採用代行 / 採用の課題

ジョブディスクリプションがない|完璧な文書を目指さず、「何を決める役割か」から一枚で書き始める

公開 2026-09-13

「この職種の人は、何をする人か」と聞かれて、答えが人によって違う。求人票は業務の箇条書き、面接は面接官ごとの感覚、入社後の評価も基準が無い。「ジョブディスクリプションを作るべきだ」と分かっているが、何をどこまで書くのか、誰が書くのか、いつ書くのか、分からない。結論を先に書くと、ジョブディスクリプションは、完璧な文書として作ろうとすると、作れません。最初は一枚で、「何を決める役割か」「誰と働くか」「どこまで担うか」「最初の三か月に何をするか」「何ができないと詰まるか」「どう評価されるか」の六項目を書きます。一枚があれば、求人票も面接の観点も評価の基準も、そこから作れます。完璧さより、一枚があることです。要件の決め方は採用要件が固まらないに、評価基準の言語化は評価基準が言語化できていないにまとめています。

ジョブディスクリプションが無い会社で起きていること

役割の記述が無い会社では、次のことが起きています。

起きていること背景
求人票が業務の箇条書き役割の記述が無いので、「やること」を並べるしかない。候補者に役割が伝わらない
面接官ごとに見るものが違う「何をする人か」が共有されていないので、面接官が自分の想像で見る
入社後に「聞いていた話と違う」求人票と面接と実態が、それぞれ別の役割を語っている
評価の基準が無い「何を期待されているか」が無いので、評価が印象になる
同じ職種で、人によって仕事が違う役割が決まっていないので、個人の裁量で仕事の範囲が決まる
採用要件が固まらない役割が無いので、要件を作る土台が無い
「作るべき」と思いながら、誰も作らない何をどこまで書くかが分からず、大きな仕事に見えて着手できない

役割の記述は、採用だけでなく、評価と育成と組織の土台です。無いと、全部がその場の感覚になります。

最初の一枚に書く六項目

完璧な文書ではなく、一枚に六項目を書きます。

項目書くこと
一、何を決める役割かこの役割の人が、自分の判断で決められること「顧客への提案の内容と価格の範囲を決める」
二、誰と働くか直属の責任者、一緒に動くメンバー、社内外の関係者「営業の責任者の下で、企画の二名と、外部の制作会社と」
三、どこまで担うか役割の範囲の境目。どこからが他の人の仕事か「提案から受注まで。受注後の運用は運用の担当に引き継ぐ」
四、最初の三か月に何をするか入社直後に、実際にやること「既存の顧客十社を引き継ぎ、月に二件の提案を出す」
五、何ができないと詰まるか最初の三か月で、無いと回らないもの(必須の要件の元)「顧客の要望を聞き取って提案にまとめた経験」
六、どう評価されるか何ができていれば、この役割を果たしていると見なすか「四半期で提案の件数と受注の率、顧客からの継続の率」

六項目で一枚。それ以上は書きません。書けない項目があれば、その項目が「決まっていないこと」で、決めるべきことが分かります。

六項目は、そのまま採用に使えます。一〜三は求人票の役割の記述に、四と五は要件に、六は面接の観点と入社後の評価に。

書く手順

一枚を書く手順です。二時間で書けます。

現場の責任者と、三十分話す。 六項目を順に聞きます。聞き方は次の章。人事や経営者が想像で書かず、現場の責任者の言葉で書きます。

いま、その役割を担っている人と、三十分話す。 「実際に、何を決めていますか」「誰と働いていますか」「どこからが他の人の仕事ですか」。責任者の認識と、担当者の実態のずれが見えます。ずれは、役割が曖昧な場所です。

