採用代行 / 採用要件の定義
採用要件の定義の進め方|自社でやる場合の手順
採用要件を自社で決めようとして、会議で「どんな人が欲しいか」を話し合うと、経営者の「将来の幹部候補」と現場の「明日から手を動かせる人」が並び、人事が両方を足して、「経験五年以上、マネジメント経験、業界知識、リーダーシップ、コミュニケーション能力」という要件ができます。該当する人は市場にほとんどおらず、求人を出しても応募が来ないか、来ても面接で「思っていたのと違う」で終わります。要件の定義で最初にやるべきは「どんな人が欲しいか」を話すことではなく、「この役割で最初に困ることは何か」を一文にすることです。結論を先に書くと、進め方は、困ることを一文にする→経営者と現場に別々に聞く→食い違いを一枚に並べて優先を決める→無いと回らないものだけ必須にする→経歴で確かめる要件と面接で確かめる要件に分ける→文面に落とす→応募と面接の結果で見直す、の七つの手順で、順番を守ると、会議の回数が減り、要件が三つ程度に収まります。要件が固まらない構造は採用要件が固まらないときに、代行に出す場合の切り分けは採用要件の定義は代行に出せるかに書いていますので、ここでは自社で進める手順に絞ります。
手順の全体
| 手順 | やること | 誰が | 使う質問 |
|---|---|---|---|
| 一 | この役割で最初に困ることを一文にする | 経営者 | 「誰が、何に、困っているか」 |
| 二 | 経営者と現場に別々に聞く | 人事(いなければ経営者が現場に) | 「入った人に、最初の三か月で何をしてほしいか」「いまの人が抜けたら何が止まるか」 |
| 三 | 食い違いを一枚に並べて優先を決める | 人事が並べ、経営者が決める | 「両方を満たす人は市場にいるか」「今回はどちらか」 |
| 四 | 無いと回らないものだけ必須にする | 人事が案、経営者と現場が確認 | 「これが無いと本当に回らないか」「入ってから身につくか」 |
| 五 | 経歴で確かめる要件と面接で確かめる要件に分ける | 人事 | 「これは職務経歴書に書いてあるか」「面接でどう聞けば分かるか」 |
| 六 | 文面に落とす | 人事 | 「応募者が読んで、自分に合うか判断できるか」 |
| 七 | 応募と面接の結果で見直す | 人事と経営者 | 「書類で何割落としているか」「面接で毎回ずれる点はどこか」 |
手順の要点は、一と三で経営者が「決める」以外は、人事が形にする作業であることです。専任の人事がいない会社では、経営者が二と四以降も自分でやることになりますが、手順は同じです。
手順一:困ることを一文にする
「営業が欲しい」ではなく、「営業が一人辞めて、既存の顧客の対応が回らず、担当が決まらない顧客から催促が来ている」のように、誰が何に困っているかを一文にします。
この一文があると、要件は「既存顧客の対応を引き継いで回せる人」に自然に絞られ、「新規開拓」「マネジメント」「業界知識」は後回しになります。一文が無いと、「せっかく採るなら」で理想が足されます。
止まりやすいのは、「困ること」が複数あるときです。「既存の対応も回らないし、新規も止まっている」。この場合は、「最初に困ること」を一つ選びます。最初に困ることを解決する人を採り、次の困ることは次の採用で、と分けます。一人で両方を解決する人を探すと、市場にいません。
手順二:経営者と現場に別々に聞く
経営者と現場に、別々に、同じ質問をします。「入った人に、最初の三か月で何をしてほしいか」「いまの人が抜けたら何が止まるか」「前に入った人で、続いた人と辞めた人の違いは何か」。
別々に聞く理由は、同じ場だと現場が経営者に合わせて本音を言わないからです。経営者は「将来の幹部候補」と言い、現場は「明日から既存顧客の対応をしてくれる人」と言う。この違いが要件の材料です。
止まりやすいのは、現場が「いい人なら誰でも」と答えるときです。この場合は、「前に入った人で辞めた人は、なぜ辞めたか」「いまの仕事で、一番時間を取られていることは何か」を聞きます。具体の困りごとから、要件が出てきます。
手順三:食い違いを一枚に並べて優先を決める
経営者の要件と現場の要件を、一枚に並べます。
| 項目 | 経営者 | 現場 |
|---|---|---|
| 最初の三か月にしてほしいこと | 新規開拓の仕組み作り | 既存顧客の引き継ぎと対応 |
| 抜けたら止まること | 将来の営業部長候補がいない | 既存顧客の担当が空く |
| 求める経験 | マネジメント、新規開拓 | 既存顧客の対応、引き継ぎ |
| 両方を満たす人 | 市場にほとんどいない | ― |
