採用代行 / 法務
法務の採用要件の作り方|必須と歓迎を分ける基準
法務の採用要件を作ると、「契約審査・コンプライアンス・知的財産・機関運営の経験」「弁護士資格または法科大学院修了」「英文契約の経験」「事業を理解できる方」「リスク感度の高い方」と膨らみます。法務の分かる人がいない会社が法務を採るため、法務の中身と顧問弁護士との分担を決めずに、経営者が「困っていること全部」と「あったほうが安心な資格」を要件にしてしまうことが原因です。膨らんだ要件は、該当する人がいないか、該当しても「一人で全部」と読まれて見送られるか、資格を必須にして事業会社で契約審査を積んだ人を外してしまうかのどれかになります。結論を先に書くと、法務の要件は「法務の中身」と「顧問弁護士との分担」から決め、必須を「その中身を回した経験」「一人か少人数で回した経験」「事業部門との調整の経験」の三つに絞り、それ以外の中身・資格・英文契約・業界は歓迎に回すと、該当する人が現れ、面接で確かめるべきことも決まります。中身と分担の決め方は法務採用を代行に出す判断基準に、母集団形成は法務の母集団形成にまとめています。
法務で要件が膨らむ理由
法務の要件が膨らむ理由は、三つあります。
一つ目は、法務の中身が「契約審査・コンプライアンス・知財・紛争・機関運営」に分かれていて、経営者にはその境目が見えないことです。困っていることは契約審査でも、「法務ならコンプライアンスも知財も分かるだろう」と要件に足す。実際には、契約審査を回してきた人とコンプライアンス体制を作ってきた人は、持っているものが違います。
二つ目は、資格を「安心のため」に必須にすることです。弁護士資格を必須にすると、法律事務所からの転向層に絞られ、事業会社の法務で契約審査を積んできた人(資格の無い人が多い)が外れます。社内の法務に求めるのが一次審査と事業部門との調整なら、資格は要らないことが多く、「安心」で必須にすると、母集団が要らないところで減ります。
三つ目は、要件を法務の目で見る人が社内にいないことです。営業やエンジニアの要件は、その職種の人が社内にいて、「この要件は現実的でない」と言えます。法務の要件は、それを言える人が社内にいません。経営者の「困っていること全部」と、「リスク感度」のような確かめられない言葉が、そのまま要件になります。
三つを合わせると、「中身を決めずに、法務の領域を全部並べ、安心のための資格と、人柄の形容詞を足す」のが、膨らむ構造です。
必須と歓迎を分ける基準
基準は、「その要件が無いと、自社の法務の中身を回せないか」です。回せないなら必須、あれば早いなら歓迎です。
| 要件 | 必須か歓迎か | 理由 |
|---|---|---|
| 自社の法務の中身(契約審査・コンプライアンス・知財・紛争・機関運営のどれか)を回した経験 | 必須 | これが無いと中身を回せない。「法務経験」ではなく中身で書く |
| 一人か少人数の法務として回した経験 | 必須(一人目の場合) | 大きな法務部の一員と、一人目では、必要な動き方が違う。顧問弁護士との窓口を自分で持てるか |
| 事業部門との調整の経験 | 必須(一次審査と調整が中心の場合)/歓迎(難しい案件の判断が中心の場合) | 事業部門の相談を受け、問題を伝え、経営者につなぐ経験。中身で必須か歓迎かが変わる |
| 他の中身の経験(契約審査が主ならコンプライアンスや知財) | 歓迎 | あれば二年目以降に中身を広げられる。無くても最初の中身は回る |
| 弁護士資格 | 歓迎(訴訟対応や弁護士としての意見を社内で求める場合は必須) | 一次審査と調整なら資格が無くても回る。顧問弁護士との分担があればなおさら |
| 法科大学院修了 | 歓迎 | 法律の基礎はある。実務経験のほうが効く |
| 英文契約の経験 | 歓迎(海外取引が中心なら必須) | 海外取引が無いか少ないなら要らない。「あると便利」で必須にしない |
| 同じ業界の法務経験 | 歓迎 | 業界特有の規制(許認可、業法)があれば歓迎に。無ければ不要 |
| 「事業を理解できる」「リスク感度が高い」「バランス感覚」 | 要件から外す | 経歴で確かめられず、面接で確かめる項目。要件に書いても絞れない |
