採用代行 / 採用の課題
評価基準が言語化できていない|「良い人」を定義しようとせず、「通した人と落とした人の違い」から言葉を作る
面接の後、面接官が「良かった」「少し弱い」と言う。何が良かったのか、何が弱いのかを聞くと、「全体的に」「雰囲気が」と返る。面接官によって「良い」の中身が違う。落とした候補者の理由を紹介会社に聞かれても、答えられない。結論を先に書くと、評価基準を言語化できないのは、「良い人とは何か」を定義しようとしているからです。定義は、抽象的になります。代わりに、「過去に通した人と落とした人は、何が違ったか」から言葉を作ります。実際の判定に基づく言葉は、具体的で、面接官の間で揃います。役割の記述はジョブディスクリプションがないに、面接官のばらつきは面接官によって評価がばらつくにまとめています。
基準が言語化できていない会社で起きていること
評価の基準が言葉になっていない会社では、次のことが起きています。
| 起きていること | 背景 |
|---|---|
| 面接官ごとに「良い」の中身が違う | 基準が無いので、各自の経験と好みで判定している |
| 判定の理由を、言葉で残せない | 記録が「良かった」「弱い」。後から読んでも根拠が分からない |
| 候補者に、落とした理由を伝えられない | 「総合的に判断」しか言えない。候補者にも紹介会社にも不信が残る |
| 新しい面接官を、育てられない | 「見ていれば分かる」としか教えられない |
| 採った人が合わなかったとき、何を見落としたか分からない | 基準が無いので、どの観点が抜けていたかを特定できない |
| 要件と面接がつながっていない | 求人票の要件と、面接で見ているものが別物 |
| 「感じが良い」で通し、「何となく」で落とす | 印象が判定になっている |
基準が言葉になっていないことは、面接官の能力の問題ではありません。言葉にする手順が無いことの問題です。
言語化できない原因
基準を言葉にできない原因は、いくつかあります。
「良い人」を定義しようとしている。 「優秀な人」「一緒に働きたい人」を定義しようとすると、抽象語(コミュニケーション力、主体性)になります。抽象語は、基準になりません。
役割が決まっていない。 「何をする役割か」が無いので、「何ができれば良いか」が決められません。役割の記述が先です。
面接官の頭の中にはあるが、外に出していない。 経験のある面接官は、判定の基準を持っています。ただ、言葉にしたことが無い。出す手順があれば、出ます。
「言葉にすると、機械的になる」という懸念。 「面接は人を見るもので、基準で測るものではない」。ただ、言葉が無いと、面接官の好みで測ることになります。
一度に全部を言葉にしようとしている。 「評価基準の体系」を作ろうとすると、大きすぎて着手できません。一つの役割の、三〜四の観点から始めます。
過去の判定を、振り返っていない。 通した人と落とした人の記録があれば、そこから言葉が作れます。記録が無いか、振り返っていない。
原因が分かれば、「定義する」のではなく「過去の判定から作る」に切り替えられます。
過去の判定から言葉を作る手順
「良い人」を定義せず、過去の判定から言葉を作る手順です。
通した人と落とした人を、それぞれ数人挙げる。 直近の一年で、面接で通した人(特に、入社して活躍している人)と、落とした人(特に、迷った末に落とした人)。名前は伏せて、記録として。個人情報の扱いは社内の規程に沿います。
面接官に、「何が違ったか」を聞く。 「通した〇〇さんと、落とした△△さんは、何が違いましたか」。「良い・弱い」ではなく、「違い」を聞きます。「〇〇さんは、前職で自分が決めた場面を具体的に語れた。△△さんは、所属した事実は語れたが、自分が何を決めたかを語れなかった」のように、違いが出ます。
違いを、観点に分ける。 出てきた違いを、「経験の深さ」「役割の認識」「実務の具体性」「一緒に働く相手として」のような観点に分けます。三〜四つに収まることが多いです。
観点ごとに、「通す状態」と「通さない状態」を書く。 「経験の深さ:自分で設計し、判断した場面を具体的に語れる(通す)/所属した事実は語れるが、自分が何を決めたかを語れない(通さない)」。
入社後の実態と照らす。 通した人が入社後に活躍しているなら、その人が満たしていた観点は正しい。活躍していないなら、見落としていた観点がある。照らして、観点を足すか直します。
複数の面接官で、同じ手順を行う。 面接官ごとに出てくる違いを比べ、共通するものを基準に、違うものは話し合って決めます。
