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内定の法的性質|いつ労働契約が成立するのかと、会社が決められること

公開 2026-09-23

副業で人事を受けていると、「内定はいつ出すか」「内々定と内定は何が違うか」という相談を受けます。採用の実務では言葉として使い分けていますが、法的な扱いは、呼び方ではなく実態で決まります。ここを押さえておかないと、内定を出した後に状況が変わったときに、会社も本人も困ります。この記事は、採用内定の法的性質を、厚生労働省の資料が引用する最高裁判決に沿って整理したものです。結論を先に書くと、厚生労働省のパンフレットは、最高裁の判決として「採用内定の実態は多様であるため、その法的性質を一義的に論断することはできないが、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合、企業からの採用内定通知は労働者からの労働契約の申込みに対する承諾であり、誓約書の提出と相まって、就労の始期を定めた解約権を留保した労働契約が成立したと解する」という内容を引用しています。つまり、性質は「呼び方」ではなく「その後に労働契約を結ぶための特段の手続が予定されているか」といった実態で判断されます。個別の事案の判断は弁護士にご確認ください。取消しは内定取消しができる場合に、辞退は内定辞退への対応にまとめています。

判決が示している考え方

厚生労働省のパンフレット「適切な労務管理のポイント」には、裁判例(最高裁第二小法廷 昭和54年7月20日判決)として、次の内容が引用されています。

「採用内定の実態は多様であるため、その法的性質を一義的に論断することはできないが、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合、企業からの採用内定通知は労働者からの労働契約の申込みに対する承諾であり、誓約書の提出と相まって、就労の始期を定めた解約権を留保した労働契約が成立したと解する。」

この一文には、実務で押さえるべき要素が三つ入っています。

要素内容
一義的には決まらない「採用内定の実態は多様であるため、その法的性質を一義的に論断することはできない」。自社の内定がどういう性質かは、実態で決まる
判断の手がかり「採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合」。内定の後に、別途契約を結ぶ手続が予定されているかどうか
成立する場合の性質「就労の始期を定めた解約権を留保した労働契約」。働き始める時期が先で、会社に解約の権利が留保されている労働契約

「解約権を留保した労働契約」の意味。契約は成立しているが、一定の場合には会社が解約できる、という形です。ただし、留保された解約権は無制限ではありません。同じ判決は、取消事由について「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。

適用される規定。パンフレットは、採用内定により労働契約が成立したと認められる場合、採用内定取消しには労働契約法第16条のほか、労働基準法第20条、第22条等の規定が適用される、としています。

「内々定」をどう考えるか

実務では、正式な内定の前に「内々定」を出す依頼先があります。判決が「実態は多様であるため、その法的性質を一義的に論断することはできない」としている以上、内々定という呼び方をすれば当然に契約が成立しない、という関係にはなりません。判断の手がかりは、呼び方ではなく、次のような実態です。

確かめること見る点
その後の手続内々定の後に、労働契約を結ぶための別の手続(正式な内定通知、契約書の締結)が予定され、実際に行われているか
通知の内容何を伝えているか。入社日、勤務地、職種、処遇がどこまで確定して示されているか
本人からの提出物誓約書や承諾書を出してもらっているか
その後の関わり研修への参加、課題の提出、入社前の手続をどこまで進めているか
会社の運用内々定を出した人を、実務上どこまで「採用が決まった人」として扱っているか

設計の話として。副業の人事が関われるのは、この実態を設計することです。内々定と内定の段階を分けるなら、それぞれで何を伝え、何を提出してもらい、何を確定させるのかを決めます。曖昧なまま「とりあえず内々定」を出す運用は、後から性質を説明できません。個別の事案で契約が成立していると解されるかどうかの判断は、弁護士にご確認ください。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この領域で副業の人事が持ち込める最も実用的な問いは、「自社の内定は、どういう性質ですかと聞かれたら説明できますか」です。相談で見ていると、内定通知の文面が担当者ごとに違う、誓約書を取る年と取らない年がある、内々定と内定の使い分けが人によって違う、という依頼先が少なくありません。その状態では、いざというときに自社の内定がどういう実態だったかを説明できません。

整えるのは難しくありません。内定通知の文面を一つに決め、何を確定して伝えるか(入社日、勤務地、職種、処遇、条件が確定していない項目はその旨)を決め、本人から何を提出してもらうかを決め、内定から入社までに何をするかを並べる。これだけで、自社の内定の性質が説明できる状態になります。しかもこの整理は、内定辞退を減らす設計にも直結します。候補者は、確定していることと確定していないことがはっきりしているほど、判断しやすくなります。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、採用の設計に関わった経験がある人は、この整理を売りにできます。

