人事副業 / 人事の前提知識

募集時の労働条件明示|職安法5条の3の明示事項と、入社時の労基法15条との違い

公開 2026-09-23

副業で人事を受けると、「求人票には何を書けばよいのか」と「入社時に渡す書面には何を書けばよいのか」が、会社の中でごちゃ混ぜになっているのをよく見ます。同じ内容を二回書くのか、別のものなのか、誰も説明できない。結論を先に書くと、明示は二段構えです。募集の段階は職業安定法第5条の3第1項が「その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定め、労働契約の締結の段階は労働基準法第15条第1項が「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。明示すべき事項は、それぞれの施行規則に別々に書かれていて、重なる部分と違う部分があります。個別の判断はハローワークや都道府県労働局にご確認ください。求人票の表示そのものは求人情報の的確表示義務に、内定の法的な位置づけは内定の法的性質にまとめています。

募集の段階(職業安定法)

職業安定法第5条の3は三項構成です。

第1項。「公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」。自社で募集をかける会社は「労働者の募集を行う者」としてここに入ります。

第2項。求人者は求人の申込みに当たりハローワークや職業紹介事業者に対して、同じ内容を明示しなければならない、と定めています。

第3項。紹介された求職者等と労働契約を締結しようとする場合であって、第1項により明示された内容を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合は、当該変更する内容等を明示しなければならない、と定めています。いわゆる変更明示です。

施行規則第4条の2第3項が、明示すべき事項を挙げています。

号明示事項
一労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む)
二労働契約の期間に関する事項
二の二試みの使用期間に関する事項
二の三有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数の上限の定めがある場合は当該上限を含む)
三就業の場所に関する事項(就業の場所の変更の範囲を含む)
四始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
五賃金(臨時に支払われる賃金、賞与等を除く)の額に関する事項
六健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険の適用に関する事項
七労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
八労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨(派遣労働者として雇用しようとする場合に限る)
九就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項

同条第4項は、これらの事項が明らかとなる方法として、書面の交付、または書面を受けるべき者が希望した場合のファクシミリ・電子メール等の送信(記録を出力して書面を作成できるものに限る)を定めています。第6項は、試みの使用期間中の従事すべき業務の内容等と期間終了後の内容等が異なる場合は、それぞれを示すことを求めています。第7項は、明示した内容に関する記録の保存を定めています。

指針は、さらに具体的です。指針(平成11年労働省告示第141号)は、明示に当たって次によらなければならないとしています。明示する内容を虚偽又は誇大な内容としないこと。労働時間に関しては、始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日等について明示すること。賃金に関しては、賃金形態(月給、日給、時給等の区分)、基本給、定額的に支払われる手当、通勤手当、昇給に関する事項等について明示すること。固定残業代を採用する場合は、名称のいかんにかかわらず、計算方法(固定残業時間と金額を明らかにするものに限る)、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える分の割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること。期間の定めのある労働契約を締結しようとする場合は、試みの使用期間の性質を有するものであっても、期間終了後ではなく当該試みの使用期間に係る内容等を明示すること。

さらに、原則として、求職者等と最初に接触する時点までに明示することが挙げられています。

契約の段階(労働基準法)

労働基準法第15条第1項は「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」と定めています。

同条第2項は「前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」、第3項は、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合の旅費の負担を定めています。

労働基準法施行規則第5条第1項が挙げる明示事項は、次のとおりです。

ただし書きにより、一の二は有期労働契約であって更新する場合があるものの締結の場合に限り、四の二から十一までは使用者がこれらに関する定めをしない場合はこの限りでない、とされています。

同条第2項は「使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない」と定めています。第3項は、書面等で明示すべき事項を第1項第1号から第4号まで(昇給に関する事項を除く)と定め、第4項は、その方法を書面の交付とし、労働者が希望した場合はファクシミリまたは電子メール等の送信(記録を出力して書面を作成できるものに限る)によることができる、としています。

第5項は、無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結の場合について、無期転換申込みに関する事項と、申込みに係る無期労働契約の労働条件を加えて明示することを定めています。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この二つを並べて見せるだけで、会社の理解が一段上がります。多くの会社は、求人票と労働条件通知書を別々の担当者が別々の書式で作っていて、突き合わせたことがありません。並べると、募集時に書いていない項目が契約時に初めて出てきたり、逆に求人票の記載が契約書に引き継がれていなかったりが見つかります。

実務で効くのは、一枚の対応表です。左に職安法施行規則第4条の2第3項の九項目、右に労基法施行規則第5条第1項の十三項目を並べ、どちらにも出てくるもの、片方にしかないものを色分けします。これを見せると、採用担当は自分で「ここが抜けている」と気づきます。指摘するより早い。しかも、この表は一度作れば会社の資産として残ります。副業で入る立場では、去った後に残るものを作れるかどうかが、次の依頼につながります。エラベルは依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この手の資料を作った経験は、経歴に書いておくと効きます。

