採用代行 / 費用・契約・法務
代行が作ったマニュアルの権利は誰のものか
採用代行が作った求人原稿、スカウト文面、選考のマニュアル。これらの権利は誰のものか。契約に定めがなければ、当然に自社のものになるとは限りません。作成したのは受託者側だからです。この扱いは契約で決められるので、締結時に確認しておく項目になります。この記事では、線引きの考え方と、契約に書く内容を整理します。なお、権利の帰属や解釈は個別の事情で変わるため、締結前に弁護士など専門家にご確認ください。
二種類が混ざっている
代行会社が持ち込むものと、自社のために作られるものは分けて考えます。
| 種類 | 例 | 帰属の考え方 |
|---|---|---|
| 汎用の型 | 代行会社が他社でも使う文面のテンプレート、選考フローの雛形、報告の様式 | 代行会社に残るのが自然 |
| 個別の成果物 | 自社の要件に合わせて書かれた求人原稿、自社向けのスカウト文面、自社の検索条件 | 自社に帰属させたい |
| 混ざったもの | 汎用の型を自社向けに改稿したもの | 契約で線を決める |
三番目が実務でいちばん多い。代行会社が持っている型をもとに、自社の情報を入れて作り込む。この場合、どこまでが自社のもので、どこからが代行会社のものかが曖昧になります。
だから、契約では「本業務のために作成された成果物」の範囲を具体的に列挙する形が実務的です。求人原稿、スカウト文面、検索条件、連絡テンプレート、要件定義書。名前を挙げておけば、解釈の幅が減ります。
契約に書く項目
- 帰属(本業務のために作成された成果物の権利が、どちらに帰属するか)
- 対象の範囲(何を成果物とするか。具体的に列挙する)
- 引き渡しの形式(編集できる形式で受け取れるか)
- 引き渡しの時期(都度か、契約終了時か)
- 自社の利用範囲(契約終了後も使えるか、改変できるか)
- 代行会社の利用範囲(他社の案件に転用しないこと)
- 第三者の権利(使用した画像や素材に第三者の権利が含まれていないか)
五番目と六番目が対になります。自社が終了後も使えること、代行会社が他社に転用しないこと。両方を書いておくと、双方の期待がそろいます。
七番目は見落とされやすい項目です。求人原稿に画像を使っている場合、その画像の権利がどうなっているか。素材の利用条件によっては、契約終了後に使えないことがあります。
エラベルの見解
権利の帰属を求めるとき、代行会社の側の事情も理解しておくと交渉が進みます。
代行会社にとって、蓄積した型は事業の資産です。何社もの案件を通じて磨いた文面の構成、選考フローの設計、報告の様式。これらを一社に帰属させると、他社の案件で使えなくなります。当然、応じられません。
だから、求めるのは汎用の型ではなく、自社のために作られた個別の成果物に絞ってください。「自社の職種の要件が書かれた原稿」「自社の事業について説明した文面」「自社の要件に基づく検索条件」。これらは、他社では使えないものです。帰属を自社にしても、代行会社の資産は損なわれません。
この線を引いて伝えると、応じる会社は多くあります。「作られたものすべて」と求めると、話がまとまりにくくなります。
そして、線が引けること自体が、その会社の運用が整っている証拠でもあります。汎用の型と個別の作り込みを分けて管理している会社は、担当者が替わっても品質が保てます。
引き渡しの形式が実務を決める
権利が自社に帰属していても、受け取れる形式でなければ使えません。
編集できる形式か。文書ファイル、表計算、テキスト。閲覧しかできない形式だと、次の依頼先で改稿できません。
代行会社のツールの中だけにないか。独自の管理ツールに文面や条件が入っている場合、書き出せるかを確認します。
媒体の管理画面にしかないものはないか。入稿した原稿や検索条件が媒体の中だけにある場合、書き出しておきます。媒体の扱いは媒体アカウントを代行に渡すときの注意点にまとめています。