内定の設計に入れること

副業の人事が作るのは、次の形です。法的な性質の判断は弁護士に渡します。

論点決めること
段階内々定を置くか。置くなら、内定との違いを何で区別するか(通知の内容、提出物、その後の手続)
通知の文面誰の名前で、いつ、何を伝えるか。確定している条件と、確定していない項目の書き方
提出物誓約書や承諾書を取るか。取るなら何を書いてもらうか
返答の期限いつまでに返答をもらうか。強要にならない形で伝える
労働条件の明示就業場所・業務の「変更の範囲」を含め、どの段階で何を明示するか
内定から入社まで誰が、どの頻度で、何を伝えるか。研修や課題を課すか
状況が変わったとき会社側の事情が変わった場合の手順(弁護士に相談する段階を含む)
記録誰にいつ何を伝え、何を受け取ったかを残す

労働条件の明示との関係。2024年4月から、労働条件の明示事項に就業場所・業務の「変更の範囲」が加わりました。内定の段階で何を明示するかは、この点とも関わります。詳しくは入退社手続きの流れに整理しています。

指針が求めること。厚生労働省のリーフレット「若者の募集・採用等に関する指針」では、労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない採用内定取消しは無効とされることに十分に留意し、採用内定取消しを防止するため最大限の経営努力などを行うこと、とされています。あわせて、採用内定または採用内々定と引き替えに他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要することなどの職業選択の自由を妨げる行為などは行わないこと、労働契約が成立したと認められる場合には採用内定者に対して自由な意思決定を妨げるような内定辞退の勧奨は違法な権利侵害に当たるおそれがあることから行わないこと、も示されています。

「内々定だから自由」ではない。指針が「採用内定または採用内々定と引き替えに」と両方を並べていることからも、内々定であれば何をしてもよい、という整理にはなりません。

エラベルの見解

外に出してよいのは、内定の段階の設計、通知の文面の案、提出物の設計、返答の期限の伝え方、内定から入社までの関わり方、記録の様式までで、「この内定で労働契約は成立しているか」「この通知の書き方で問題ないか」といった判断は、弁護士の範囲です。

担当する側から見ると、この領域の仕事は、平時にしか作れません。内定取消しや辞退の相談が持ち込まれてから通知の文面を直すことはできず、そのときには過去に出した内定の実態が残っているだけです。だからこそ、採用の支援に入った初期の段階で、内定の設計を点検します。通知の文面、提出物、内定から入社までの流れ。この三つを見れば、依頼先の内定がどういう状態かが分かります。採用の支援と制度の整備を同じ人が見られると、この点検が自然に入ります。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、両方を見られる人は、採用の入口から制度まで任されています。

まとめ

よくある質問

「内々定なら、後から取り消しても問題ない」と言われました

判決は「採用内定の実態は多様であるため、その法的性質を一義的に論断することはできない」としており、呼び方で決まるものではありません。内々定の後に労働契約を結ぶための特段の手続が予定され実際に行われているか、通知で何を確定して伝えているか、誓約書などを提出してもらっているか、といった実態で判断されます。また、若者雇用促進法に基づく指針では、内定と内々定を並べて、職業選択の自由を妨げる行為を行わないこととされています。個別の判断は弁護士にご確認ください。

内定通知には何を書けばよいですか

法的な要否の判断は弁護士に確認いただく前提で、実務としては、入社予定日、勤務地と業務内容(変更の範囲を含む)、処遇、確定していない項目とその理由、返答の期限、今後の予定(提出物、研修、手続)を書く形が一般的です。確定していない項目を「追って連絡します」で済ませると、候補者は判断できず、辞退の理由になります。何をいつ確定させるかを、採用の設計として先に決めておきます。

内定を出す時期は、早いほどよいですか

早く出せば他社より先に押さえられる、という考え方はありますが、条件が確定していない段階で出すと、候補者は判断できず、内定から入社までの期間も長くなって辞退のリスクが上がります。また、指針は、内定や内々定と引き替えに他社への就職活動をやめるよう強要することを行わないこととしています。早さで押さえるのではなく、確定した条件を示して判断してもらう形にするほうが、結果として辞退が減ります。設計の考え方は内定辞退への対応に整理しています。

出典