ずれを、責任者と確認する。 「責任者は〇〇と言い、担当者は△△と言っています。どちらが、この役割の定義ですか」。責任者が決めます。

一枚に書く。 六項目、各二〜三行。抽象語を使わない。「顧客対応」ではなく「顧客の要望を聞き取って提案にまとめる」。

責任者と担当者に、読んでもらう。 「これで合っていますか」。両方が「合っている」と言えば、一枚の完成です。

日付を入れて、共有の場所に置く。 役割は変わるので、日付が要ります。共有の場所に無い一枚は、無いのと同じです。

手順の要点は、「責任者の認識」と「担当者の実態」の両方を聞くことです。片方だけだと、実態と違う一枚になります。

現場から引き出す聞き方

現場の責任者から、六項目を引き出す聞き方です。「何をする役割ですか」と聞くと、業務の箇条書きが返ってきます。問いを変えます。

項目聞き方
何を決める役割か「この役割の人が、あなたに確認せずに、自分で決めてよいことは何ですか」「逆に、あなたの承認が要ることは」
誰と働くか「この役割の人が、一週間で最も多く話す相手は誰ですか」「社外では」
どこまで担うか「この役割の人の仕事が終わって、次の人に渡すのは、どの時点ですか」「逆に、どの時点で受け取りますか」
最初の三か月に何をするか「入社した人が、最初の三か月で実際にやることを、順に教えてください」
何ができないと詰まるか「三か月でやることのうち、これができないと回らない、というものはどれですか」
どう評価されるか「一年後に、この人は良くやった、と思うのは、何ができていたときですか」

「決める」「話す相手」「渡す時点」「実際にやること」「回らない」「良くやったと思うとき」。抽象語ではなく、場面で聞きます。

答えが抽象語(「顧客対応」「調整」)で返ってきたら、「具体的には、どういう場面ですか」と一段掘ります。

エラベルの見解

相談で最も多い失敗は、「ジョブディスクリプションを作ろうと、他社の書式を取り寄せ、十項目以上の文書を人事が想像で書き、現場から『実態と違う』と言われて、そのまま棚に入った」というものです。他社の書式は、他社の役割のためのものです。自社の現場の責任者に六項目を聞いて一枚に書いていれば、二時間で、実態と合った一枚ができました。文書の完成度より、現場の言葉で書かれているかどうかです。

見ていて差がつくのは、担当者が「現場の責任者と担当者の両方に聞く」かどうかです。人事の説明だけで書く担当者と、責任者に三十分、担当者に三十分聞いて、ずれを責任者に確認する担当者がいます。後者の一枚は、実態と合い、求人票と面接と評価に使えます。

発注側にできるのは、担当者に「現場の責任者と担当者の三十分ずつ」を渡すことです。

求人票・面接・評価への使い方

一枚ができたら、三つに使います。

求人票。 一〜三(何を決める、誰と、どこまで)を、求人票の役割の記述に。四(三か月)を「入社後三か月で担当いただくこと」に。五(詰まるもの)を必須の要件に。六(評価)を「期待する成果」に。業務の箇条書きの求人票が、役割の記述の求人票に変わります。

面接。 五(詰まるもの)を、面接の観点と質問に。「〇〇の経験について、具体的な場面を教えてください」。六(評価)を、「この役割で一年後にこうなっていてほしいのですが、どう思いますか」と、役割の認識の確認に。面接官全員に、一枚を渡します。

評価。 六(評価)を、入社後の評価の基準に。四(三か月)を、最初の三か月の到達点に。「何を期待されているか」が入社前から共有されていれば、評価は印象ではなく、一枚との照らし合わせになります。

