面(職種別、送信タイミング別)
- 候補者の検索条件と、その設計意図
- 応募者への連絡テンプレート(受付、日程案内、不採用連絡)
- 面接の案内文、候補者に渡している資料
データ
- 応募者・候補者の一覧と、それぞれの状況
- 選考の履歴と評価コメント
- スカウトの送信履歴と返信の記録
- 稼働報告の履歴と、集計した数値
環境に関するもの
- 媒体アカウントの権限と、設定内容
- 採用管理システムの設定、入力ルール
- 使用しているツールと、その中のデータ
このうち、検索条件の設計意図と稼働報告の履歴が落ちやすい項目です。条件そのものは受け取れても、なぜその条件にしたかが分からないと、次の担当者は触れません。稼働報告の履歴は、次の依頼先に現状を説明する材料になります。
進行中の候補者をどうするか
切り替えで最も気を使うのがここです。選考の途中で連絡が途切れると、候補者から見れば放置されたことになります。
一覧を作る。全候補者について、いまどの段階にいるか、次に何をする予定かを並べます。前の代行会社に作ってもらいます。
連絡の担当を決める。切り替え期間中、誰が候補者に連絡するか。自社が直接持つ形が最も確実です。空白を作らないことが優先されます。
候補者への説明。担当者が替わることを伝えるかどうか。代行会社は自社の窓口として動いているので、候補者から見れば同じ会社の担当者です。担当変更の連絡だけを入れる形が自然です。
選考が終わるまで待つ選択もある。最終面接まで進んでいる候補者が数名いるなら、その選考が終わるまで切り替えを遅らせる判断もあります。契約の予告期限と、選考の進捗を突き合わせて時期を決めます。
エラベルの見解
引き継ぎで受け取る資料の中に、入れてもらうと価値が高いのに、依頼しないと出てこないものがあります。うまくいかなかった試みの記録です。
試したが反応が悪かった文面。合わなかった媒体。検索条件から外した層と、その理由。断られた候補者の断り文句。これらは成功した施策の記録より役に立つことがあります。次の依頼先が同じことを繰り返さずに済むからです。
ところが、引き継ぎ資料は普通、うまくいっている運用の説明として作られます。失敗は書かれません。だから、依頼するときに明示的に求めてください。「試したが効果がなかった施策も含めて」と一言添えるだけで、資料の中身が変わります。
そして、その記録は自社の資産として残ります。代行会社が三社目に替わっても、一社目と二社目で試したことが分かっていれば、四社分の時間を使わずに済む。引き継ぎは、次の依頼先のためだけでなく、自社に採用の履歴を残す作業でもあります。
権限とアカウントの整理
環境まわりは、抜けると後から面倒になります。
- 媒体アカウントの権限を削除する(担当者ごとに)
- 採用管理システムのアクセス権を削除する
- 共有していたメールの署名や転送設定を戻す
- 共有ドライブやチャットの参加権限を外す
- 候補者とのやりとりに使っていた連絡先を確認する
削除する前に、必要なデータを書き出しておきます。権限を先に切ると、取り出せなくなることがあります。順番は、書き出し、確認、削除です。
媒体が代行会社の名義で契約されている場合は、名義の切り替えかデータの書き出しが先に要ります。名義の考え方は媒体費と代行費を分けて見るべき理由にまとめています。
個人情報を含むデータの返還や削除の扱いは、契約の定めに沿って処理します。削除を求める場合、完了の報告をどう受け取るかも決めておきます。個別の判断は自社の管理体制と照らして専門家にご確認ください。取り扱いの整理は個人情報保護法と委託先の監督で扱っています。
重複期間を設計する
前の依頼先と新しい依頼先が並走する期間を置くかどうか。
置く利点。引き継ぎの精度が上がります。資料だけでは伝わらない内容が、会話で伝わります。進行中の候補者の対応も途切れません。
置く負担。両方に費用が発生します。範囲を絞れば抑えられますが、ゼロにはなりません。
