人事副業 / 人事の前提知識

労災の基本|適用の範囲・給付の種類・複数事業労働者の扱いと、人事が持つ段取り

公開 2026-09-22

副業で人事を受けていると、依頼先で事故や体調の悪化が起きたときに「これは労災か」「何を出すのか」と相談されることがあります。労災は、起きてから調べ始めると本人を待たせ、手続も遅れます。しかも、複数の会社で働く人が増えたことで、給付の計算の仕方も変わりました。この記事は、労災保険の基本を、厚生労働省の案内に沿って整理したものです。結論を先に書くと、労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わずすべてに適用され、アルバイトやパートタイマーといった雇用形態は関係ありません。給付は業務上の事由または通勤による傷病等に対して行われ、休業(補償)等給付は休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%相当額(これに休業特別支給金20%相当額)です。複数の会社で働く方については、令和2年9月1日施行で、全ての会社の賃金を合算した額をもとに保険給付額が決まるようになりました。副業の人事が持つのは、起きたときの段取りと記録の設計までで、業務上か否かの判断や請求の手続は、労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。安全配慮義務は安全配慮義務に、テレワーク中の扱いはテレワークの労務管理にまとめています。

適用の範囲と、災害の区分

適用。厚生労働省の案内では、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されると説明されています。労働者とは「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」であり、アルバイトやパートタイマーといった雇用形態は関係ない、とされています。

災害の区分。「労災保険給付の概要」では、給付の対象として「業務災害、複数業務要因災害または通勤災害」という区分が使われています。通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいい、通勤災害と認められるためには、その前提として一定の移動が労災保険法における通勤に当たることが必要だとされています。あわせて、呼び出しを受けて出勤する場合などの移動による災害は、通勤災害ではなく業務災害となる、という整理も示されています。

複数事業労働者。厚生労働省の案内では、複数の会社で働く方について、全ての会社の賃金を合算した額をもとに保険給付額が決まるようになった(令和2年9月1日施行)、と説明されています。副業をしている人が増えている以上、依頼先の従業員にも該当する人がいえます。

第三者行為災害。「労災保険給付の概要」では、労災保険給付の原因である災害が第三者の行為などによって生じ、被災労働者またはその遺族に対して第三者が損害賠償の義務を有しているものを「第三者行為災害」といい、請求に当たっては「第三者行為災害届」などの関係書類を提出することになる、と説明されています。正当な理由なく届を提出しない場合には、給付が一時差し止められることがある、ともされています。自動車事故の場合、労災保険給付と自賠責保険等による保険金の支払のどちらを先に受けるかは、被災労働者またはその遺族が自由に選ぶことができるとされています。

給付の種類と、押さえる数字

「労災保険給付の概要」には、給付の種類と内容が一覧で示されています。人事が押さえておくと実務で効くものを抜き出します。

給付どういうときか内容
療養(補償)等給付業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病により療養するとき労災病院や労災保険指定医療機関等で療養を受けるときは必要な療養の給付、それ以外で療養を受けるときは必要な療養の費用の支給
休業(補償)等給付傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額。あわせて休業特別支給金として20%相当額
障害(補償)等年金傷病が治ゆ(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分(第1級)から131日分(第7級)の年金。障害特別支給金は342万円から159万円までの一時金

障害(補償)等年金の日数は、第1級313日分、第2級277日分、第3級245日分、第4級213日分、第5級184日分、第6級156日分、第7級131日分と示されています。このほか、障害(補償)等一時金、遺族に対する給付、葬祭に関する給付、傷病に関する年金、介護に関する給付、二次健康診断等給付が並んでいます。

時効。「労災保険給付の概要」では、各保険給付ごとに決められている消滅時効の期間を過ぎてしまうと請求できなくなること、時効期間が過ぎる前に請求されている分については時効が中断されることが示され、たとえば療養の費用については「療養の費用の支出が具体的に確定した日の翌日から2年」といった形で、給付ごとの起算日と期間が示されています。給付ごとの時効の扱いは、労働基準監督署にご確認ください。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この領域で価値が出るのは、制度を説明することではなく「起きる前に段取りを作っておく」ことです。相談で見ていると、労災が起きた依頼先で最初に困るのは、誰が何をするかが決まっていないことです。現場の上司が本人を病院に連れて行き、そこで「労災です」と言えるかどうか、指定医療機関かどうか、誰が労働基準監督署に連絡するか、記録を誰が取るか。この段取りが決まっていないと、本人が自費で払ってしまったり、記録が残らず後から状況を説明できなくなったりします。

副業の人事が入るなら、起きる前に一枚を作ります。連絡の順番(本人→上司→人事→経営)、近隣の労災保険指定医療機関の一覧、受診のときに伝えること、記録に残すこと(いつ、どこで、何をしていて、どうなったか、目撃者)、労働基準監督署への連絡の担当、請求書類の準備を誰が持つか。これを事故が起きる前に貼っておくだけで、対応の質が変わります。業務上かどうかの判断は監督署がするので、会社は事実を正確に残すことに集中します。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この備えを作れる人は、現場を持つ依頼先から選ばれています。

