人事副業 / 人事の前提知識

労働時間の原則と例外|指揮命令下という物差しと、把握のガイドライン

公開 2026-09-23

副業で人事を受けていると、労働時間の相談は「これは労働時間に入りますか」という形で来ます。着替えの時間、朝礼、移動、研修、待機。会社は就業規則や慣行で決めようとしますが、条文と行政の整理はそう作られていません。結論を先に書くと、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は「労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます(平成12年3月9日最高裁第一小法廷判決三菱重工長崎造船所事件)」としたうえで、「労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます」と説明しています。個別の判断は労働基準監督署にご確認ください。上限の枠は時間外労働の上限規制に、協定は36協定の基本にまとめています。

原則と、労働時間かどうかの物差し

原則(第32条)。第1項は「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない」、第2項は「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない」。

例外の入口は四つ。①変形労働時間制とフレックスタイム制(第32条の2〜第32条の5)、②災害等による臨時の必要(第33条)、③三六協定(第36条)、④みなし労働時間制(第38条の2〜第38条の4)。それぞれ別の記事にまとめています。変形労働時間制の要件、フレックスタイム制の要件、裁量労働制の要件。

労働時間の考え方。ガイドラインは、次の三点を挙げています。

  1. 使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たる
  2. 労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断される
  3. たとえば、次のような時間は労働時間に該当する

該当する例として挙げられているもの。

就業規則で決められるものではない、という点が要です。「着替えは労働時間に含まない」と規程に書いても、着用が義務づけられているなら、客観的に見て義務づけられたものかどうかで判断されます。会社に説明するときは、ガイドラインのこの一文をそのまま見せます。

事業場を異にする場合の通算(第38条第1項)。「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」。同一使用者の複数の事業場で働く場合だけでなく、副業・兼業の場面でも関わる条文です。企業側から見た副業の扱いは企業側から見た副業許可制度にまとめています。

坑内労働(第38条第2項)。「労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす」。

事業場外みなしと、適用除外

事業場外みなし(第38条の2第1項)。「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、…当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす」。

協定による定め(第2項・第3項)。ただし書きの場合について、過半数労働組合等との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とする、とされています。使用者は、この協定を行政官庁に届け出なければなりません。

要件は「労働時間を算定し難いとき」です。事業場外で働いているだけでは足りません。スマートフォンで随時連絡が取れ、業務の指示や報告が行われている状態は、この要件の当てはめが問題になります。テレワークの扱いはテレワークの労務管理にまとめています。個別の判断は労働基準監督署にご確認ください。

適用除外(第41条)。「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない」として、別表第一第六号(林業を除く)又は第七号に掲げる事業に従事する者、監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者、監視又は断続的労働に従事する者で行政官庁の許可を受けたものを挙げています。

ガイドラインの対象。ガイドラインは「対象となる労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての労働者です」としたうえで、「本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要がありますので、使用者は過重な長時間労働を行わせないようにするなど、適正な労働時間管理を行う責務があります」と述べています。

管理監督者についての注記。ガイドラインは「管理監督者とは、一般的には部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、役職名にとらわれず職務の内容等から実態に即して判断されます」としています。

エラベルの見解

担当する側から見ると、労働時間の案件で最初にやるのは「グレーな時間」の洗い出しです。着替え、朝礼、清掃、移動、待機、研修、持ち帰りの作業、業務チャットへの返信。現場に一日の流れを話してもらうと、十個くらい出てきます。それを一覧にして、ガイドラインの三つの例(準備行為・後始末、手待時間、義務づけられた研修)と突き合わせます。

この作業で会社が驚くのは、判断の物差しが「義務づけられているか」だという点です。「自主的にやっている」と会社が言う作業が、実は事実上の義務になっていることがあります。参加しないと評価に響く研修、始業前に済ませておかないと回らない準備。ここを一つずつ確かめると、労働時間の実態が見えてきます。

そして、洗い出した結果は二つの方向に進みます。労働時間として扱うか、義務づけをやめるか。どちらも選べるというのが重要です。着替えを労働時間に含めるのが難しいなら、所定の服装の着用義務そのものを見直せないかを考える。朝礼を労働時間にするなら、始業時刻を前倒しして所定労働時間に組み込む。制度の話ではなく、運用の設計の話になります。

副業・兼業の相談でも、この整理が効きます。第38条第1項は「事業場を異にする場合においても…通算する」と書いています。自社の従業員が他社で働く場合の扱いは、就業規則の副業規定と一緒に設計します。エラベルは依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この整理をやり切った経験は、経歴に書いておくと効きます。