引き渡しの時期を都度にするという選択もあります。契約終了時にまとめて受け取るより、作られた時点で共有の場所に置く運用にしておけば、回収の作業自体が不要になります。
判断の基準や暗黙知はどう扱うか
形のある成果物とは別に、言語化されていない判断があります。書類の見方、条件の設計意図、候補者の見極め。
これらは権利の対象として扱いにくい。形になっていないものは、契約で帰属を定めても受け取れません。
だから、運用の中で言語化してもらうことになります。稼働報告に判断の理由を書いてもらう、定例会で「なぜそうしたか」を聞いて議事に残す。言語化されて初めて、成果物として扱えます。
蓄積を残す設計は採用ノウハウを社内に残す契約の作り方にまとめています。権利の条項と、言語化の運用は両方あって機能します。
契約に定めがない場合
すでに運用が始まっていて、契約に帰属の定めがない場合の対処です。
まず契約書を確認する。秘密保持や業務範囲の条項の中に、成果物に関する記載があることがあります。
覚書を交わす。運用の途中でも、成果物の帰属について覚書を追加できます。更新のタイミングなら話を持ち出しやすくなります。
受け取れる形で共有してもらう。帰属の議論とは別に、作られたものを編集できる形式で共有してもらう運用にする。実務としては、これで多くの場面は足ります。
次の契約で入れる。今回困った点を記録しておき、次の契約書のレビューで反映します。
エラベルの見解
成果物の帰属について交渉するとき、「終わるときのため」ではなく「使うため」という説明にすると通りやすくなります。
帰属を求める理由を「契約が終わったときに使えるように」と伝えると、相手は終了を前提とした話として受け取ります。関係の始まりで持ち出す話としては、少し構えられます。
そうではなく、「社内の他部署でも使いたい」「採用サイトにも転載したい」「面接官への説明資料に使いたい」という形で伝える。実際にそういう用途があるはずです。求人原稿は採用サイトにも載りますし、要件定義書は面接官にも共有します。
この説明なら、相手も自然に応じられます。そして結果として、契約終了時にも使える状態になります。
もう一つ、都度共有の運用にしてしまうのが最も簡単です。作られた文面や条件を、共有の場所に置いてもらう。権利の議論をしなくても、手元にある状態が作れます。
権利の条項は置いておくべきですが、実務としては置き場所の設計のほうが効きます。
まとめ
- 契約に定めがなければ、当然に自社のものになるとは限らない
- 汎用の型と個別の成果物を分ける。求めるのは後者に絞る
- 契約には、帰属・対象の範囲・引き渡しの形式と時期・双方の利用範囲・第三者の権利を書く
- 権利があっても、編集できる形式で受け取れなければ使えない
- 独自ツールや媒体の中だけにあるものは、書き出せるか確認する
- 言語化されていない判断は権利の対象にしにくい。運用で言語化してもらう
- 定めがないなら、覚書か共有の運用で実務は足りることが多い
- 交渉は「終わるときのため」ではなく「使うため」と伝えると通りやすい
よくある質問
求人原稿を採用サイトにも転載してよいですか
契約の利用範囲によります。自社の利用範囲として「媒体への掲載に限る」と書かれていれば、転載には確認が要ります。作成を依頼する段階で、想定する用途を伝えておくと後の確認が減ります。判断に迷う点は専門家にご確認ください。
代行会社が作った文面を、次の依頼先に渡してよいですか
権利が自社に帰属していれば、通常は問題ありません。帰属が代行会社に残る契約なら、渡すことが制限される場合があります。契約書を確認し、不明なら締結時の担当に確認してください。次の契約では、この点を明記しておきます。
共同で作った成果物の扱いはどうなりますか
自社が要件や情報を提供し、代行会社が形にした場合、実務では契約の定めに従って扱われることが一般的です。定めがないと解釈が分かれるため、締結時に決めておくのが確実です。作成の過程が共同になることを前提に、範囲を具体的に列挙しておきます。