採用代行 / 費用・契約・法務
早期退職時の保証条項は付けられるか
採用した人が短期間で退職した場合、採用代行の費用は戻るのか。採用代行に定着の保証を求める条項は、構造的に馴染みません。代行が担っているのは採用の業務であり、入社後の配属・育成・評価は自社の領域だからです。とはいえ、早期退職が続けば費用は無駄になります。この記事では、保証条項が難しい理由と、代わりに置ける取り決めを整理します。
保証が馴染まない理由
早期退職の原因は、採用の工程だけでは説明できません。
- 入社後の配属が、選考時の話と違った
- 受け入れ体制が整っていなかった
- 上司との関係がうまくいかなかった
- 実際の業務内容が想定と違った
- 評価や処遇への納得が得られなかった
- 家庭の事情など、個人の状況が変わった
このうち採用の工程に関係するのは、選考時の説明と実際のずれくらいです。しかもその説明を行うのは、多くの場合は面接官である自社の社員です。代行が候補者と接する範囲は、母集団形成から日程調整までであることが多く、入社後の状況を左右する立場にありません。
人材紹介では、入社後の一定期間内の退職について手数料の一部が返金される定めが置かれていることがあります。これは、報酬が採用の成立に紐づいているためです。成立が短期間で覆った場合の調整として置かれています。代行は業務に払う契約なので、同じ建て付けは作りにくい。両者の費用構造の違いは人材紹介との違い|費用構造で比べるにまとめています。
それでも置ける取り決め
保証そのものは難しくても、次のような形なら合意できることがあります。
再募集時の稼働。早期退職が出た場合、同一ポジションの再募集にかかる稼働を一定範囲まで追加費用なしで行う。これは費用の返還ではなく、稼働の追加という形です。代行側も引き受けやすく、発注側にとっても実益があります。
成果報酬の一部留保。成果報酬型で入社を成果としている場合、報酬の一部を入社後の一定時点まで留保する。全額を後払いにすると代行側の負担が重いため、一部にとどめます。
入社後の状況の共有。入社した人が定着しているかを、代行会社と共有する運用にする。費用の取り決めではありませんが、次の採用に活きます。どんな人が定着し、どんな人が早く辞めたかが分かると、要件の見直しに使えます。
選考時の情報提供の範囲を広げる。候補者に渡す情報を増やし、入社後のずれを減らす。職務内容の詳細、想定される難しさ、評価の考え方。これらを求人原稿や面談の案内に含める作業を、代行の範囲に入れます。
エラベルの見解
早期退職が続いている会社に共通するのは、採用の要件と、入社後の実態がずれていることです。そしてこのずれは、代行会社を替えても直りません。
よくあるのは、求人に書かれた役割が実際より広いか、狭いかのどちらかです。広く書きすぎると、入社後に「聞いていた仕事ではない」となる。狭く書きすぎると、実際には広い範囲を任されて負荷が合わない。どちらも、要件を作る段階で現場の実態を反映しきれていないことが原因です。
だから、早期退職への対処は保証条項ではなく、要件の作り直しになります。直近で退職した人がなぜ辞めたかを聞き、その内容を要件に反映する。任される範囲、想定される難しさ、評価のされ方。これらを言葉にして、選考の早い段階で候補者に伝える。
代行に頼めるのは、この言葉を求人原稿と面談の案内に落とし込む作業です。元になる情報を出せるのは自社だけなので、ここは外注できません。順番として、要件の見直しが先で、代行の運用はその後です。
定着を左右する要素の切り分け
早期退職が起きたとき、原因を切り分ける手順です。
- 退職の時点を見る。入社直後か、数か月経ってからか。直後なら受け入れの問題、時間が経ってからなら業務内容や評価の問題である可能性が高くなります
- 本人の言葉を記録する。退職時の面談で理由を聞き、記録に残します。表向きの理由と実際の理由が違うことはありますが、記録の蓄積で傾向は見えます
- 選考時の説明と実態を突き合わせる。求人原稿、面談で伝えた内容、実際の配属と業務を並べます