並べたら、経営者に「今回はどちらか」を決めてもらいます。「今回は現場の要件で。部長候補は一年後に別で採る」のように、優先と、後回しにしたものの扱いを決めます。
止まりやすいのは、経営者が「両方」と言うときです。この場合は、「両方を満たす人が市場にどのくらいいるか」を示します。求人媒体で条件を入れて検索した件数、紹介会社に聞いた感触でよく、数字を断定せず「ほとんどいない」「一年探しても決まらないことが多い」と伝えます。それでも「両方」なら、「両方を満たす人が来るまで、既存顧客の対応は誰がするか」を聞きます。困ることが先にあれば、優先は決まります。
エラベルの見解
相談で多いのは、「要件を決める会議を何度もしているが決まらない」というご相談です。会議の様子を聞くと、経営者と現場と人事が同じ場で「どんな人が欲しいか」を話していて、経営者が「幹部候補」と言えば現場は黙り、要件が経営者の理想に寄って、現場が「そんな人は来ない」と後で言う、を繰り返していました。手順二の「別々に聞く」と手順三の「一枚に並べる」を人事にやってもらったところ、経営者が「現場はこう困っていたのか」と初めて知り、「今回は現場の要件で」と一回の会議で決まりました。
見ていて差がつくのは、「同じ場で話し合っているか、別々に聞いて並べているか」です。要件は話し合いで決まるものではなく、食い違いを並べて優先を決めるものです。エラベルでは、自社で要件を決めようとしている会社に、まず手順二と三だけを試してもらっています。
手順四:無いと回らないものだけ必須にする
優先が決まったら、求める経験と条件を書き出し、一つずつ「これが無いと本当に回らないか」「入ってから身につくか」「他の人や外部で補えるか」を問います。
| 書き出した要件 | 無いと回らないか | 判定 |
|---|---|---|
| 既存顧客の対応の経験 | 回らない | 必須 |
| 引き継ぎを受けて回した経験 | 回らない(前任者がいない) | 必須 |
| 業界の知識 | 入ってから覚えられる | 歓迎 |
| 新規開拓の経験 | 今回は優先しない | 歓迎 |
| マネジメント経験 | 今回は優先しない | 歓迎 |
| 経験年数 | 年数より中身 | 書かない |
| リーダーシップ、コミュニケーション能力 | 経歴で確かめられない | 要件に書かず面接で確かめる |
必須は三つ程度に収まります。四つ以上になったら、「本当に回らないか」をもう一度問います。
止まりやすいのは、「歓迎に下げると、質が下がる気がする」というときです。歓迎に下げても、経歴に書いてあれば評価できます。必須にすると、持っていない人が応募しなくなるだけで、持っている人が増えるわけではありません。「必須は応募の入口を狭める、歓迎は評価の材料」と分けて考えます。要件が高すぎる場合の直し方は採用要件が高すぎるときに書いています。
手順五:経歴で確かめる要件と面接で確かめる要件に分ける
必須と歓迎が決まったら、それぞれを「職務経歴書に書いてあるか」「面接でどう聞けば分かるか」で分けます。
経歴で確かめられるのは、経験の有無と中身と規模と年数です。「既存顧客の対応の経験」「引き継ぎを受けた経験」は経歴で確かめます。
面接で確かめるのは、経歴に書かれていない姿勢と力です。「引き継ぎを受けたとき、何から手を付けたか」「前任者がいない状態で、分からないことをどう解決したか」「顧客からの催促にどう対応したか」のように、過去の行動を聞く質問にします。「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」は、この形に翻訳します。
分けたら、面接官ごとに役割を決めます。経営者は「会社の方向との相性」、現場は「明日から回せるか」、人事は「文面と実態の一致の確認」のように、同じことを三人が聞かない形にします。面接の設計は面接の構造に書いています。
手順六:文面に落とす
必須三つと歓迎を、求人票とスカウト文面に落とします。書き方の要点は、「応募者が読んで、自分に合うか判断できるか」です。
「既存顧客の対応の経験」を「営業経験」と書くと、新規開拓しかしていない人も応募し、既存対応をしてきた人は「自分向けか分からない」と読みます。「既存の顧客を引き継いで対応した経験」と、要件の言葉のまま書きます。
「困ることの一文」も、形を変えて文面に入れます。「前任者の退職で既存顧客の担当が空いており、引き継いで対応してくださる方を探しています」。応募者は、採る理由が具体な求人を信用します。
法令や資格に関わる要件(免許、資格、年齢や性別に関わる条件など)は、書き方を誤ると募集自体が問題になります。文面にする前に、専門家にご確認ください。
