契約書で決めておくこと|業務範囲・担当者・記録の帰属・出口の四つ
スカウト代行の契約書を見ると、金額・期間・支払い条件は書かれていても、「どこまでやるか」「誰がやるか」「終わったとき何が残るか」は曖昧なことが多くあります。もめるのは、まさにその曖昧な部分です。結論を先に書くと、契約書は業務範囲・担当者・記録の帰属・出口の四つの領域で読み、書かれていなければ覚書で足してください。金額の交渉より、この四つを書面にすることのほうが、後々の損失を防ぎます。見積もりの段階で確認する項目は見積もりで確認する項目に、解約の実務は解約と引き継ぎにまとめています。なお、契約の個別の判断は、弁護士などの専門家にご確認ください。
契約書で本当にもめるところ
代行会社の契約書は、代行会社側が用意したひな型であることがほとんどです。ひな型は、代行会社にとって都合の悪いことが起きないように書かれています。発注側にとって都合の悪いことは、書かれていないことで起きます。
たとえば、担当者が三か月で替わった。契約書に担当者の指定が無ければ、契約違反ではありません。送信の記録を求めたら「社内資料なので出せない」と言われた。帰属の条項が無ければ、出す義務はありません。解約したいが、三か月前の通知が要ると言われた。読んでいなかっただけで、書いてはあった。
こうした問題は、契約書の条項を一つずつ「これが起きたらどうなるか」で読めば、事前に見つかります。以下、四つの領域に分けて確認する条項を挙げます。
一.業務範囲の線
何をやるかを、工程で書きます。「スカウト運用業務一式」のような書き方は、範囲がありません。対象の抽出、文面の作成、送信、返信対応、日程調整、レポート、定例会。含まれるものと含まれないものを、両方書きます。
どの程度やるかも書きます。月あたりの送信数の目安、レポートの頻度と形式、定例会の頻度、返信対応の速さ(当日中か、翌営業日か)。目安であって保証ではない場合は、その旨と、目安に届かなかったときの扱いを書きます。
発注側がやることも書きます。求人票の提供、面談に出る人の確保、承認の期限。代行側の遅れの原因が発注側にあった場合の扱いは、ここが無いと水掛け論になります。
範囲を変えるときの手続き。広げる・縮めるときに、誰が申し出て、費用がどう動くか。運用の途中で範囲は変わるものなので、変え方を最初に決めておきます。
二.担当者の指定と交代
代行の成果は、会社より担当者で決まります。契約書に担当者の条項が無いと、誰が入っても契約どおりです。
担当者の指定。 主担当の氏名を契約書か別紙に書きます。氏名を入れられない場合でも、「提案時に提示した担当者が担当する」という一文を入れます。
稼働の条件。 週の稼働時間の目安、専任か兼任か、掛け持ちの上限。金額の裏にある稼働を書面にします。
交代の条件と手続き。 代行側の都合で担当者を替える場合、何日前に知らせるか、引き継ぎの期間をどう取るか、引き継ぎ中の費用はどうなるか。発注側から交代を求める場合の手続きも書きます。「相性が合わない」は正当な理由として認められるか、交代の回数に上限はあるか。
交代を理由とする解約。 担当者が替わった場合に、発注側が違約金なしで解約できる条項があると、交代への抑止になります。入れられないことも多いですが、求めてみる価値はあります。
三.記録と成果物の帰属
契約が終わったとき、何が手元に残るかを決めます。ここが最も書かれていない領域です。
送信の記録。 誰に、いつ、どの文面を送ったか。契約期間中は発注側が閲覧でき、終了時に引き渡される、と書きます。媒体のアカウントが代行会社の名義の場合は特に要ります。
候補者とのやり取り。 返信の内容、日程調整の履歴、面談に至った候補者の情報。個人情報の扱いに関する条項と併せて、発注側が保有できることを書きます。
作成した文面と運用のルール。 代行が作った文面の型、対象の条件、文面のルール。契約終了後も発注側が使えるか。代行会社が「自社のノウハウ」として持ち帰る場合、次の代行や自社運用で使えなくなります。
