採用代行 / 採用の課題
提示年収が市場と合っていない|「上げる」だけでなく、幅・内訳・役割の見せ方・比べる相手を直す
求人を出しても応募が来ない。来ても、年収の希望を聞くと、提示できる額と開きがある。内定を出しても、「他社の条件のほうが良い」と辞退される。紹介会社に聞くと、「その年収では、その要件の方は厳しい」と言われる。結論を先に書くと、提示年収が市場と合っていないとき、打ち手は「上げる」だけではありません。年収の幅の出し方、内訳の見せ方、役割と条件の対応、比べられている相手の把握、要件の見直し。この五つを見たうえで、上げるかどうかを経営者が判断します。上げられない場合も、合う候補者に届く設計はあります。候補者への年収の提示を代行に任せる話は候補者への年収提示を代行に任せてよいかに、手数料の問題は紹介手数料が高くて採れないにまとめています。
市場と合っていない状態の見分け方
年収が市場と合っていないかどうかは、記録で分かります。
| 兆候 | 見方 |
|---|---|
| 応募が来ない | 求人票の年収を見て、候補者が応募の前に離れている。求人票の閲覧はあるのに応募が無い場合、年収か要件 |
| 応募は来るが、要件を満たす人がいない | 提示の年収に見合う経験の人だけが応募している。要件と年収が釣り合っていない |
| 面接で、年収の希望が提示より高い人が続く | 候補者の希望と提示の開きが、記録で見える。開きの幅が、市場とのずれの目安 |
| 内定を辞退され、理由が「他社の条件」 | 比べられている相手に負けている。辞退の理由を記録する |
| 紹介会社が「その年収では厳しい」と言う | 紹介会社は市場を見ている。「どのくらいなら該当する人がいるか」を聞く |
| スカウトの返信率が低い | スカウト文に年収があれば、年収で判断されている可能性 |
兆候が複数あれば、年収が市場と合っていない可能性が高いです。ただし、求人票が薄い、返信が遅い、といった別の原因も同じ兆候を出すので、切り分けます。
市場の水準の調べ方
市場の水準を、自社で調べる方法です。
同じ職種の他社の求人票を見る。 媒体で、同じ職種・同じ要件の求人を検索し、提示されている年収の幅を見ます。自社の提示と並べます。他社の求人票は公開情報ですが、自社の記事や資料に数字を載せる場合は出典を明記します。
紹介会社に聞く。 「この要件の方は、いまどのくらいの年収で動いていますか」。紹介会社は、候補者の希望と決定の水準を日々見ています。複数の紹介会社に聞き、ばらつきを見ます。
面接で、候補者の希望と現職の水準を記録する。 面接で聞ける範囲で、候補者の希望と現在の水準を記録し、提示との開きを集計します。自社の記録が、最も自社に近い市場の情報です。個人情報の扱いは社内の規程に沿います。
辞退の理由から、比べられた相手の条件を知る。 「他社の条件」で辞退された場合、可能な範囲で、他社の提示を聞きます。紹介会社経由なら、紹介会社が把握していることがあります。
媒体の担当者に聞く。 媒体は、職種ごとの年収の傾向を把握していることがあります。参考にし、数字を使う場合は出典を明記します。
公開されている統計は、参考にとどめる。 公的な統計や調査の数字は、職種の定義や集計の範囲が自社と合わないことがあります。参考にし、そのまま自社の判断の根拠にしません。引用する場合は出典を明記します。
調べた水準は、一枚にまとめて、経営者への判断の材料にします。
年収を上げる以外の打ち手
年収を上げられない、または上げる前にやることがあります。
年収の幅を出す。 「〇〇円」の一点提示より、「〇〇〜△△円(経験と役割で決定)」の幅提示のほうが、候補者は「自分はどこか」を想像でき、応募の入口が広がります。上限を上げられなくても、幅の見せ方で変わります。提示の場面での伝え方は候補者への年収提示を代行に任せてよいかにも書いています。
内訳を見せる。 基本給、賞与、手当、残業代の扱い。「年収〇〇円」だけでは、候補者は「基本給が低くて賞与頼み」と警戒することがあります。内訳が明確なら、同じ額でも受け取り方が変わります。
役割と年収の対応を示す。 「この役割なら、この幅。こういう成果で、この水準に上がる」。入社後の見通しが見えれば、入口の年収が多少低くても、候補者は判断できます。ただし、上がる見通しは、社内の制度と整合していることが前提です。
要件を見直す。 提示の年収に対して、要件が高すぎる場合、要件を「必須」と「あれば良い」に分け、必須を絞ります。年収を上げるのではなく、年収に見合う要件に直す選択です。