表の要点は、「法務経験〇年」「弁護士資格」を、中身と分担を決めずに必須に書かないことです。年数ではなく、「どの中身を、どの体制で、誰と」回したかで書きます。資格は「何のために」で決めます。資格の要否に関わる判断は、顧問弁護士など専門家にご確認ください。
もう一つの要点は、「事業部門との調整の経験」が、中身によって必須にも歓迎にもなることです。一次審査と事業部門との調整が中心なら必須。難しい案件の判断を社内で担うなら、判断の質を重く見て、調整は歓迎に。中身を決めずに両方を必須にすると、該当者が減ります。
エラベルの見解
相談で多いのは、「法務の要件を『契約審査・コンプライアンス・知財の経験、弁護士資格または法科大学院修了、英文契約経験、事業を理解できる方』にしたが、応募が来ない」というご相談です。中身と分担を聞くと、困っているのは「事業部門から上がる契約書の一次審査が回らない」で、難しい案件は顧問弁護士に出していて、海外取引はほぼありませんでした。それなら要件は「契約審査の経験」「事業部門との調整の経験」で足り、資格も英文契約も、該当者を減らしているだけでした。
見ていて差がつくのは、「困っていることを法務の中身に翻訳し、分担を確認してから要件にしているか」です。「契約書の一次審査が回らない」→中身は「契約審査」→分担は「一次は社内、難しい案件は顧問弁護士」→必須は「契約審査を回した経験」「少人数で回した経験」「事業部門との調整の経験」。ここまで翻訳すれば、要件は三つで済み、該当する人が現れます。エラベルでは、法務の担当者に、要件を書く前に「法務の中身と分担」を経営者と一文にしてもらっています。
必須を三つに絞る手順
手順は四つです。
一つ目:法務の中身と、顧問弁護士との分担を一文にする。 「契約審査の一次は社内、難しい案件と紛争は顧問弁護士。知財と機関運営は当面、経営者と顧問弁護士で」。中身が複数あるなら順番を付け、一番目だけを要件の起点にします。
二つ目:その中身を回すために、無いと困る経験を書き出す。 「契約書の一次審査を回した」「取引先との契約交渉に関わった」「ひな形を整備した」など。書き出したら、「これが無いと本当に回らないか」を一つずつ問います。
三つ目:体制と重心の要件を足す。 一人目なら「一人か少人数で回した経験」を必須に。一次審査と調整が中心なら「事業部門との調整の経験」を必須に。チームに加わる二人目以降なら、前者は歓迎に下げます。
四つ目:残りを歓迎に回し、形容詞を外す。 他の中身、資格、英文契約、業界は歓迎に。「事業を理解できる」「リスク感度」「バランス感覚」は要件から外し、面接で確かめる項目に移します。
手順の要点は、二つ目で「本当に回らないか」を問うことです。「弁護士資格」は、顧問弁護士に難しい案件を出しているなら「回らない」ではありません。「英文契約」は、海外取引が無いなら「回らない」ではありません。問うたびに必須が減り、三つに近づきます。
経歴で確かめられる要件と、面接でしか分からない要件
要件を、経歴(職務経歴書、スカウト媒体のプロフィール)で確かめられるものと、面接でしか分からないものに分けます。
経歴で確かめられるのは、「どの中身を担ったか」「件数や規模」「顧問弁護士との分担はどうだったか」「どの体制で担ったか」「一人目だったか」「事業部門との調整を担ったか」「資格の有無」です。書類の段階で、必須の三つはここで確かめます。
面接でしか分からないのは、「法的な判断の質(この条項で何を見るか、弁護士に出すべき案件の線引き)」「事業部門が急ぐ契約に問題を見つけたとき、どう伝えるか」「事業部門と法務で意見が分かれたとき、どう動くか」「整っていない状態(法務を通さずに契約が結ばれる)を、流れを作る仕事として引き受けられるか」です。要件の「事業を理解できる」「リスク感度」「バランス感覚」は、この四つに翻訳して、面接で確かめます。
面接で確かめる方法は、二つに分けます。判断の質は、法務の分かる人(顧問弁護士、法務経験者の代行担当者)が、具体的な契約の場面を聞きます。経営者が妥当性を判断するのは難しいからです。事業部門との調整と板挟みの動き方は、経営者や事業部門の責任者が、過去の具体的な場面を聞きます。「事業部門が急いでいる契約に問題を見つけたとき、どう伝えましたか」「法務の意見が通らなかった場面はありますか。そのときどうしましたか」。答えの中身より、具体的な場面が出てくるかを見ます。個別の法令の解釈は、専門家にご確認ください。面接の設計は面接の構造に書いています。
