採用代行 / 費用・契約・法務
採用代行の業務委託契約書で確認する10項目
採用代行の契約書は、他の業務委託契約と大きくは変わりません。ただ、採用という業務の性質から、注意して読む条項が決まっています。人の情報を扱うこと、社外の担当者が自社の名前で候補者と接すること、そして成果が数字で測りにくいこと。この三つが、他の外注契約と違う点です。この記事では、契約書を範囲・お金・終わり方の三つに整理して、確認する項目を順に並べます。
契約書は三つのかたまりで読む
条項の並び順に読むと、どこが重要か分かりにくくなります。次の三つに分けて読むと整理しやすくなります。
| かたまり | 何を決めているか | 主な条項 |
|---|---|---|
| 範囲 | 何を、誰が、どこまでやるか | 業務内容、指揮命令、再委託、担当体制 |
| お金 | いくらを、いつ、どう払うか | 委託料、支払条件、実費、追加費用 |
| 終わり方 | どう終わり、何が残るか | 期間、更新、解約、成果物、データ、秘密保持 |
契約後にもめるのは、たいてい範囲と終わり方です。お金の条項は金額が明記されるので認識がずれにくく、範囲と終わり方は解釈の幅があるためです。
確認する10項目
一.業務範囲が工程で書かれているか。「採用支援業務」の一行で終わっている契約書は、範囲の解釈が後で分かれます。母集団形成・応募対応・日程調整・一次仕分け・レポート、のように分解し、別紙に落としてもらいます。「その他付随する業務」で締めるなら、何が付随に入るかの目安も決めておきます。
二.契約の性質が明確か。採用代行は、業務の遂行を約束する形(準委任)で結ばれることが一般的です。特定の成果の完成を約束する形(請負)とは、責任の重さも報酬の発生条件も変わります。契約書の表題ではなく、条項の中身がどちらの建て付けになっているかを見ます。
三.指揮命令の線が引かれているか。委託先の担当者に自社が直接指示を出す形になると、労働者派遣まわりの論点が生じます。窓口を通したやりとりにする、作業の進め方は受託者が決める、といった整理が条項に反映されているかを確認します。この点は採用代行が偽装請負になる境界線で詳しく扱っています。
四.委託料と支払条件。金額、算定の根拠(固定か時間単価か成果報酬か)、締め日と支払日、消費税の扱い。時間単価型なら、何を稼働に数えるかまで書かれているかを見ます。
五.実費と追加費用。媒体掲載費、スカウトの従量課金、採用管理システムの利用料を誰が負担するか。想定を超えたときの追加費用の単価と、その発生前に連絡が来る運用になっているか。
六.契約期間と更新。開始日、期間、最低契約期間の有無、自動更新の有無と予告期限。予告期限は締結時にカレンダーへ入れておきます。詳しくは自動更新条項で気をつけることにまとめています。
七.解約の条件。予告期間、中途解約時の費用、債務不履行があった場合の解除。担当者が交代した場合に発注側から解約できる条項を入れられるかも、交渉の余地があります。
八.再委託の可否。受託者が別の事業者や個人に業務を再委託できるか。できる場合、事前承諾が要るのか、再委託先にも同じ義務が及ぶのか。採用代行では、実務を業務委託のパートナーが担うことがあるため、確認しておく項目です。
九.秘密保持と個人情報の取り扱い。候補者の情報、社内の採用計画、給与テーブル。何が秘密情報にあたるか、契約終了後にどう扱うかを見ます。個人データの取り扱いを委託する場合、委託元には委託先を監督する立場が生じると一般に整理されています。候補者情報とNDAの範囲と個人情報保護法と委託先の監督で扱っています。
十.成果物とデータの権利、引き渡し。求人原稿、スカウト文面、検索条件、応募者データ。誰に帰属し、契約終了時にどの形式で引き渡されるか。ここが決まっていないと、代行会社を替えるときに作り直しになります。
このほか、損害賠償の上限、反社会的勢力の排除、準拠法と管轄も一般的な条項として入ります。内容に不明な点があるときは、締結前に弁護士など専門家にご確認ください。
エラベルの見解
契約書のレビューで、発注側が最も足せていないのは担当体制の条項です。業務範囲は別紙まで作るのに、誰がその業務をやるかはどこにも書かれない。これが採用代行の契約で一番よく見る形です。