年収以外の条件を明確にする。 働き方(リモート、時間の柔軟さ)、休日、裁量、成長の機会。年収だけで決めない候補者に届く条件を、求人票に書きます。年収で負けていても、他で選ばれることはあります。
比べられている相手を変える。 大手と比べられれば負ける条件でも、同じ規模の会社と比べれば負けていないことがあります。求人票と媒体の選び方で、比べられる相手は変わります。
上げる以外の打ち手で変わらなければ、上げるかどうかの判断に進みます。
年収の幅と内訳の見せ方
見せ方の型です。
| 項目 | 見せ方 |
|---|---|
| 年収の幅 | 下限と上限を書き、「経験と役割に応じて決定」と添える。下限を低くしすぎると、応募の入口で離れる |
| 内訳 | 基本給の幅、賞与の有無と支給の考え方、手当、残業代の扱い(固定か、別途か)。制度の内容は社内の規程に沿って正確に |
| 役割との対応 | 「〇〇の役割(△△を決める):この幅」「□□の役割(△△に加えて◇◇を担う):この幅」。役割が上がれば年収が上がる関係を示す |
| 入社後の見通し | 評価と昇給の仕組みを、制度のとおりに。「頑張れば上がる」ではなく、「この評価でこの水準」 |
| 年収以外の条件 | 働き方、休日、裁量、成長の機会を、事実として書く。誇張しない |
| 比べる相手への意識 | 同じ規模の会社の求人票と並べて、負けていない項目を前に出す |
見せ方を変えるときの注意は、「書いたことが、入社後に事実であること」です。見せ方で応募を増やし、入社後にずれれば、早期の退職と不信を招きます。
エラベルの見解
相談で最も多い失敗は、「年収が市場より低いと分かったが、既存社員との整合が取れないので上げられず、そのまま求人を出し続けて半年採れなかった」というものです。上げられない判断自体は合理的です。ただ、上げる以外の打ち手(幅、内訳、役割との対応、要件の見直し)を何もやらずに、同じ求人票を出し続けていました。幅を出し、内訳を見せ、要件を絞ったら、同じ上限で応募が来始めました。上げられないなら、上げる以外の五つをやります。
見ていて差がつくのは、担当者が「市場の水準を自社の記録で示せる」かどうかです。「相場はこのくらいです」と一般の数字を言う担当者と、「面接した候補者の希望は、提示より平均でこのくらい上でした。辞退の理由の三件中二件が条件でした。紹介会社二社の見立てはこうです」と、自社の記録と聞き取りで示す担当者がいます。後者なら、経営者は自社の話として判断できます。
発注側にできるのは、担当者に「一般の相場」ではなく「自社の記録と、紹介会社の見立て」で市場の水準を出してもらうことです。
既存社員との整合
年収を上げる判断で、最も引っかかるのが、既存社員との整合です。
新しく採る人の年収が、既存の同じ役割の人より高くなる問題。 上げれば採れるが、既存社員が知れば不満になる。この問題は、採用の問題ではなく、社内の年収の制度の問題です。
役割で分ける。 新しく採る人の役割が、既存の人と違う(決める範囲が広い、担う領域が広い)なら、年収の違いは役割の違いとして説明できます。役割が同じなら、説明できません。
既存社員の年収を見直す機会にする。 市場より低い年収は、既存社員にも当てはまります。既存社員が転職市場で高く評価されるなら、離職の危険があります。採用の年収を上げるときに、既存社員の見直しも並べて判断します。制度の変更は、社内の規程と労務の観点で専門家に確認します。
上げられないなら、役割と要件を市場に合わせる。 提示の年収で採れる要件に絞る。「この年収で採れる人」を採り、育てる設計に変えます。
入社後の見通しで補う。 入口は既存社員と揃え、評価と昇給の制度で市場の水準に近づく見通しを示す。制度が実際にそう動くことが前提です。
既存社員との整合は、経営者の判断です。人事と担当者は、判断の材料(市場の水準、既存社員との差、離職の危険、役割の分け方)を出します。
経営者に判断してもらう伝え方
年収の判断は、経営者に持っていきます。伝え方です。
市場の水準を、自社の記録と聞き取りで示す。 一般の相場ではなく、面接の記録、辞退の理由、紹介会社の見立て、同じ職種の他社の求人票。
上げる以外の打ち手を、やった結果を示す。 「幅を出し、内訳を見せ、要件を絞りました。それでも応募と辞退がこうです」。やらずに「上げてください」では、経営者は判断できません。
選択肢を出す。 「上限を〇〇まで上げる」「上限は据え置き、要件を絞って育てる設計にする」「役割を分けて、新しい役割として上限を設定する」。推奨を付けて。
既存社員との整合の考え方を添える。 役割で分けられるか、既存社員の見直しを並べるか、入社後の見通しで補うか。
