スタートアップの人事の副業単価の目安と案件の見つけ方|「最初の一つをつくる」作業で値付けし、資格の要る業務と分けて受ける
スタートアップで人事をしてきた人は、何もない状態から、最初の採用、最初の雇用の書面、最初の評価の仕組みをつくってきた経験を持っています。人事がまだいない創業期の会社にとって、この経験は何よりも頼りになります。一方で、何でも一人でやってきた人ほど、副業で何を売ればよいのか、いくらにすればよいのかに迷います。結論から書くと、スタートアップの人事の副業単価は、「人事がいない会社で最初の一つをつくる」作業を成果物ごとに値付けし、社会保険労務士の資格が要る業務とは分けて受けると、無理のない金額になります。
人事の副業の単価には公的な統計がなく、案件の範囲や依頼先の段階で大きく変わるため、この記事では金額の相場は書きません。自分の単価を組み立てる手順と、案件の見つけ方を書きます。スタートアップの人事の経験の何が売れるかはスタートアップの人事が副業でできることで詳しく書いています。
値付けにつながる作業
スタートアップの人事の経験は、人事がいない会社の「最初の一つ」をつくる作業に置き換えると、値付けしやすくなります。
| スタートアップでの経験 | 副業で切り出せる作業 | 時間が増える条件 |
|---|---|---|
| 何もない状態で、最初に何をやるかを決めてきた | 人事がいない会社で、最初にそろえる仕組みの優先順位を決める | 創業者の考えが定まっていない |
| 創業者と直接やりとりしてきた | 創業者の「欲しい人」を言葉にし、求人と面接の基準にする | 創業者が複数いて意見が違う |
| 媒体も予算もない中で、紹介や自分で探して採ってきた | 予算が少ない会社の人の集め方の設計(紹介・スカウト・知人のつながり) | 採る職種が多い |
| 採用と労務と制度を一人で持ってきた | 一人目の人事を採るまでの、作業の手順と分担の整理 | 社内に引き継ぐ人がいない |
依頼先は、人事の専門家がいない創業期の会社が多く、「何から始めればよいか」を教えてほしいと考えています。成果物は、最初の三か月で使える手順や書式にまとめると喜ばれます。
成果物ごとに単価を組み立てる
スタートアップの依頼先は、資金に限りがあり、何に払うかをはっきりさせたいと考えています。単価は、成果物ごとに時間を見積もって組み立てると説明しやすくなります。
- 成果物を決める:求める人の像と面接の基準、求人の文面、紹介の仕組み、最初の三か月の採用の手順など
- 成果物ごとに時間を見積もる:創業者からの聞き取り、たたき台づくり、修正、引き継ぎに分けて時間を出す
- 自分の時間単価を掛ける:時間 × 時間単価 で成果物ごとの単価を出す
- 段階的に提示する:最初は一つか二つの成果物から受け、次の成果物は結果を見て相談する
時間単価の考え方は本業の年収と副業単価の関係で書いています。スタートアップの依頼先は、方針が速く変わることがあります。成果物を小さく分けて受けておくと、方針が変わったときも、受けた範囲の分だけ報酬を受け取り、次の作業を見直せます。
エラベルの見解
スタートアップの人事の副業でよくある失敗は、「何でもやります」と受けて、範囲のない仕事を抱えることです。スタートアップで何でも一人でやってきた人ほど、依頼先の困りごとに次々と応えてしまいます。範囲が決まっていないと、どこまでやれば報酬に見合うのかが分からなくなり、時間単価が下がります。
担当する側から見ると、創業期の会社に価値を出せるのは、「今やるべきこと」と「まだやらなくてよいこと」を分けて示せることです。たとえば、評価制度より先に、求める人の像と面接の基準をそろえる、というように優先順位を示し、その一つを成果物として受けてください。範囲を区切ることは、依頼先の限られた資金を守ることにもつながります。
資格の要る業務と分けて受ける
スタートアップの依頼先からは、採用だけでなく、雇用の手続きや社内の決まりづくりも頼まれることがあります。ここで気をつけたいのが、社会保険労務士の資格が要る業務です。社会保険労務士法第27条は、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、同法第2条第1項第1号から第2号までに掲げる事務を業として行ってはならないと定めています。第2条第1項第1号は労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、第2号は労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成などです。