手順の要点は、「良い人とは」ではなく「何が違ったか」と聞くことです。前者は抽象語、後者は場面で返ってきます。
観察できる言葉の作り方
基準は、面接で観察できる言葉で書きます。
| 抽象語 | 観察できる言葉 |
|---|---|
| コミュニケーション力がある | 顧客の要望を聞き取って、社内に文章で伝えた場面を、具体的に語れる |
| 主体性がある | 指示が無い状態で、自分で優先順位を決めて進めた場面を語れる |
| 経験が深い | 自分で設計し、判断した場面を、判断の理由とともに語れる |
| 論理的 | 質問に対して、結論→理由→具体例の順で答えられる |
| 成長意欲がある | 直近の一年で、新しく覚えたことと、その覚え方を具体的に語れる |
| 一緒に働きたい | 面接官の質問の意図を汲んで答え、分からないときは確認してくる |
| 誠実 | 失敗した経験を、自分の責任の範囲を含めて語れる |
| 柔軟性がある | 前の会社のやり方と違う場面で、どう対応したかを語れる |
作り方の型は、「〇〇した場面を、具体的に語れる」です。「語れる・語れない」は、面接で観察できます。「ある・ない」は、観察できません。
抽象語が残っていないかを確認するには、「この言葉で、面接官が二人いたら、同じ判定になるか」と問います。ならないなら、抽象語です。
エラベルの見解
相談で最も多い失敗は、「評価基準を作ろうと、経営者と人事で『求める人物像』を議論し、『主体性・協調性・成長意欲』の三つに決めて、面接官に配った。面接官は『それは前から見ている』と言い、判定は何も変わらなかった」というものです。抽象語は、面接官が既に持っている好みの言い換えにしかなりません。過去に通した人と落とした人の違いを面接官に聞いて、「自分が決めた場面を具体的に語れるか」のような観察できる言葉にしたら、判定が揃い始めました。
見ていて差がつくのは、担当者が「人物像」ではなく「過去の判定の違い」から入るかどうかです。「求める人物像を教えてください」と聞く担当者と、「直近で通した人と落とした人を挙げて、何が違ったかを教えてください」と聞く担当者がいます。前者は抽象語が返り、後者は場面が返ります。
発注側にできるのは、担当者に「人物像」を聞かせず、「過去の判定の違い」を面接官に聞かせることです。
基準の書面の型
作った基準を、一枚の書面にします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 役割 | この基準が対象とする役割。ジョブディスクリプションがないの一枚と対応 |
| 観点 | 三〜四つ。役割の記述の「何ができないと詰まるか」と対応 |
| 観点ごとの通す状態 | 観察できる言葉で。「〇〇した場面を具体的に語れる」 |
| 観点ごとの通さない状態 | 観察できる言葉で。「所属した事実は語れるが、自分が何を決めたかを語れない」 |
| 観点ごとの質問 | 二〜三個。「〇〇を設計した場面で、何を、どう決めましたか」 |
| 段階ごとの担当 | 一次はどの観点、二次はどの観点、最終はどの観点 |
| 通す条件 | 「三つの観点のうち二つ以上が通す状態なら通す」など。段階ごとに |
| 迷ったときの扱い | 一次は「迷ったら通す」、最終は「迷ったら落とす」など |
| 記録の型 | 観点ごとに「通す・通さない・判断できず」と、根拠を場面で一〜二行 |
| 見ない観点 | 「学歴は見ない」「年齢は見ない」など。法令上の扱いも確認 |
一枚に収めます。分厚い評価マニュアルは、面接官が読みません。面接の前日に、一枚を手に取れる形にします。
私的な事情に関する質問は法令上の扱いがあるので、専門家に確認のうえ、「見ない観点」に明記します。
基準を使って直す運用
基準は、作って終わりではなく、使って直します。
面接の記録を、観点ごとに残す。 「通す・通さない・判断できず」と、根拠を場面で。記録が、基準の検証の材料になります。
「判断できず」が多い観点は、質問を直す。 面接で確認できない観点は、質問が悪いか、観察できる言葉になっていません。
面接官の判定を、比べる。 同じ候補者を二人で見た回で、判定がずれた観点を話します。「基準のどこで読みが違ったか」。
入社後の実態と、照らす。 「通した人が三か月で到達点に届いたか」「届かなかったなら、どの観点を見落としたか」。三か月ごとに。
基準を、上げ下げする。 「この観点は、実は要らなかった」「この観点が抜けていた」。記録に基づいて直します。
候補者への理由の伝え方に使う。 落とす場合、「〇〇の観点で、△△が確認できませんでした」と、基準の言葉で伝えられます。紹介会社にも同じ言葉で。