手順七:応募と面接の結果で見直す
要件は一度作って終わりではありません。求人を出して数週間で、次を見ます。
一つ目は、応募の数と、書類で落とす率です。応募が来ないなら要件が高すぎるか、文面が判断できない形です。書類で九割落としているなら、文面が要件を伝えていません。
二つ目は、面接で毎回ずれる点です。面接で毎回「思っていたのと違う」と言われる点があれば、文面と実態がずれています。
三つ目は、入った人が続いたかです。三か月後、半年後に、「困ることの一文」が解決したか、続いているかを見ます。解決していなければ、要件がずれていました。
見直しの結果を、次の採用の要件に戻します。同じ職種を繰り返し採る会社は、この記録が要件の精度を上げます。
外の人に頼む場合の境目
七つの手順を自社でやるとき、止まりやすいのは手順二と三です。経営者と現場の間に立つ人事がいない、または人事がどちらかの味方と見られて本音が出ない。この場合は、手順二と三だけを外の人に頼む選択があります。外の人は両方から本音を聞き取り、食い違いを並べて、「決める」を経営者に戻せます。
もう一つは、社内にその職種を知る人がいないときです。手順四の「無いと回らないか」を判断できない。一人目のエンジニア、一人目の経理、一人目の社内SEなど。この場合は、その職種を知る人に手順四の案を見てもらいます。
手順一と三の「決める」は、外に出せません。「困ることの一文」と「優先」は、会社にしかできない判断です。切り分けの詳細は採用要件の定義は代行に出せるかに、外注の範囲の考え方は外注する範囲の決め方に書いています。
エラベルの見解
担当する側から見ると、要件の定義で最も効くのは、手順一の「困ることを一文にする」です。この一文があると、手順二から六が自然に流れ、無いと、どこかで「せっかく採るなら」と理想が足されます。要件が膨らむ会社は、困ることが言葉になっていないまま、「どんな人が欲しいか」から始めています。
エラベルでは、自社で要件を決めたい会社には、手順一の一文と、手順二の「別々に聞く」と、手順三の「一枚に並べる」だけを先に試してもらい、そこで止まったときに担当者が入る形をお勧めしています。法令や資格に関わる要件は、専門家にご確認いただくようお伝えしています。
まとめ
- 要件の定義は「どんな人が欲しいか」から始めない。「この役割で最初に困ること」を一文にすることから始める
- 手順は困ることを一文に→経営者と現場に別々に聞く→食い違いを一枚に並べて優先を決める→無いと回らないものだけ必須に→経歴と面接で確かめる要件に分ける→文面に落とす→結果で見直すの七つ
- 別々に聞いて並べる。同じ場で話し合うと、現場が経営者に合わせて本音を言わない
- 「両方」と言われたら市場での該当者の多さと「来るまで誰が困ることを引き受けるか」を示す
- 必須は三つ程度。必須は応募の入口を狭め、歓迎は評価の材料
- 「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」は要件に書かず、過去の行動を聞く質問に翻訳する
- 止まりやすいのは手順二と三。そこだけ外の人に頼む選択がある。「困ることの一文」と「優先」は外に出せない
よくある質問
専任の人事がいないので、経営者が全部やることになります
手順は同じで、経営者が手順二で現場に聞き、手順三で自分の要件と並べます。自分の要件と現場の要件を並べて「今回はどちらか」を自分で決めるのは難しいので、手順二と三だけを外の人に頼む選択があります。外の人が経営者と現場の両方から聞き取り、並べて、「決める」を経営者に戻します。手順一の一文と手順三の決定は経営者にしかできませんが、それ以外は時間を取られる作業で、外に出しても質は下がりません。
要件を三つに絞ると、応募が増えすぎて対応できないのでは
必須を三つに絞っても、その三つを文面に具体に書けば、合わない人は応募しません。「既存の顧客を引き継いで対応した経験」と書けば、新規開拓しかしていない人は応募を控えます。応募が増えすぎるのは、必須が少ないからではなく、文面が「営業経験」のように抽象で、誰でも該当すると読めるからです。必須は少なく、書き方は具体に、が型です。
一度決めた要件を、途中で変えてもよいですか
変えます。要件は応募と面接の結果で見直すもので、数週間で「応募が来ない」「書類で九割落としている」「面接で毎回ずれる」が分かれば、そこで直します。ただし、優先(手順三)を頻繁に変えると、文面も面接も揺れて、応募者に伝わりません。優先は据え置き、必須と歓迎の振り分けと文面の書き方を直す、という順番にします。