採用代行 / 費用・契約・法務
採用代行に渡す候補者情報とNDAの範囲
採用代行に業務を任せると、社外の担当者が自社の情報を扱うことになります。そこで秘密保持の取り決めを交わすわけですが、採用の現場で渡す情報は候補者データだけではありません。給与テーブル、組織の課題、退職の理由、面接での評価。これらが対象に入っているかどうかで、取り決めの実効性が変わります。この記事では、対象範囲の決め方と、契約後の運用まで整理します。
渡している情報を洗い出す
秘密保持の条項を読む前に、実際に何を渡しているかを並べます。採用代行の運用で外に出る情報は、おおむね次の四つに分かれます。
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 候補者の情報 | 応募書類、職務経歴、連絡先、選考の評価、辞退の理由 |
| 自社の採用に関する情報 | 採用計画、募集人数、想定年収、選考基準、落とした理由 |
| 自社の内部情報 | 組織図、部署の課題、離職の状況、給与テーブル、事業の計画 |
| 運用上の情報 | 媒体のアカウント、採用管理システムの権限、メールの署名 |
一番と二番だけを想定した取り決めになっていることが多いというのが、実務でよく見る形です。しかし採用の会話では、三番が自然に出ます。要件を詰めるほど、なぜその人が要るのかという話になり、組織の課題に踏み込むためです。
四番も見落とされます。自社の名前で候補者に連絡してもらう運用では、メールの署名や媒体アカウントを共有することがあります。誰がその権限を持つのか、退任時にどう戻すのかを決めておく項目です。
秘密保持の取り決めで見るところ
秘密情報の定義。書面に「秘密」と表示したものだけを対象とする定義だと、口頭で伝えた組織の課題は入りません。採用の実務では口頭のやりとりが多いので、口頭で開示したものも含める形にしておくと実態に合います。
除外事由。すでに公知のもの、独自に得たものは対象外とするのが一般的です。この記載自体は標準的なもので、問題になることは多くありません。
目的外使用の禁止。受け取った情報を、委託業務以外に使わないことを明記します。採用代行では、候補者情報を他社の案件に転用しない、という点が実務上の関心事になります。
閲覧できる人の範囲。受託者の社内で誰が見られるか。必要な範囲の従業員に限る、という書き方が一般的ですが、再委託先や業務委託のパートナーが含まれるかは分けて確認します。
期間。契約期間中だけなのか、終了後も一定期間続くのか。候補者情報の性質を考えると、契約終了後も義務が残る形が自然です。
返還または削除。契約終了時に、情報を返すのか消すのか。削除する場合、その方法と、完了を報告してもらうかどうか。
違反時の扱い。差止めや損害賠償の定め。実際に発動することは多くありませんが、条項として置いておく意味はあります。
エラベルの見解
秘密保持の取り決めで実務上いちばん効くのは、条項の文言ではなく情報が置かれる場所を決めることです。書面でどれだけ縛っても、候補者の情報が担当者の個人端末や共有ドライブに散らばっていれば、削除も確認もできません。
決めることは三つです。候補者情報をどこに置くか(自社の採用管理システムか、代行会社の環境か)。誰がアクセスできるか。契約終了時に何をもって削除完了とするか。この三つを運用ルールとして文書にして、秘密保持の取り決めとセットで渡します。
自社の採用管理システムに集約して、代行会社にはそこへのアクセス権を渡す形にすると、管理はかなり楽になります。権限を止めればアクセスは止まり、データは自社に残る。契約終了時の作業も、権限の削除だけで済みます。逆に代行会社の環境に情報が溜まる形だと、終了時に返還と削除の作業が発生し、確認も難しくなります。
条項を厚くするより、置き場所を決めるほうが早い。これは実務で何度も確認される順番です。
再委託先まで及んでいるか
採用代行では、実務を業務委託のパートナーが担うことがあります。この場合、秘密保持の義務が再委託先にも同じ内容で及んでいるかを確認します。
- 再委託が可能な契約か。事前承諾が要るか
- 再委託先に、同等の義務を課す条項があるか
- 再委託先の行為について、受託者が責任を負う建て付けか
- 再委託先の範囲(法人か、個人事業主も含むか)