新しい面接官に、一枚を渡す。 「見ていれば分かる」ではなく、一枚と、最初の数回の同席で育てられます。
基準は仮説です。記録と入社後の実態で検証し、直します。
外注する場合の範囲
評価基準の言語化を、採用代行に出す場合の範囲です。
出せる工程。 過去の判定の整理(通した人・落とした人の記録の収集)、面接官への「何が違ったか」の聞き取りと進行、観点の分類、観察できる言葉への書き換え、通す状態と通さない状態の文の案、質問の作成、基準の一枚の作成、段階ごとの担当と通す条件の案、記録の型、面接官への共有、記録の集計(判断できずの多さ、面接官間のずれ)、入社後の実態との照合の材料、三か月ごとの見直しの材料。
社内に残す判断。 観点の決定、通す状態と通さない状態の決定、通す条件と迷ったときの扱いの決定、見ない観点の決定(法令上の扱いは専門家と)、判定そのもの、基準の変更の決定。
外注の効きどころ。 基準の言語化は、「面接官の頭の中にあるものを、外に出す」手順の問題です。担当者が「何が違ったか」の問いを持ち込み、面接官に聞き、観察できる言葉に書き換えれば、面接官自身が「そう、それだ」と言える基準ができます。担当者は面接官の誰の側でもないので、面接官同士の違いを、対立ではなく材料として扱えます。
外注しても動かない場合。 面接官が聞き取りに応じない、責任者が「自分の判定が基準」を譲らない、記録を取らない。社内の判断で、代行を替えても直りません。
基準は、面接官の中にあります。外注は、外に出す手順を持ち込む手段です。
エラベルの見解
担当する側から見ると、基準の相談で最も多いのは、「言葉にすると機械的になる」という懸念です。「面接は人を見るもので、基準で測るものではない」。ただ、基準が無い面接は、人を見ているのではなく、面接官の好みで測っています。
観察できる言葉の基準は、面接を機械的にするのではなく、「何を見るか」を揃えるものです。何を見るかが揃えば、面接官は「見る」ことに集中でき、判定の理由を語れます。基準があるほうが、人を見られます。
発注側にできるのは、「基準を作ると機械的になる」の懸念に、「基準が無いと好みで測ることになる」と返すことです。
まとめ
- 言語化できていないと面接官ごとに違う・理由を残せない・候補者に伝えられない・面接官を育てられない・見落としを特定できない・要件とつながらない・印象が判定
- 原因は良い人を定義しようとする・役割が無い・頭の中にあるが出していない・機械的になる懸念・全部を一度に・過去の判定を振り返らない
- 手順は通した人と落とした人を挙げ・「何が違ったか」を聞き・観点に分け・通す状態と通さない状態を書き・入社後と照らし・複数の面接官で
- 言葉は「〇〇した場面を具体的に語れる」の型。「二人の面接官で同じ判定になるか」で抽象語を確認
- 一枚は役割・観点三〜四・通す状態・通さない状態・質問・段階ごとの担当・通す条件・迷ったときの扱い・記録の型・見ない観点
- 運用は観点ごとに記録・判断できずなら質問を直す・面接官の判定を比べる・入社後と照らす・上げ下げ・候補者への理由に使う・新しい面接官に渡す
- 外注できるのは判定の整理・聞き取り・分類・書き換え・文の案・質問・一枚・記録の型・集計・照合と見直しの材料。社内に残るのは観点と状態と条件の決定・見ない観点・判定・変更
よくある質問
「求める人物像」を作ったのに、面接が変わりません
人物像は、抽象語(主体性、協調性)になりがちで、面接官が既に持っている好みの言い換えにしかなりません。代わりに、過去に通した人と落とした人を挙げて、面接官に「何が違ったか」を聞きます。「自分が決めた場面を具体的に語れた・語れなかった」のような場面の違いが出てきます。それを「〇〇した場面を具体的に語れる」の型で書けば、観察できる基準になり、面接官の判定が揃い始めます。
基準を作ると、面接が機械的になりませんか
基準が無い面接のほうが、面接官の好みで測る「機械的でない機械」になっています。観察できる言葉の基準は、「何を見るか」を揃えるもので、「どう見るか」を縛るものではありません。何を見るかが揃えば、面接官は見ることに集中でき、判定の理由を語れ、候補者にも伝えられます。基準があるほうが、人を見られます。
面接官が「言葉にできない」と言います
「良い人とは何か」と聞かれれば、誰でも言葉にできません。「直近で通した〇〇さんと、落とした△△さんは、何が違いましたか」と聞きます。違いは、場面で返ってきます。「〇〇さんは自分が決めた場面を語れた、△△さんは所属した事実しか語れなかった」。それが基準の元です。面接官の頭の中にはあります。出す問いが要るだけです。