レポートと元データ。 レポートそのものと、その元になった数字。発注側が持てること。
媒体のアカウント。 名義がどちらか、終了時の扱い。媒体費は誰が負担するかで書いたとおり、名義は記録の帰属を左右します。
エラベルの見解
相談で最も多い思い込みは、「契約書は代行会社が用意するもので、こちらが直すものではない」というものです。実際には、代行会社のひな型に覚書を一枚足すだけで、四つの領域はほぼ埋まります。ひな型を直してもらうより、覚書を足すほうが、代行会社側も受け入れやすいです。
もう一つ、記録の帰属を求めると「他社の情報も混ざっているので出せない」と言われることがあります。自社の求人について送った記録は、自社の情報です。他社の情報と分けて出せないなら、それは代行会社側のアカウントの設計の問題で、発注側が引き下がる理由にはなりません。最初から「自社の分だけを分けて出せる形で記録すること」を契約に入れておけば、この問題は起きません。
差がつくのは、担当者が記録の帰属について自分から言及するかどうかです。「送信の記録は御社の資産なので、いつでも見られる形にします」と最初に言う担当者は、契約が終わった後のことまで考えています。言われるまで触れない担当者は、終わった後のことを考えていないか、残したくないかのどちらかです。
四.出口:解約と引き継ぎ
契約は、終わるときのことを決めておかないと、終われません。
契約期間と最低期間。 最低期間があるなら、その根拠を聞きます。立ち上げに時間がかかるから、という理由は理解できますが、三か月で結果が見えない場合に残りの期間をどうするかも決めます。
解約の通知期限。 何日前、何か月前に伝えるか。長すぎると、やめたいのに払い続けることになります。
途中解約の費用。 残期間の全額か、一部か、無しか。担当者の交代や、業務範囲の不履行を理由とする解約は、費用なしにできるか。
自動更新。 有無と、止める手続き。更新の前に通知が来るか。気づいたら更新されていた、を防ぎます。
引き継ぎ。 終了時に、記録・文面・ルール・アカウントをどう引き渡すか。引き継ぎの期間と、その間の費用。次の代行会社や自社運用への引き継ぎに、前の代行会社が協力する義務があるか。
終了後の義務。 秘密保持の期間、候補者情報の削除、媒体アカウントの権限の回収。代行会社側の義務と、発注側の義務の両方を書きます。
書かれていないときの足し方
ひな型に無い条項は、覚書で足します。覚書は、契約書と同じ効力を持つことを明記した一枚の書面で、四つの領域の項目を箇条書きにします。代行会社側にとっても、条項を一つずつ直すより、覚書を一枚受け入れるほうが手続きが軽いことが多いです。
覚書に入れる優先順位は、記録の帰属、担当者の指定と交代、業務範囲の工程、出口の条件の順です。全部を一度に求めると交渉が長引くので、譲れないものから順に出します。記録の帰属だけは、譲らないでください。これが無いと、代行会社を替えるたびにゼロから始めることになります。
代行会社が覚書を受け入れない場合は、その理由を聞きます。「前例が無い」なら、作ってもらえばよいことです。「ノウハウなので出せない」なら、何がノウハウで何が自社の記録かを切り分けます。それでも受け入れないなら、記録が残らない前提で契約するか、別の会社を選ぶかの判断です。
契約の個別の条項の効力や、法的な判断については、弁護士などの専門家にご確認ください。この記事は、確認する項目の整理であって、法的な助言ではありません。
エラベルの見解
担当する側から見ると、契約書で最も困るのは「業務範囲が書かれていないまま、発注側の期待だけが広がる」ことです。契約は送信までだったのに、途中から返信対応も、日程調整も、面談の同席も求められる。断ると「柔軟性が無い」と言われ、受けると稼働が足りなくなって、送信の質が落ちる。