採れないことの事業への影響を、事業の言葉で示す。 「この職種が採れないと、〇〇が□か月遅れます」。
期限を付ける。 「今月中に決めていただければ、来月の求人票に反映できます」。
経営者が「上げない」と決めた場合、それは経営者の判断です。上げない前提で、要件と役割を市場に合わせる設計に移ります。経営者への伝え方は経営者に採用の状況が伝わらないにも書いています。
外注する場合の範囲
提示年収の問題を、採用代行に出す場合の範囲です。
出せる工程。 市場の水準の調べ方の設計と実行(他社の求人票、紹介会社と媒体の担当者への聞き取り)、面接での希望と辞退の理由の記録と集計、年収の幅と内訳と役割との対応の見せ方の案、要件の見直しの案、年収以外の条件の整理、経営者向けの判断の材料の一枚、決まった後の求人票への反映と全経路への展開。
社内に残す判断。 年収の上限と幅の決定、既存社員との整合、制度の変更、要件と役割の決定。
外注の効きどころ。 採用代行の担当者は、複数の会社で同じ職種の採用を見ているので、市場の水準の見立てを持っています。ただし、担当者の見立ても「一般の相場」ではなく、自社の記録と聞き取りで裏付けてもらいます。見せ方の案と、判断の材料の一枚は、担当者が数日で作れます。
外注しても動かない場合。 経営者が判断を先送りする、既存社員との整合を理由に何も変えない、要件も条件も据え置く。社内の判断で、代行を替えても直りません。
提示年収の問題は、市場の情報と、見せ方と、経営者の判断の問題です。外注は、情報と見せ方を整える速さを上げる手段です。
エラベルの見解
担当する側から見ると、年収の相談で最も多いのは、「年収を上げれば採れる、と思い込んでいる」ことです。上げても、求人票が薄く、返信が遅く、面接が三週間先なら、採れません。年収は条件の一つで、全部ではありません。
逆に、「上げられないから採れない」と諦めている会社も多いです。幅の出し方、内訳、役割との対応、要件の絞り込み、年収以外の条件。上げずにできることを全部やった会社は、同じ上限で採れています。
発注側にできるのは、「上げるか上げないか」の前に、「上げる以外の五つをやったか」を確認することです。
まとめ
- 合っていない兆候は応募が来ない・要件を満たす人がいない・希望との開き・条件での辞退・紹介会社の見立て・スカウトの返信率。別の原因と切り分ける
- 市場の水準は他社の求人票・紹介会社への聞き取り・面接の記録・辞退の理由・媒体の担当者で調べ、公開の統計は参考にとどめ、数字は出典を明記
- 上げる以外の打ち手は幅を出す・内訳を見せる・役割との対応・要件の見直し・年収以外の条件・比べられる相手を変える
- 見せ方は幅と決め方・内訳・役割との対応・入社後の見通し・年収以外・比べる相手。書いたことが入社後に事実であること
- 既存社員との整合は役割で分ける・既存社員の見直しを並べる・要件を市場に合わせる・見通しで補う。制度の変更は専門家に確認
- 経営者には自社の記録と聞き取り・上げる以外をやった結果・選択肢と推奨・整合の考え方・事業への影響・期限で伝える
- 外注できるのは調べ方と実行・記録と集計・見せ方の案・要件の案・判断の材料・反映。社内に残るのは年収の決定・整合・制度・要件と役割
よくある質問
年収を上げれば、応募は増えますか
年収が市場と合っていないことが原因なら、増えます。ただし、求人票が薄い、返信が遅い、面接が遅い、といった別の原因があれば、上げても増えません。上げる前に、兆候を切り分けます。面接で候補者の希望と提示の開きが記録で見えていて、辞退の理由が条件なら、年収が原因です。応募そのものが無く、求人票の閲覧も少ないなら、媒体や求人票の問題の可能性があります。
既存社員より高い年収で採ると、社内が荒れませんか
役割が同じなら、荒れる可能性があります。役割が違う(決める範囲が広い、担う領域が広い)なら、役割の違いとして説明できます。役割が同じで上げるなら、既存社員の見直しを並べて判断します。市場より低い年収は、既存社員の離職の危険でもあります。制度の変更は、社内の規程と労務の観点で専門家に確認します。
年収の幅を出すと、候補者は上限を期待しませんか
期待します。だから、「経験と役割に応じて決定」と添え、面接で「この経験と役割なら、この水準」と早めに伝えます。内定の段階で初めて下限に近い額を出すと、辞退されます。幅を出す目的は、応募の入口を広げることで、面接の中で候補者ごとの水準をすり合わせます。提示の場面の進め方は候補者への年収提示を代行に任せてよいかにも書いています。