社会保険や雇用保険の届出の書類を作成する、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成する、といった作業は、資格がなければ報酬を得て受けることができません。就業規則の作成などがこれにあたるかを含め、受けてよい範囲は社会保険労務士に確かめてください。副業の担当者としては、採用の仕組みづくりや、社内の誰が何をするかの整理を受け、手続きや書類の作成は社会保険労務士に頼むよう依頼先に案内する形が無理がありません。
案件の見つけ方と、受けるときの条件
スタートアップの人事の経験を活かせる案件は、次のような場所で見つけやすくなります。
- 起業家や投資家のつながり:前職のスタートアップのつながりから、創業期の会社を紹介されることが多い
- 人事の副業の仲介サービス:経験や得意な作業を登録しておき、条件の合う案件を紹介してもらう
- 採用代行の会社の担当者として:スタートアップの案件を持つ採用代行の会社の担当者として受ける
業務委託で受ける場合は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)第3条が、業務委託事業者に、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で直ちに明示することを求めています。同法第4条は、従業員を使用する特定業務委託事業者の報酬の支払期日を、給付を受領した日から起算して六十日の期間内で定めなければならないとしています。創業期の会社は契約の手続きに慣れていないこともあるため、成果物と報酬、支払日を書面などで確かめてから始めてください。
本業に勤めながら副業をする場合は、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が示すとおり、まず勤め先の副業・兼業に関するルールを確認し、秘密保持義務や競業避止義務を意識してください。20万円を超える副収入がある場合は、確定申告が必要です。個別の判断は弁護士・税理士にご確認ください。
エラベルの見解
もう一つ見てほしいのは、創業期の会社の案件は、一人目の人事を採るところまで見届けると、次につながりやすいということです。副業の担当者がいつまでも人事の役を担い続けるより、社内に一人目の人事を迎え、その人に引き継ぐところまでを目標にしたほうが、依頼先の成長に合っています。
一人目の人事の採用を手伝い、つくった手順や書式を引き継げば、依頼先からは「会社の人事の土台をつくってくれた人」として評価されます。その評価は、創業者のつながりを通じて、次の創業期の会社の案件につながります。引き継ぎまでを成果物に入れて見積もってください。
まとめ
- スタートアップの人事の副業単価は、人事がいない会社で最初の一つをつくる作業を成果物ごとに値付けする
- 成果物を小さく分けて受け、方針が変わったときに見直せるようにする
- 「今やるべきこと」の優先順位を示し、範囲を区切って受ける
- 労働社会保険諸法令に基づく申請書等や帳簿書類の作成など、社会保険労務士の業務にあたる作業は分けて案内する
- 業務委託では条件の明示と支払期日を確かめ、一人目の人事への引き継ぎまでを見届ける
よくある質問
スタートアップの人事の副業単価の相場はいくらですか
案件の範囲や依頼先の段階によって大きく異なり、公的な統計もないため、一律の相場はお伝えできません。成果物ごとに時間を見積もり、自分の時間単価を掛けて単価の根拠をつくってください。
就業規則づくりを頼まれたらどうすればよいですか
就業規則の作成などが社会保険労務士の業務にあたるかを含め、受けてよい範囲を社会保険労務士に確かめてください。副業の担当者としては、社内の働き方の実態の整理や、決めるべき論点の洗い出しを手伝い、作成は社会保険労務士に頼むよう案内する形が考えられます。
ストックオプションで報酬を受け取ってもよいですか
報酬の形は依頼先との契約で決まりますが、現金以外で受け取る場合は、税金の扱いや、受け取れる条件が複雑になります。契約の前に、税理士や弁護士に相談してください。
- e-Gov法令検索「社会保険労務士法」(第2条・第27条)
- e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(第3条・第4条)
- 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定)