再委託そのものが悪いわけではありません。専門性のある個人がパートナーとして入ることで、実務の質が上がることもあります。確認すべきは、義務が同じ形で伝わっているかどうかです。
あわせて、実際に誰が業務にあたるのかを商談の段階で聞いておきます。契約書の条項と、実際の体制がずれていないかを見るためです。
個人情報としての扱いは別に要る
候補者の情報は、秘密保持の対象であると同時に個人情報でもあります。秘密保持の取り決めがあれば個人情報の取り扱いも足りる、とはなりません。
個人データの取り扱いを外部に委託する場合、委託元には委託先を監督する立場が生じると一般に整理されています。監督の実務としては、委託先の選定、契約での取り決め、取り扱い状況の確認といった対応が挙げられます。詳しくは個人情報保護法と委託先の監督で扱っています。
また、候補者から取得した情報の利用目的の範囲を超えて使わないこと、応募者に対して取得と利用の説明ができる状態にしておくことも、あわせて整理するところです。個別の判断は、社内の管理体制と照らして専門家にご確認ください。
運用で決めておくこと
取り決めを結んだ後、日々の運用で決めておくと事故が起きにくくなる項目です。
- 候補者情報の置き場所(自社の採用管理システムに集約するか)
- アクセス権を持つ人の一覧と、更新のタイミング
- 応募書類をメールで送らない、共有リンクの期限を切る、といった受け渡しのルール
- 担当者が交代したときの権限の付け替え手順
- 面接の評価コメントを、どこまで代行会社と共有するか
- 契約終了時のチェックリスト(権限削除、データ返還または削除、完了の確認)
このうち、面接の評価コメントの共有範囲は判断が分かれるところです。共有すると代行側は書類の一次仕分けの精度を上げられますが、評価は機微な情報でもあります。共有するなら、何を共有し何を共有しないかを決めておきます。
エラベルの見解
担当する側から見ると、情報の渡し方が整っている会社ほど立ち上がりが速いという関係があります。理由は単純で、情報が構造化されているからです。
置き場所が決まっていて、アクセス権が最初に渡され、過去の選考履歴が見られる状態なら、担当者は初日から候補者の傾向をつかめます。逆に、必要なたびにメールで書類が送られてくる運用だと、全体像を持つまでに時間がかかります。その時間は、月額型なら発注側の稼働の消費になり、時間単価型なら請求になります。
情報管理を「守るための手続き」と捉えると面倒に見えますが、渡し方を整えることは立ち上げの短縮でもあるというのが受け手側の実感です。契約前にアクセス権の設計を済ませておくと、初月の使い方が変わります。
まとめ
- 渡している情報は候補者・採用計画・組織の内部情報・運用権限の四つ
- 口頭で伝える組織の課題も対象に入る定義になっているかを見る
- 閲覧範囲、期間、返還または削除、再委託先への義務の及び方を確認する
- 条項を厚くするより、情報の置き場所を決めるほうが実効性が高い
- 自社の採用管理システムに集約し、アクセス権を渡す形が管理しやすい
- 秘密保持の取り決めだけでは足りない。個人データの取り扱いは別に整理する
- 情報の渡し方を整えることは、立ち上げの短縮にもつながる
よくある質問
秘密保持契約は業務委託契約と別に交わすものですか
どちらの形もあります。業務委託契約の中に秘密保持の条項を置く形と、別に取り決めを交わす形です。商談の段階で情報を開示するなら、契約前に別途交わしておくことになります。重複して締結する場合は、どちらが優先するかを確認しておきます。
候補者の情報を代行会社のツールに入れてもよいですか
契約と運用のルール次第です。代行会社の環境に情報が置かれる場合、契約終了時の返還と削除の手続きが必要になります。自社の採用管理システムに集約してアクセス権を渡す形のほうが、管理としては単純になります。どちらを選ぶかは、自社にシステムがあるかどうかで決まることが多いところです。
契約が終わった後、情報が消されたかを確認できますか
削除の完了を報告してもらう定めを置けば、報告は受け取れます。ただし技術的な検証まで行うのは現実には難しいところがあります。だからこそ、そもそも代行会社の環境に情報を溜めない設計にしておくほうが確実性が高くなります。運用の設計と契約条項は、セットで考えるところです。