- 同じ経路の他の入社者と比べる。同じ媒体、同じ紹介会社、同じ代行の運用から入社した人の定着を見ます
- 配属先の状況を見る。同じ部署で複数の早期退職が出ているなら、採用の問題ではありません
四番で経路ごとの差が出たときに初めて、採用の運用が原因である可能性が出てきます。特定の経路の入社者だけが早く辞めているなら、その経路での訴求や候補者層に要因があるかもしれません。差がないなら、原因は入社後の側にあります。
契約に入れるなら書くこと
再募集の稼働や報酬の留保を契約に入れる場合、次を明確にします。
- 対象となる期間(入社後どの時点までの退職を対象とするか)
- 対象外となる場合(自社都合の解雇、事業の変更による配属変更、本人の家庭の事情など)
- 稼働の範囲(再募集で行う業務と、その上限)
- 回数の上限(同一ポジションで何回まで対象とするか)
- 手続き(退職の連絡から、再募集の開始までの流れ)
対象外となる場合の書き方が重要です。入社後に配属を変えた、担当業務を大きく変えた、といった自社側の事情による退職まで対象にすると、代行側は引き受けられません。責めに帰さない事由を並べておきます。
条項の作り方や表現については、契約書全体との整合も含めて専門家にご確認ください。契約書の確認項目は業務委託契約書で確認する10項目にまとめています。
エラベルの見解
保証条項を求める交渉をするより、選考の段階で候補者に渡す情報を増やすほうが、定着には効きます。
具体的には、良いことだけでなく難しいことも伝える。人員が足りていない、仕組みが整っていない、最初の数か月は手探りになる。こうした情報を面談の段階で伝えると、候補者の一部は辞退します。それは母集団の減少ですが、入社後のずれも減ります。
この方針を採ると、採用の数字は一時的に悪く見えます。面談から内定への率が下がるからです。だから、代行会社との定例会でこの方針を共有しておく必要があります。共有していないと、代行側は率を上げようとして良い面を強調する方向に動きます。報酬が成果に連動していれば、なおさらです。
つまり、定着を上げる運用は、発注側が方針として決めて、代行側と共有して初めて成立します。契約条項で保証を取り付けるより、この共有のほうが実際の結果に効く。指標を面談数や内定数だけに置かず、入社後の定着まで見る運用にすると、双方の動き方が変わります。
まとめ
- 採用代行に定着の保証を求める条項は構造的に馴染まない。入社後は自社の領域
- 人材紹介の返金規定は、報酬が採用の成立に紐づいているから成り立つ
- 代わりに置けるのは、再募集時の稼働・報酬の一部留保・入社後の状況共有・情報提供の拡充
- 早期退職が続くのは、要件と入社後の実態がずれていることが多い
- 切り分けは、退職の時点・本人の言葉・説明と実態の突き合わせ・経路ごとの比較・配属先の状況
- 条項に入れるなら、対象外となる場合を明確に書く
- 定着に効くのは条項より、選考段階で難しいことも伝える方針を代行と共有すること
よくある質問
早期退職が出たら代行費用の減額を求められますか
契約に定めがなければ難しいのが一般的です。業務は契約どおり遂行されており、退職は業務の遂行とは別の事象として扱われるためです。減額を求めるより、再募集の稼働について相談するほうが実務的です。次回の契約時に、再募集の取り決めを入れておくことを検討します。
入社後のフォローを代行にお願いできますか
内定者への定期連絡や入社手続きの案内までを範囲に含めることはできます。ただし、入社後の育成や評価は自社が担う領域です。外部の担当者が入社後の社員と継続的に関わる形は、業務の性質としても情報の扱いとしても整理が要ります。範囲を決めるときは、どこまでが採用の工程かで線を引きます。
定着率を代行会社の評価指標にできますか
指標として共有すること自体は有効です。ただし報酬に連動させると、代行側が制御できない要素で報酬が決まるため、単価が上がるか引き受けられないことがあります。報酬とは切り離した上で、定例会で共有する指標として扱う形が現実的です。数字を共有すると、候補者への伝え方が変わることがあります。