本記事は 2026-10-16 時点の公開情報にもとづいて作成しています。
この記事のタグ
関連記事
- スタートアップの人事が副業でできること|経験の棚卸しと売り方|スタートアップの人事の経験は「最初の人事として、創業者の隣で、何もない状態から、採用も労務も制度も一人で立ち上げてきた」型で売れる。売れるのは、最初の人事担当者が最初にやることの順番、創業者との付き合い方と役割の分け方、少ない人数で回す採用の最小の形、人事の機能を一人で持つときの切り分けの四つ。「スタートアップの人事でした」ではなく、「人事がいない会社に、最初の人事の型を持ち込む」と売る スタートアップ(創業期・初期)の最初の人事の経験で人事の副業を始める人向けに、売れる経験の棚卸し(最初にやる順番・創業者との役割分担・最小の採用の形・一人で持つ切り分け)、売りにくい点(規模が小さすぎると見られる・何でも屋に見える・創業者の色が強い)とその扱い、入りやすい案件の探し方、単価の考え方、始める順番を整理しました。 人事副業スタートアップの人事
- 中小企業の人事の副業単価の目安と案件の見つけ方|「少ない予算で回す」作業を月の時間で受け、契約の条件を確かめる 中小企業で人事をしてきた人が副業を始めるとき、単価をどう決め、案件をどう見つけるか。少ない予算で採用を回す経験が値付けにつながる作業、月の稼働時間で受けるときの単価の組み立て方、案件の探し方、業務委託で受けるときに発注者から示されるべき条件と報酬の支払期日、本業のルールの確かめ方を整理しました。 人事副業中小企業の人事
- 人事コンサルタントの副業単価の目安と案件の見つけ方|大きな案件の型を小さい会社の規模に直し、成果物の範囲を細かく区切って値付けする 人事コンサルティングの会社で制度設計や組織の改革を手がけてきた人が副業を始めるとき、単価をどう決め、案件をどう見つけるか。大企業向けの型を小さい会社に合わせて直す値付けの方法、成果物の範囲を細かく区切る単価の組み立て方、案件の見つけ方、社会保険労務士の業務との線引き、本業の会社の手法や資料の扱い、業務委託で受けるときの条件を整理しました。 人事副業人事コンサルタント
- 大手企業の人事の副業単価の目安と案件の見つけ方|「仕組みを小さく持ち込む」作業の時間で単価を組み、本業のルールを先に確かめる 大手企業で人事をしている人が副業を始めるとき、単価をどう決め、案件をどう見つけるか。大手の経験が値付けにつながる作業の切り出し方、時間から単価を組み立てる手順、案件の探し方、本業の就業規則・秘密保持・競業避止の確認と、業務委託で受ける場合の労働時間と確定申告の扱いを整理しました。 人事副業大手企業の人事
「経歴別の人事副業」の他の記事
- ヘッドハンターが副業でできること|経験の棚卸しと売り方|ヘッドハンターの経験は「市場のどこに誰がいるかを知り、直接声をかけ、口説く」型で売れる。幹部や専門職の直接採用の設計、候補者の探し方の型、口説きの面談、依頼側の魅力の言語化の四つ。ただし副業では「紹介」ではなく「依頼側の担当者として動く」形に切り替え、紹介の経験の候補者と情報は持ち込まないヘッドハンター
- ヘッドハンターの副業単価の目安と案件の見つけ方|幹部の要件定義と探し方の設計を成果物にし、紹介にあたる仕事とは線を引くヘッドハンター
- ベンチャーの人事が副業でできること|経験の棚卸しと売り方|ベンチャーの人事の経験は「組織が急に大きくなる中で、採用の数と質と速さを同時に求められ、仕組みを作りながら回してきた」型で売れる。売れるのは、急な増員を回す採用の設計、採用と組織づくりの接続、資金と事業の段階に合わせた採用の優先順位、仕組みがない状態から作る型の四つ。「ベンチャーの人事でした」ではなく、「これから人が増える会社で、増える前に仕組みを作る」と売るベンチャーの人事
- ベンチャーの人事の副業単価の目安と案件の見つけ方|増員の設計と面接官づくりを、立ち上げは一括・運用は月額で受けるベンチャーの人事
- マーケターからの転身が副業でできること|経験の棚卸しと売り方|マーケターの経験は「候補者を顧客として見る」形でそのまま採用に転用できる。求人票とスカウト文面の改善、採用の数字の設計と報告、母集団の経路の設計の三つが売れる。「マーケの経験を人事に」ではなく、「採用の〇〇の工程を、マーケの△△の技能で」と工程で売るマーケターからの転身
- マーケターからの転身の副業単価の目安と案件の見つけ方|届ける相手を決めて数字で直す力を、採用広報と応募の改善の成果物にするマーケターからの転身