労働者死傷病報告と、起きたときの段取り

労働者死傷病報告。厚生労働省の案内では、「労災かくし」の対策として、故意に労働者死傷病報告を提出しないことや、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を提出することに罰則が適用される、と説明されています。労災保険の請求とは別に、この報告の義務があることを、依頼先の担当者が知らないことがあります。報告の対象や様式、提出の時期は、労働基準監督署にご確認ください。

起きたときの段取り。副業の人事が作る一枚は、次の形です。

順番やること誰が
1本人の安全の確保と受診。労災保険指定医療機関かどうかを確かめる現場の上司
2状況の記録(いつ、どこで、何をしていて、どうなったか、目撃者)現場の上司と人事
3人事と経営への連絡現場の上司
4受診先に労災であることを伝え、健康保険を使わない扱いを確認本人と人事
5労働基準監督署への連絡と相談人事
6労働者死傷病報告の要否の確認と提出人事(監督署に確認)
7請求書類の準備と、事業主の証明人事と本人
8複数の会社で働いている人か確認(賃金の合算の対象になりうる)人事
9再発防止の検討と記録現場と経営

健康保険を使わない。業務上または通勤による傷病は労災保険の対象なので、健康保険で受診すると後から切り替えの手続が要ります。受診の時点で「仕事中(通勤中)のけがです」と伝えられるよう、段取りの一枚に書いておきます。

複数の会社で働く人。賃金の合算の対象になりうるので、本人が他社でも働いているかを確かめる工程を入れます。ただし、副業の有無は本人のプライバシーに関わるので、聞き方と範囲は依頼先の副業の制度に沿って決めます。副業の届出の制度は企業側から見た副業許可制度に整理しています。

エラベルの見解

外に出してよいのは、起きたときの段取りの一枚、記録の様式、指定医療機関の一覧、連絡の順番、担当者の割り当て、再発防止の検討の型までで、「これは業務災害に当たるか」「通勤災害に当たるか」「労働者死傷病報告の対象か」「この請求はこの内容でよいか」といった判断は、労働基準監督署や社会保険労務士の範囲です。特に、業務上かどうかの判断は監督署が行うもので、会社が「労災ではない」と決めて本人に伝えることはできません。会社ができるのは、事実を正確に記録し、本人が請求できるようにすることです。

担当する側から見ると、この領域で信頼されるのは、知識より「本人の側に立った段取りになっているか」です。労災が起きたとき、本人は痛みや不安の中にいます。そこで会社が手続の話ばかりすると、本人は「会社は自分を守ってくれない」と感じます。受診の付き添い、費用の立替えの扱い、休業中の連絡の頻度、復帰の相談の窓口。この人に関わる部分を段取りに入れておくと、本人の納得も、その後の関係も変わります。制度の手続と、人への対応の両方を設計できるのは、人事の経験がある人です。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この両方を見られる人は続けて頼まれています。

まとめ

よくある質問

依頼先が「これは労災ではない」と言っています

業務上かどうかの判断は労働基準監督署が行うもので、会社が決めることではありません。会社が「労災ではない」と本人に伝えて請求させない形は、避けます。会社ができるのは、事実を正確に記録し、本人が請求できるようにすることと、判断に迷う場合は監督署に相談することです。労働者死傷病報告についても、故意に提出しないことには罰則があるとされているので、要否を自己判断せず監督署に確認します。副業の人事としては、この線を依頼先に最初に伝えておきます。

在宅勤務中のけがは、労災になりますか

厚生労働省のテレワークのガイドラインでは、テレワークを行う労働者についても、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は業務上の災害として労災保険給付の対象となるとされ、私的行為等業務以外が原因であるものは業務上の災害とは認められない、と整理されています。あわせて、労働時間の記録を適切に保存し、負傷した場合の災害発生状況等を可能な限り記録しておくことを労働者に周知することが望ましい、ともされています。個別の判断は労働基準監督署にご確認ください。詳しくはテレワークの労務管理に整理しています。

従業員が他社でも働いています。給付はどうなりますか

厚生労働省の案内では、複数の会社で働く方について、全ての会社の賃金を合算した額をもとに保険給付額が決まるようになった(令和2年9月1日施行)と説明されています。請求の際に他社の賃金の情報が必要になるので、本人が他社でも働いているかを確かめる工程を段取りに入れておきます。ただし、副業の有無の確認は、依頼先の副業の制度(届出制になっているか)の範囲で行います。具体的な請求の方法や必要書類は、労働基準監督署にご確認ください。副業の届出の制度は企業側から見た副業許可制度に整理しています。

出典