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採用代行との競業避止・引き抜き禁止条項

公開 2026-09-07

採用代行の契約書に、引き抜きの禁止や競業に関する条項が置かれることがあります。採用という業務の性質上、代行会社は自社の社員の情報にも、候補者の情報にも触れます。だから条項を置く発想は自然ですが、範囲を広く取りすぎると相手が受け入れられず、狭すぎると意味がありません。この記事では、条項の三つの方向と、範囲の絞り方を整理します。なお、条項の有効性や解釈は個別の事情で変わるため、締結前に弁護士など専門家にご確認ください

三つの方向がある

この種の条項は、誰が誰に対して何を約束するかで三つに分かれます。混同されやすいので、分けて考えます。

一.代行会社が、自社の社員を引き抜かない。代行の担当者は、採用の過程で自社の組織や社員の情報に触れます。そこで得た情報をもとに、自社の社員に転職の勧誘をしない、という取り決めです。

二.自社が、代行会社の担当者を引き抜かない。逆向きの条項です。優秀な担当者を自社の社員として採用したくなる場面は実際にあります。代行会社の側から求められることが多い条項です。

三.代行会社が、競合他社に同種の業務を提供しない。いわゆる競業の制限です。この三番目は、実務では受け入れられにくい条項になります。

三番目が通りにくい理由

代行会社は、複数の会社の採用を担うことで事業が成り立っています。特定の業界や職種の経験を積み、その知見を他社の案件にも活かす。この構造そのものが、代行会社の価値の源でもあります。

だから、競合他社への提供を制限すると、相手にとっては事業の一部を止めることになります。応じるとしても、その分の対価が求められるのが自然です。

それに、制限したところで得られるものは限られています。代行会社が競合の採用も担っていることで、自社が不利になる場面は、実際には多くありません。候補者の取り合いが起きる可能性はありますが、それは媒体を共有している時点で起きていることでもあります。

実務的には、競業そのものを禁じるより、情報の取り扱いを厳しくするほうが目的に合います。自社の要件、給与テーブル、組織の課題が他社に流れないこと。これは秘密保持の取り決めで対応できます。範囲の決め方は候補者情報とNDAの範囲にまとめています。

エラベルの見解

引き抜き禁止の条項で、実務上いちばん意味があるのは一番目、代行会社が自社の社員を勧誘しないことです。ここは絞って書くと通りやすくなります。

範囲を絞るとは、次のようなことです。対象を「本契約の履行の過程で知り得た自社の従業員」に限る。期間を契約期間中と終了後の一定期間に限る。勧誘の態様を「積極的な勧誘」に限り、公募への応募まで妨げない。

最後の点が重要です。自社の社員が自ら代行会社の求人に応募した場合まで禁じる書き方だと、個人の職業選択に関わる話になります。条項の書き方としても、有効性の観点からも、範囲を絞るほうが安全です。この点の判断は専門家にご確認ください。

そして、二番目の「自社が代行の担当者を引き抜かない」も、同じ考え方で範囲を絞ります。優秀な担当者を採用したいと感じるのは自然なことですが、相手の事業を損なう形での勧誘は関係を壊します。

双方向で置いておくと、交渉は通りやすくなります。片側だけを求めると、相手は防御的になります。

候補者の帰属との関係

引き抜きの条項とは別に、候補者の帰属という論点があります。混ざりやすいので分けます。

代行が接触した候補者を、代行会社が別の案件で紹介できるか。この会社が有料職業紹介の許可も持っている場合、実際に起こり得る場面です。

決めておくのは次のあたりです。

候補者の側から見れば、職業選択の自由があります。だから「その候補者が他社に転職することを禁じる」という形にはできません。取り決められるのは、代行会社が業務で得た情報を他の目的に使わないことです。目的外使用の禁止として、秘密保持の取り決めに含める形が実務的です。

条項に書くときの項目

置く場合、次を明確にします。

例外を書いておくことが、条項を機能させます。例外がない条項は、実際の場面で適用が難しくなり、結局は使われません。

契約書全体の確認項目は業務委託契約書で確認する10項目にまとめています。条項の作り方や表現については、契約全体との整合も含めて専門家にご確認ください

再委託先まで及ぶか

代行会社が業務委託のパートナーに実務を任せている場合、条項がその先まで及ぶかを確認します。

及ばない書き方だと、実効性が薄くなります。実際に自社の情報に触れているのはパートナーだからです。再委託先にも同等の義務を課す条項があるか、そして再委託先の行為について代行会社が責任を負う建て付けかを見ます。再委託の扱いは再委託はどこまで許容するかで扱っています。

エラベルの見解

条項の交渉をするとき、相手がどこに反応するかで、事業の建て付けが見えます

引き抜き禁止に素直に応じる会社は、採用代行を本業として運営しています。競業の制限に強く抵抗する会社は、複数の同業を担当していて、そこが強みになっている。候補者の帰属に慎重な会社は、紹介事業も持っている可能性があります。

どれも悪いことではありません。ただ、自社が何を期待して契約するかによって、噛み合う相手が変わります。同じ業界の採用を多く手がけている会社は、業界の知見という点では有利です。その代わり、競業の制限は難しくなります。

だから、条項の交渉は相手の事業構造を知る機会として使ってください。条項を勝ち取ることが目的ではありません。

そして、実際に自社を守るのは条項より運用です。渡す情報の範囲を絞る、権限を最小にする、棚卸しを続ける。契約書に書けることには限りがあり、日々の設計のほうが効きます。情報管理の設計は情報漏えいを防ぐ設計にまとめています。

まとめ

よくある質問

引き抜き禁止の条項はどのくらいの期間を置くものですか

期間の設定は契約によって幅があります。長すぎる期間は、条項の有効性という観点でも、相手の受け入れやすさという観点でも不利になります。契約期間中と、終了後の一定期間という組み立てが一般的な形です。具体的な期間の妥当性は、事情によって変わるため専門家にご確認ください。

代行会社の担当者を自社で採用したい場合はどうすればよいですか

契約に引き抜き禁止の条項がある場合は、まず条項を確認します。そのうえで、代行会社に相談する形が実務的です。黙って進めると関係が壊れ、契約上の問題にもなります。相談したうえで合意できる場合もあります。本人の意思が先にある場合でも、経緯を説明しておくほうが後が円滑です。

条項がない契約でも、引き抜きは問題になりますか

条項がなくても、取引上の信義や、業務で得た情報の使い方という観点で問題になり得ます。判断は個別の事情によるため、専門家にご確認ください。実務としては、条項の有無にかかわらず、相手に相談してから進めるほうが関係を保てます。