書けることは三つあります。担当者の稼働時間の目安、同時に担当する社数の上限、担当者を交代する場合の事前通知。この三つを条項か別紙に入れておくと、運用が変わったときに話し合いの土台ができます。
もちろん、代行会社の側にも事情があります。人員の配置は自社の裁量で決めたい、特定の個人を約束すると退職時に困る。だから「特定の氏名を約束する」形ではなく、条件を書く形にします。週にこれだけの稼働を確保する、同時担当はこの数まで、交代時は事前に知らせる。これなら応じられる会社は多くあります。
商談でこの話をすると、相手の体制も見えます。すぐ数字が出る会社は、社内で稼働を管理できています。
特にもめやすい三つ
業務範囲の「その他」。採用は動き出すと隣接業務が生まれます。急な職種追加、面接官の代理対応、内定者フォロー。範囲外が発生する前提で、追加のルールを先に決めておくほうが運用は楽になります。
成果物の権利。作った文面や検索条件が受託者に帰属する契約だと、契約終了後に使えません。初期費用を払っているなら、なおさら帰属を明記しておくところです。
再委託先の管理。再委託が可能な契約で、再委託先が個人事業主のパートナーである場合、秘密保持と個人情報の義務が同じ内容で及んでいるかを確認します。及んでいないと、監督の実態が作れません。
契約前にそろえておく自社側の資料
契約書を読む前に、次を用意しておくとレビューが速くなります。
- 依頼したい工程の一覧(社内に残す業務との線引き)
- 想定する稼働量と期間
- 使っている媒体・採用管理システムと、その契約名義
- 候補者情報の取り扱いに関する自社のルール
- 過去に採用代行を使った経験があれば、そのとき困った点
この五つがあると、契約書の読み方が変わります。何を守りたいかが決まっていない状態で条項を読むと、一般的なチェックリストをなぞるだけで終わります。自社の事情に照らして読むと、足すべき条項が見えます。
エラベルの見解
契約書のレビューを法務だけに任せると、抜けるところがあります。運用の現場でしか気づけない条項です。
たとえば、稼働報告の粒度。契約書に「月次で報告する」とだけ書いてあると、法務の目では問題ありません。しかし運用する側から見れば、工程ごとの内訳と成果物の量が並んでいない報告は、判断に使えません。あるいは、連絡窓口。窓口を一本化する条項は指揮命令の整理としては正しいのですが、実務では急ぎの確認が止まることがあります。
だから契約書は、法務のレビューと、運用する人のレビューを分けて通すほうが結果が良くなります。運用する人が見るのは、報告の形、連絡の経路、担当体制、範囲外が出たときの手順。この四つです。法務が見るのは責任と権利の配分。両方を通した契約書は、締結後に読み返す回数が減ります。
まとめ
- 契約書は範囲・お金・終わり方の三つに分けて読む。もめるのは範囲と終わり方
- 業務範囲は工程で分解し、別紙に落とす。「その他付随業務」の中身も目安を決める
- 指揮命令の線が条項に反映されているかを見る
- 再委託の可否と、再委託先への義務の及び方を確認する
- 成果物とデータの権利の帰属と引き渡し形式を明記する
- 契約書に足りないのは担当体制の条項。氏名ではなく条件で書く
- レビューは法務と運用する人の二本で通す
よくある質問
代行会社が用意した契約書をそのまま使っても問題ありませんか
多くの場合、内容として不当なものではありません。ただ、相手が用意した書式は相手の運用に合わせて作られているため、自社の事情に照らして足すべき条項が出てきます。特に担当体制、稼働報告の粒度、成果物の帰属は、書式に入っていないことが多い項目です。気になる条項があるときは専門家にご確認ください。
契約書のほかに交わしておくものはありますか
業務範囲を細かく定めた別紙、秘密保持に関する取り決め、個人データの取り扱いに関する覚書。この三つは分けて作られることがあります。あわせて、稼働報告の様式と定例会の頻度を決めた運用ルールを文書にしておくと、担当者が交代しても運用が引き継がれます。
契約の途中で範囲を変えることはできますか
覚書を交わす形で変更するのが一般的です。採用は状況が変わる領域なので、範囲の変更は起こる前提で考えておくほうが実務に合います。締結時に「協議のうえ変更できる」という条項があるかを確認し、変更したときは口頭で済ませず書面に残します。