把握の方法

ガイドラインは、把握の方法を具体的に定めています。

その1:始業・終業時刻の確認・記録。「使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること」。ガイドラインは「単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があります」と説明しています。

その2:原則的な方法。次のいずれかによること、とされています。

(ア)について「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することであり、確認した時刻については該当労働者からも確認することが望ましい、とされています。

(イ)について、客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、使用者の残業命令書およびこれに対する報告書など、労働時間を算出するために有している記録と突き合わせることにより確認し、記録すること、とされています。また、客観的な記録に基づくことを原則としつつ自己申告制も併用して把握している場合には、その3に準じた措置をとる必要がある、とされています。

その3:自己申告制による場合の措置。原則的な方法によることなく、やむを得ず自己申告制により行わざるを得ない場合、次の措置を講ずること、とされています。

上限設定の禁止。ガイドラインの主なポイントは「使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること」としています。

賃金台帳の調製。「使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと」。

副業の人事が作るのは、次の形です。個別の適否の判断は労働基準監督署にご確認ください。

作るもの中身
グレーな時間の一覧着替え、朝礼、清掃、移動、待機、研修、持ち帰り。義務づけの有無を確かめる
把握の方法の確認原則的な方法(現認/客観的な記録)か、自己申告制か
突き合わせの運用客観的な記録と、残業命令書・報告書等との突き合わせ
乖離の確認入退場記録・PCログと申告時間の差。著しい乖離があるときの実態調査
説明の実施労働者と、労働時間を管理する者の双方への説明。記録を残す
阻害する措置の点検申告できる時間数の上限、慣習的な過少申告がないか
賃金台帳労働日数・労働時間数・休日労働・時間外労働・深夜労働の記入
事業場外みなし「労働時間を算定し難いとき」に当たるか。協定と届出の有無
管理監督者の点検役職名ではなく実態。適用除外でも健康確保の責務は残る
副業・兼業第38条第1項の通算。届出と把握の方法

エラベルの見解

外に出してよいのは、グレーな時間の一覧、把握の方法の点検、突き合わせと乖離確認の運用、説明の設計、賃金台帳の項目、管理監督者の点検表までで、「この時間が労働時間に当たるか」「この人が管理監督者に当たるか」といった個別の判断は、労働基準監督署や弁護士の範囲です。

担当する側から見ると、この領域の仕事は地味で、しかも一番効きます。上限規制も割増賃金も有給の時季指定も、すべて「労働時間が正しく把握されている」ことを前提にしています。土台が崩れていると、上に何を積んでも意味がありません。案件に入って、上限規制の管理表を作ってほしいと言われたときに、その前に把握の方法を確かめる。ここで止まれるかどうかが、経験の差です。

そして、把握を直すと、たいてい数字が増えます。今まで見えていなかった時間が見えるようになるからです。会社は驚き、ときには「余計なことをした」という空気になります。だから、着手する前に「数字は増えます」と先に言っておく。そのうえで、増えた分をどう減らすかを一緒に考える、という約束をしておきます。この一言があるかないかで、案件の続き方が変わります。

ガイドラインは「本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要がありますので、使用者は過重な長時間労働を行わせないようにするなど、適正な労働時間管理を行う責務があります」と書いています。管理監督者や裁量労働制の適用者を「管理の外」に置かない。この一文を根拠に、全員の時間を見る設計を提案できます。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この土台づくりを経験した人は、制度まわりの案件で指名されます。

まとめ

よくある質問

着替えの時間は労働時間に入りますか

厚生労働省のガイドラインは、労働時間に該当する例として「使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間」を挙げています。また「労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます」としています。したがって、就業規則で「含まない」と定めても、その定めだけで決まるものではありません。個別の判断は労働基準監督署にご確認ください。

外回りの営業は事業場外みなしにできますか

労働基準法第38条の2第1項は「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」と定めています。事業場外で働いていることだけでは足りず、労働時間を算定し難いことが要件です。また、当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合は、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなすこととされ、第2項の協定でその時間を定めることができます。第3項により、協定は行政官庁への届出が必要です。当てはめの個別の判断は、労働基準監督署にご確認ください。

タイムカードがない会社は、どう把握すればよいですか

厚生労働省のガイドラインは、原則的な方法として、使用者が自ら現認することにより確認し適正に記録するか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し適正に記録するか、のいずれかによることとしています。やむを得ず自己申告制による場合は、労働者と労働時間を管理する者の双方への十分な説明、必要に応じた実態調査と補正、入退場記録やパソコンの使用時間の記録との著しい乖離がある場合の実態調査などの措置が求められます。あわせて、申告できる時間数の上限を設ける等の阻害措置を設けてはならない、とされています。運用の適否は、労働基準監督署にご確認ください。

出典