転向元ごとの要件の書き方
法務の候補者は、転向元によって持っているものが違います。要件の書き方も、転向元を意識して変えます。
| 転向元 | 経歴で確かめる | 面接で確かめる | 要件に書くときの注意 |
|---|---|---|---|
| 事業会社の法務(一人目の経験あり) | 一人目として作った流れ、中身、規模 | なぜ前の会社を離れるか。もう一度流れを作りたい理由 | 必須の三つがそのまま該当。最も合いやすい |
| 事業会社の法務(法務部の一員) | 担った中身の範囲と件数 | 一人目で困らないか。顧問弁護士との窓口を自分で持てるか。整っていない状態を引き受けられるか | 「少人数で回した経験」を必須にすると外れる。歓迎に下げるなら面接で重く見る |
| 法律事務所の弁護士 | 扱った分野、事業会社の案件の経験 | 事業の側に立てるか。事業部門との調整の経験。資格に何を期待し何を期待しないかを受け入れられるか | 「事業会社の法務経験」を必須にすると外れる。判断の質は強い。調整の経験は面接で確かめる |
| 法科大学院修了で資格の無い人 | 法律の基礎、これまでの実務の一部 | 実務を積む意欲。顧問弁護士に相談できる体制があれば回るか | 必須の三つは満たさないことが多い。顧問弁護士との連携が厚い場合だけ、要件を下げて別枠で |
| 事業部門・営業からの転向 | 契約の現場での経験、法務に関わった場面 | 法律の基礎を学ぶ意欲。事業側の言葉が分かることが活きるか | 必須の三つは満たさない。一次審査の型が整っていて、顧問弁護士との連携が厚い場合だけ |
| 法務の副業・業務委託 | 並行して見た社数、担った中身 | 一社に深く関わる動機。委託で持てなかった権限を求めているか | 正社員の前に委託で回す経路にも向く |
表の要点は、「事業会社の法務経験」と書くと法律事務所の弁護士が、「弁護士資格」と書くと事業会社の法務経験者が、それぞれ「自分は該当しない」と読むことです。中身で書けば、両方が該当します。
要件が決まらないときの原因
要件を作ろうとして決まらないとき、原因は要件ではなく、その前にあります。
一つ目は、法務の中身が決まっていないことです。「契約もコンプライアンスも知財も困っている」で止まっていると、要件は「全部」になり、決まりません。困っていることに順番を付け、一番目を中身にします。
二つ目は、顧問弁護士との分担が決まっていないことです。難しい案件を弁護士に出すなら、社内の法務に「判断の質」より「一次審査と調整」を求めることになり、資格は要らなくなります。分担を決めずに要件を作ると、「判断も調整も資格も」に膨らみます。
三つ目は、資格の要否を「何のために」で決めていないことです。「あったほうが安心」で必須にすると、母集団が減ります。訴訟対応を社内で担うのか、弁護士としての意見を社内で出す必要があるのか。無いなら、資格は歓迎に下げます。資格の要否に関わる判断は、顧問弁護士など専門家にご確認ください。
四つ目は、要件を法務の目で見る人がいないことです。経営者だけで作ると、「困っていること全部」と「リスク感度」になります。法務の経験者(代行の担当者、顧問弁護士、副業の法務、知人)に一度見てもらうと、「この必須は要らない」「この歓迎は必須」が分かります。
四つのどれかが決まっていないなら、要件より先にそれを決めます。
代行に出せる工程
要件作りの工程を、社内で持つものと外に出せるものに分けます。
| 工程 | 社内で持つ | 外に出せる |
|---|---|---|
| 法務の中身の決定 | 経営者が決める | 困っていることを聞き取り、中身に翻訳する |
| 顧問弁護士との分担と、資格の要否の決定 | 経営者と顧問弁護士が決める | 選択肢を示す。他社の分け方を示す |
| 必須と歓迎の振り分け | 最終判断 | 基準に沿った振り分け案。法務の目で「要らない必須」を指摘 |
| 経歴で確かめる項目の設計 | ― | 書類の見方、スカウトの検索条件への変換 |