現実的な形は、前の依頼先には進行中の候補者の対応だけを残し、新しい依頼先は新規の母集団形成から始める、という分け方です。業務が重ならないので、費用も管理も抑えられます。
重複期間を置かない場合は、自社が一時的に業務を持つ期間を想定しておきます。日程調整と応募者対応を数週間だけ社内で回す、という形です。その分の社内の時間を見込んでおきます。
新しい依頼先への渡し方
回収した資料を、そのまま渡せばよいわけではありません。整理して渡すと、立ち上げが速くなります。
- 現状を一枚にまとめる。募集中の職種、これまでの応募と採用の実績、いま進行中の候補者の数
- うまくいっている部分といない部分を分けて書く。全部を等しく渡すより、どこを直したいかが伝わるほうが提案が出ます
- 試して効果がなかった施策を渡す。同じことを繰り返さないために
- 社内の事情を伝える。合否の決定権は誰が持つか、条件の相談は誰に通すか、面接官の空き状況
- 判断の速さについて自社側の約束を書く。書類の合否を返す時間、候補日を提示する時間
五番目を最初に伝えておくと、立ち上げの速度が変わります。代行側は、自社の判断がどのくらいで返るかを前提に動きます。
エラベルの見解
切り替えを一度経験すると、次の契約で何を決めておくべきかが具体的に分かります。この学びを次の契約に反映してください。
具体的には四つです。成果物を編集できる形式で受け取れること。候補者データを自社の環境に置くこと。稼働報告に工程ごとの内訳と担当者名が入ること。契約終了時の引き渡し範囲を先に決めておくこと。
この四つが契約に入っていれば、次の切り替えは今回よりずっと軽くなります。今回時間がかかったのは、決めていなかったからです。
そして、この四つを商談の段階で伝えると、相手の反応も見られます。すぐ応じる会社は、契約が終わることも想定した運用をしています。難色を示す会社は、囲い込みを前提にしているか、体制が整っていないかのどちらかです。
切り替えは負担の大きい作業ですが、次の契約を良くするための材料が手に入る機会でもあります。終わったら、今回困ったことを箇条書きで残しておいてください。次の契約書のレビューで、そのまま使えます。
まとめ
- 回収するのは設計・成果物・データ・環境の四つ。編集できる形式で受け取る
- 落ちやすいのは検索条件の設計意図と稼働報告の履歴
- 進行中の候補者は一覧を作り、連絡の空白を作らない。自社が直接持つのが確実
- うまくいかなかった試みの記録は、依頼しないと出てこない。明示的に求める
- 権限は、書き出し → 確認 → 削除の順。名義が代行側なら先に切り替える
- 重複期間は、前は進行中の候補者、新は新規の母集団形成と分けると重ならない
- 新しい依頼先には、現状・課題・失敗の記録・社内の事情・自社側の判断速度を渡す
- 今回困ったことを残し、次の契約書のレビューに使う
よくある質問
引き継ぎの作業に費用はかかりますか
契約に定めがなければ、その都度の協議になります。本来は締結時に決めておく項目です。引き継ぎを受託者側の稼働に含める形が一般的な整理ですが、範囲が広い場合は別途費用となることもあります。次の契約では、契約終了時の引き渡し範囲と費用の扱いを明記しておきます。
前の代行会社が協力してくれない場合はどうしますか
まず契約書の引き渡しに関する条項を確認します。定めがある場合は、それに沿って依頼します。定めがない場合でも、口頭で意向を伝えたうえで書面で依頼すると、対応が進むことがあります。並行して、自社の環境に残っているデータを確認し、回収できるものを先に確保します。
切り替えの期間はどのくらい見ておけばよいですか
進行中の候補者の数と、回収する資料の量によります。選考が進んでいる候補者が複数いるなら、その選考が一段落する時期まで見込みます。契約の予告期限は選考の進捗を踏まえて逆算し、余裕を持って伝えるほうが引き継ぎに手が入ります。予告期限の考え方は途中解約したいときの進め方にまとめています。