書き分けと、変更明示

重なるところと、違うところ。両方に出てくるのは、契約期間、就業の場所と業務の内容(変更の範囲を含む)、始業終業・所定外労働・休憩・休日、賃金、有期の更新基準です。募集側だけにあるのは、試みの使用期間、社会保険・労働保険の適用、雇用しようとする者の氏名又は名称、派遣労働者として雇用する旨、受動喫煙を防止するための措置。契約側だけにあるのは、退職に関する事項(解雇の事由を含む)、退職手当、賞与等、食費・作業用品、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰及び制裁、休職です。

変更明示のルール。指針は、第5条の3第1項による明示(第一項明示)を変更・特定・削除・追加する場合の扱いを細かく定めています。

「求人票は目安」ではありません。指針が「そのまま労働契約の内容となることが期待されている」と書いている以上、募集時の明示は、入社時に調整すればよいものとしては扱われていません。会社に伝えるときは、この一文をそのまま見せるのが早いです。

副業の人事が作るのは、次の形です。個別の適否の判断はハローワークや都道府県労働局にご確認ください。

作るもの中身
対応表職安法側の九項目と労基法側の十三項目を並べた一枚
求人票の書式明示事項が漏れない欄立て。変更の範囲、試用期間、受動喫煙対策の欄を含む
固定残業代の書き方計算方法(時間数と金額)、除外した基本給の額、超過分の追加支払い
最初の接触までの運用説明会や面談の前に、明示の内容が届いている状態をどう作るか
変更明示の書式第一項明示と変更内容を対照できる書面。下線・着色・注記の形でもよい
新卒の扱い学校卒業見込者等には変更・削除・追加を行わない前提で、募集時の精度を上げる
記録の保存施行規則第4条の2第7項の保存。誰がどこに保存するか
労働条件通知書労基法施行規則第5条の事項。書面交付が原則で、本人の希望で電子も可
求人票の事後検証変更が生じたら求人票を検証して修正する。誰がいつ行うか

エラベルの見解

外に出してよいのは、対応表、求人票と労働条件通知書の書式、固定残業代の書き方の型、変更明示の書面の形、記録の保存の設計までで、「この記載で明示として足りるか」「この変更が安易な変更に当たるか」といった個別の判断は、ハローワークや都道府県労働局、あるいは弁護士の範囲です。

担当する側から見ると、この案件で一番効くのは、変更明示を「使わない前提」で設計することです。変更明示の手続を整えると、会社は安心して条件を動かすようになります。でも指針は「第一項明示は、そのまま労働契約の内容となることが期待されている」「安易に変更し、削除し、又は第一項明示に含まれない内容を追加してはならない」と書いています。手続を整えることと、使わずに済ませることは、両立させるべきです。実務では、募集時の条件を決める会議を一つ作るのが早い。給与レンジ、就業場所、業務の範囲、試用期間の扱いを、募集を出す前に決裁まで通しておく。ここが曖昧なまま出すから、内定間際で動きます。求人票の精度は、書類の問題ではなく、意思決定の順番の問題です。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、ここまで設計した経験は、経歴に書いておくと効きます。

まとめ

よくある質問

求人票と労働条件通知書で、同じ内容を二度書くことになりますか

重なる項目はありますが、同じではありません。職業安定法施行規則第4条の2第3項には、試みの使用期間、社会保険・労働保険の適用、雇用しようとする者の氏名又は名称、受動喫煙を防止するための措置が入っており、労働基準法施行規則第5条第1項には、退職に関する事項(解雇の事由を含む)、退職手当、賞与等、安全衛生、表彰及び制裁、休職などが入っています。実務では、両方の項目を並べた対応表を作り、それぞれの書式がどの項目をカバーしているかを確かめます。

面接の後で給与レンジを下げて提示してもよいですか

職業安定法第5条の3第3項と施行規則第4条の2第1項は、第一項明示を変更・特定・削除・追加する場合の明示を定めており、手続としては存在します。ただし指針は、第一項明示について「そのまま労働契約の内容となることが期待されているものであること」「第一項明示を安易に変更し、削除し、又は第一項明示に含まれない従事すべき業務の内容等を追加してはならないこと」と定めています。また、変更した場合は求人票等の内容を検証し修正等を行うべきである、ともされています。個別の可否については、ハローワークや都道府県労働局、弁護士にご確認ください。

新卒の内定者に、条件を後から変更できますか

指針は、学校卒業見込者等について「特に配慮が必要であることから、第一項明示を変更し、削除し、又は第一項明示に含まれない従事すべき業務の内容等を追加することは不適切であること」としています(やむを得ず一部を別途明示することとした事項を追加する場合を除く)。また、原則として、学校卒業見込者等を労働させ賃金を支払う旨を約し又は通知するまでに、第5条の3第1項の明示と変更明示が書面により行われるべきである、ともされています。新卒については、募集時の条件を確定させてから出す前提で設計します。個別の判断はハローワークや都道府県労働局にご確認ください。

出典