| 面接で確かめる項目の設計 | 経営者が確かめたいこと。判断の質を確かめる人の決定 | 形容詞を具体的な場面の質問に翻訳。判断の質の質問の用意(担当者が法務経験者なら) |
| 求人票・スカウト文面への反映 | 確認 | 要件を文面に落とす |
分け方の要点は、「中身・分担・資格の要否は経営者(と顧問弁護士)が決め、翻訳と振り分けは外に出せる」ことです。法務の分かる人がいない会社では、「法務の目で要件を見る」工程を外に出すことで、はじめて要件が三つに絞れます。担当者が法務の経験者であることが前提です。担当者の経歴の見方は担当者の経歴の見方に書いています。
エラベルの見解
担当する側から見ると、法務の要件で最も効くのは、「弁護士資格」を必須から歓迎に下げることと、「法務経験」を中身で書き直すことです。資格を必須にした要件は、事業会社で契約審査を積んだ人を外し、中身の無い要件は、法律事務所の弁護士と事業会社の法務経験者の両方に「自分向けか分からない」と読まれます。二つを直すだけで、該当する人の顔ぶれが変わります。
エラベルでは、法務の案件で担当者を紹介するとき、最初の一週間で「法務の中身と、顧問弁護士との分担」を経営者と一文にし、資格の要否を「何のために」で決めてもらい、そこから必須三つを作るところまでをお願いしています。法務の担当者が法務の要件を作るので、「この必須は現実的でない」を担当者が言えます。それが、法務の分かる人がいない会社が法務を採るときに、社内に無い工程です。
まとめ
- 法務の要件が膨らむ理由は中身の境目が見えない・安心のために資格を必須にする・法務の目で見る人がいないの三つ
- 基準は「無いと自社の法務の中身を回せないか」。必須は中身を回した経験・一人か少人数で回した経験・事業部門との調整の経験(中身による)の三つ
- 他の中身・資格・英文契約・業界は歓迎。形容詞は要件から外し、面接で確かめる項目に
- 手順は中身と分担を一文に→無いと困る経験を書き出して問う→体制と重心の要件を足す→残りを歓迎に
- 経歴で確かめるのは中身・規模・分担・体制・一人目か・調整・資格の有無。面接で確かめるのは判断の質(法務の分かる人が)・伝え方と板挟みの動き(経営者が)・流れを作る仕事を引き受けられるか
- 「事業会社の法務経験」と書くと弁護士が、「弁護士資格」と書くと事業会社の法務経験者が該当しないと読む。中身で書く
- 決まらないときは中身・分担・資格の要否・法務の目のどれかが先に決まっていない
よくある質問
契約審査とコンプライアンスの両方を一人に担ってほしいので、両方を必須にしたいのですが
両方を担ってもらうとしても、必須は「最初の一年の中身」だけにします。「契約審査を回した経験」を必須、「コンプライアンスの経験」を歓迎にし、コンプライアンスは二年目以降か、当面は顧問弁護士と経営者で回す。両方を必須にすると、該当者が大きく減り、該当しても「一人で全部」と読まれて見送られます。両方の経験がある人は、一人目の法務の経験者に多いので、「一人か少人数で回した経験」を必須に入れておけば、両方できる人が自然と集まります。
弁護士資格を必須にしないと、判断の質が担保されませんか
判断の質は、資格ではなく「難しい案件を顧問弁護士に出す線引きができるか」と「一次審査の経験の深さ」で担保します。顧問弁護士に難しい案件を出す分担なら、社内の法務に要るのは「線引きができる」「一次審査を回せる」「事業部門と調整できる」ことで、資格が無くても経験があれば足ります。資格が要るのは、訴訟対応を社内で担う、弁護士としての意見を社内で出す必要がある、といった場合です。「安心」で必須にすると、事業会社で契約審査を積んだ人が外れ、母集団が大きく減ります。資格の要否に関わる判断は、顧問弁護士など専門家にご確認ください。
「法務経験五年以上」は書かないほうがよいのですか
年数だけの要件は、中身の違う人を集めます。書くなら「契約審査を回した経験が五年程度」のように、中身と組み合わせます。年数の目安が無いと不安な場合も、「〇年」より「事業部門から上がる契約書の一次審査を一人で回した経験」「ひな形を整備した経験」のように、経験の中身で書くほうが、経歴で確かめやすく、該当する人に届きます。