これは、業務範囲を工程で書いていれば起きません。含まれていない工程を求められたら、「それは範囲外なので、追加するなら費用と稼働をこう変えます」と言えます。発注側も、追加の費用を見て、自社でやるか外に出すかを判断できます。書かれていないと、どちらも判断できず、不満だけが溜まります。
契約書を「代行会社を縛るもの」と考えると、代行会社は身構えます。「お互いに期待を揃えるもの」と考えて、発注側がやることも一緒に書くと、担当者は安心して動けます。発注側の義務を自分から書く会社は、担当者から見て信頼できる相手です。
まとめ
- 契約書は業務範囲・担当者・記録の帰属・出口の四つの領域で読む
- 業務範囲は工程で書き、発注側がやることと範囲を変える手続きも入れる
- 担当者は氏名・稼働・交代の条件を書面に。交代を理由とする解約条項を求めてみる
- 記録の帰属は送信記録・やり取り・文面とルール・レポート元データ・アカウント名義。譲らない
- 出口は最低期間・通知期限・途中解約費用・自動更新・引き継ぎ・終了後の義務
- ひな型に無い条項は覚書で足す。優先は記録の帰属から
- 個別の判断は専門家に確認する
よくある質問
代行会社のひな型をそのまま受け入れるしかないと言われました
覚書を一枚足す形を提案してください。ひな型そのものは変えず、四つの領域の項目を箇条書きにした覚書を、契約書と同じ効力を持つ書面として添付します。それも受け入れない場合は、理由を聞き、記録の帰属だけでも書面にできないかを求めます。それも難しいなら、別の会社を検討する判断になります。
担当者の氏名を契約書に入れるのは一般的ですか
一般的とまでは言えませんが、求めれば応じる会社は多くあります。氏名が難しい場合は、「提案時に提示した担当者が担当し、交代する場合は〇日前に通知し、引き継ぎ期間を設ける」という一文でも、交代への抑止になります。
契約期間中に業務範囲を広げたくなったらどうすればよいですか
契約書に「範囲を変えるときの手続き」があれば、それに沿って申し出ます。無ければ、追加の業務と費用と稼働を書いた覚書を足します。口頭で「ついでにお願い」を重ねると、担当者の稼働が足りなくなり、元の業務の質が落ちます。追加は書面にして、費用と稼働を明示してください。
この記事のタグ
関連記事
- 副業人材をスカウトで探す|本業を持つ人に、稼働と期待値を先に示す 本業を持ちながら副業で受けてくれる専門人材を、スカウトで探せるか。探せますが、稼働できる時間帯と量が限られ、本業との関係にも配慮が要ります。副業人材でスカウトが効く場面、先に決めること、文面で示すべき稼働と期待値、面談と契約で確認すること、社内の受け入れ方を整理しました。 スカウト代行スカウト代行
- 業務委託人材をスカウトで探す|正社員採用と何が違い、何を先に決めるか 業務委託で働く人を、スカウトで探せるか。探せますが、正社員の採用とは、探す層・文面・条件の出し方・契約の扱いが違います。業務委託でスカウトが効く場面、先に決めておくこと、文面と対応の違い、契約と法務で確認すること、代行に頼むときの確認点を整理しました。 スカウト代行スカウト代行
- 退職者へのスカウト|「戻ってきてほしい」を、送ってよい人と送り方で決める 一度辞めた人に、また声をかける。退職者へのスカウトは、経歴も人柄も分かっている分、成功しやすい反面、退職の経緯によっては送ってはいけない人もいます。退職者に声をかける価値、送ってよい人の見分け方、送り方の順序、退職者ならではの確認事項、社内の受け入れで気をつけること、退職者との関係を保つ仕組みを整理しました。 スカウト代行スカウト代行
- 使わない媒体を解約する基準|「もったいない」より「面談ゼロが何か月か」で決める 契約したまま、ほとんど送っていない媒体がある。解約すべきか、残しておくべきか。判断の基準は面談設定数と期間です。解約を検討する五つの状態、残す価値がある場合、解約の手順で失うものと残すもの、更新のタイミングの見方、解約後に再契約する場合を整理しました。媒体名や料金には触れません。 スカウト代行スカウト代行