法人化を考える目安|税率だけで決めず、社会保険と手間を並べる

報酬・契約・税務単価・契約・税務 更新日 2026-10-16

人事の副業で案件が増えてくると、「法人にしたほうが税金が安くなる」という話を聞くようになります。所得税は所得が増えるほど税率が上がるのに対し、法人税の税率は一定の範囲で抑えられているので、どこかで法人のほうが有利になる、という理屈です。考え方としては正しいのですが、会社員が副業で法人を作る場合は、税率の比較だけでは判断できません。結論から書くと、法人化を考える目安は、税率の差に加えて、法人にすると社会保険の適用事業所になることと、本業と並行して法人の事務を続けられるかの三つを並べてから決めるのが現実的です。

以下は国税庁と日本年金機構の案内に沿った一般的な整理です。法人化で有利になるかどうかは、所得の額、家族の状況、本業の規程などによって大きく変わります。具体的な判断は税理士や社会保険労務士にご相談ください。

所得税と法人税の税率の違い

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。国税庁のタックスアンサーNo.2260によると、課税される所得金額に応じて5%から45%までの7段階の税率が定められています。会社員が副業をしている場合、副業の所得は本業の給与所得と合算されて税率が決まるので、本業の給与が高い人ほど、副業の所得に高い税率がかかります。

一方、法人税は、国税庁のタックスアンサーNo.5759によると、資本金1億円以下などの中小法人の場合、所得のうち年800万円以下の部分に15%、800万円を超える部分に23.2%の税率が定められています(令和7年4月1日以後に開始する事業年度。所得が年10億円を超える事業年度は年800万円以下の部分が17%)。

区分税率の決まり方副業で気をつける点
個人(所得税)所得が増えるほど5%〜45%で上がる本業の給与と合算して税率が決まる
法人(法人税・中小法人)年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%法人の利益に対してかかり、役員報酬は別に個人の所得になる

この表だけを見ると、本業の給与が高い人ほど、副業の所得を法人に移せば税率が下がるように見えます。ただし、ここには住民税や事業税、法人の地方税が含まれていません。また、法人から自分に役員報酬を払えば、その分は個人の給与所得として所得税がかかります。税率の表を並べただけでは、手元に残る金額は分かりません。

法人にすると社会保険の適用事業所になる

会社員の副業の法人化で見落とされやすいのが、社会保険です。日本年金機構の案内では、厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)とされています。個人事業の場合は、従業員が常時5人以上いるなど一定の条件を満たすときに適用事業所になるのとは扱いが違います。

つまり、副業のために法人を作り、自分だけが役員として働く場合でも、その法人は社会保険の適用事業所として扱われることになります。法人から役員報酬を受け取ると、本業の会社と副業の法人の両方から報酬を受け取ることになり、社会保険の手続きや保険料の計算が本業だけのときとは変わる可能性があります。複数の事業所から報酬を受け取る場合の扱いは社会保険はどうなるかで整理しています。

このあたりは個別の状況によって扱いが変わるため、法人を作る前に年金事務所や社会保険労務士に確認してください。社会保険の手続きと保険料を見込まずに法人化すると、税金で減った分が別の負担で相殺されることがあります。

エラベルの見解

担当者として登録している人から、法人化の相談を受けることがあります。そのときに最初に聞くのは、税金のことではなく、「法人にしたら、依頼側から何が変わると思いますか」という質問です。

人事の副業では、法人だから仕事が増えるということはあまりありません。依頼側が見ているのは、担当する人の経験と、その人が週に何時間使えるかです。もちろん、法人でないと取引口座を作れないという会社もありますが、多くはありません。法人化を考える理由が税金だけなら、税理士に試算してもらい、社会保険と事務の手間を差し引いても手元に残る金額が増えるかを確かめてからで十分です。法人化は、副業を事業として広げると決めたときの選択肢と考えてください。

本業と並行して続けられるか

法人を持つと、個人の副業より事務が増えます。法人の決算と申告、社会保険の手続き、法人の口座と個人の口座の分け方、役員報酬の決め方などです。会社員として本業を続けながら、これらを毎年こなす必要があります。

また、本業の会社の規程も確認が必要です。副業を認めている会社でも、他の会社の役員になることを別に制限している場合があります。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業・兼業の形態の一つとして会社役員や起業による自営業主が挙げられていますが、認める範囲は会社ごとに就業規則で決まります。法人を作る前に、本業の会社に確認してください。

考える順番

法人化を考えるときは、次の順番で確かめると判断を誤りにくくなります。

  1. 本業の規程を確かめる。 副業として会社を作ること、役員になることが認められているか
  2. 副業の所得の見込みを出す。 来年以降も同じくらいの規模で続く見込みがあるか
  3. 税理士に試算してもらう。 所得税・住民税と、法人税・法人の地方税・役員報酬の組み合わせで、手元に残る金額を比べる
  4. 社会保険の扱いを確かめる。 年金事務所や社会保険労務士に、法人を作った場合の手続きと保険料を確認する
  5. 事務の手間を見積もる。 決算・申告・社会保険の手続きを、自分でやるか外部に頼むか、その費用も含めて考える

この順番のうち、3と4は自分だけで判断しないほうが安全です。副業の段階では、個人のままで青色申告にする基準を満たして控除を受けるほうが、手間に見合うこともあります。

エラベルの見解

法人化を急がないほうがよい理由がもう一つあります。副業の収入は、本業より変動が大きいことです。依頼側の採用計画が変われば、継続していた案件が急に終わることもあります。法人を作ったあとに収入が減っても、法人の事務と固定的な費用はなくなりません。

担当する側から見ていて、法人化がうまくいっている人は、少なくとも1〜2年、副業の収入が安定して続いたことを確かめてから動いています。複数の依頼先を持ち、1社が終わっても収入が大きく崩れない状態になってから、税理士と相談して法人化しています。収入が一時的に増えた年に慌てて法人を作るより、続く見込みを確かめてからのほうが、後悔が少なくなります。

まとめ

よくある質問

副業の所得がいくらになったら法人化すべきですか

一律の金額で決まるものではありません。本業の給与の額、家族の状況、副業にかかる経費、社会保険の扱いなどによって、法人化で手元に残る金額が増えるかどうかが変わります。税理士に自分の数字で試算してもらうのが確実です。

法人を作ると本業の会社に知られますか

法人を作ること自体は、本業の会社への届け出とは別の手続きです。ただし、本業の会社が副業や他社の役員就任を届出制や許可制にしている場合は、規程に従って届け出る必要があります。社会保険の手続きを通じて本業の会社に関わる場合もあるため、事前に確認してください。

個人事業のままでも節税はできますか

個人のままでも、事業所得として青色申告をすれば青色申告特別控除などを受けられる場合があります。副業の所得が事業所得に当たるかどうか、控除の要件を満たせるかを先に確かめてください。法人化と比べるときも、個人で使える制度を使った場合の金額を基準にするのが公平です。

出典

本記事は 2026-10-16 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

関連記事

「報酬・契約・税務」の他の記事

「報酬・契約・税務」の記事一覧を見る →