紹介会社への説明。 一枚を、紹介会社にそのまま渡します。求人票より、役割が伝わります。

受け入れ。 入社した人に、初日に一枚を渡します。「あなたの役割はこれです」。

一枚が、採用の入口から入社後まで、同じ役割を語ります。「聞いていた話と違う」が起きにくくなります。

更新の運用

役割は変わります。一枚を更新する運用です。

募集のたびに、見直す。 求人を出す前に、一枚を責任者と読み合わせ、「変わったところは」を確認します。三十分。

組織や事業が変わったら、見直す。 責任者の交代、事業の方針の変更、チームの再編。役割の境目が変わります。

入社した人の三か月後に、見直す。 「一枚に書いた三か月と、実際の三か月は合っていたか」。合っていなければ、一枚を直します。

年に一度、全職種の一枚を見直す。 担当者を決め、年に一度、全部の一枚を責任者と読み合わせます。

更新の日付と、変えた理由を残す。 「いつ、何を、なぜ」。役割の変遷が、組織の記録になります。

一枚を増やしすぎない。 六項目、一枚。「もっと詳しく」と足し始めると、更新されなくなります。一枚を保ちます。

更新されない文書は、無いのと同じです。一枚だから、更新できます。

外注する場合の範囲

ジョブディスクリプションが無い問題を、採用代行に出す場合の範囲です。

出せる工程。 現場の責任者と担当者への聞き取り(六項目の問いで)、ずれの整理、一枚の作成、責任者と担当者への確認の進行、求人票への展開、面接の観点と質問への展開、評価の基準の案への展開、紹介会社への説明資料、受け入れ時の渡し方、更新の運用の設計、年に一度の見直しの進行。

社内に残す判断。 役割の定義の決定(責任者の認識と担当者の実態のずれの判断)、評価の基準の決定、一枚の承認、組織の変更に伴う見直しの判断。

外注の効きどころ。 役割の記述が無い会社は、「大きな仕事に見えて着手できない」状態です。担当者が六項目の問いを持ち込み、責任者と担当者に三十分ずつ聞いて、二時間で一枚を作れば、着手の壁は消えます。一枚から求人票と面接と評価に展開するのも、担当者が行えます。

外注しても動かない場合。 責任者が聞き取りの三十分を出さない、責任者と担当者のずれを責任者が決めない、一枚を共有の場所に置かない。社内の判断で、代行を替えても直りません。

役割の記述は、一枚から始められます。外注は、一枚を作る手順を持ち込む手段です。

エラベルの見解

担当する側から見ると、ジョブディスクリプションの相談で最も多いのは、「責任者の認識と、担当者の実態が違う」ことです。責任者は「提案の内容を決める役割」と言い、担当者は「決めるのは責任者で、自分は資料を作るだけ」と言う。どちらが役割かを決めないまま採用すると、入社した人は、どちらに合わせればよいか分からず、詰まります。

ずれを責任者に見せて、「どちらが定義ですか」と決めてもらう。それが、一枚を作る過程で最も価値のある場面です。文書を作ることより、ずれを決めることです。

発注側にできるのは、一枚を作る過程で見つかったずれを、責任者が決めることです。

まとめ

よくある質問

他社のジョブディスクリプションの書式を参考にしてもよいですか

参考にはなりますが、他社の書式は他社の役割のためのものです。項目が多い書式を人事が想像で埋めると、実態と合わない文書になります。自社の現場の責任者と担当者に、六項目を場面で聞いて、一枚に書くほうが、二時間で実態と合った一枚ができます。書式の完成度より、現場の言葉で書かれているかどうかです。

一枚では、情報が足りなくないですか

採用の入口(求人票)、面接(観点)、入社後(評価の到達点)に使うには、六項目で足ります。足りないと感じる場合、「決まっていないこと」があるか、「業務の手順」まで書こうとしているかです。前者は責任者が決める、後者は役割の記述ではなく業務のマニュアルなので、別に作ります。一枚を超えると、更新されなくなります。

責任者と担当者で、役割の認識が違います

それが、一枚を作る過程で最も価値のある発見です。ずれを責任者に見せ、「どちらがこの役割の定義ですか」と決めてもらいます。決めずに採用すると、入社した人がどちらに合わせればよいか分からず、詰まります。責任者が決めた定義を一枚に書き、担当者にも共有します。担当者の実態が定義と違うなら、定義に合わせるか、定義を直すかも、責任者の判断です。