人事副業 / 人事の前提知識
企業側から見た副業許可制度|届出・制限できる場合・労働時間の通算の要点
副業で人事を受けている人は、自分自身が「副業をする側」でありながら、依頼先では「副業を認める側の制度」を整える立場に回ることがあります。依頼先から「うちも副業を認めたいが、何を決めればよいか」「今の就業規則は副業禁止だが、変えるべきか」と聞かれたとき、自分の経験だけで答えると、労働時間の通算や健康管理の義務を抜かします。この記事は、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に沿って、企業側から見た副業許可制度の要点を整理したものです。結論を先に書くと、ガイドラインは「原則、副業・兼業を認める方向」を示し、制限できるのは「労務提供上の支障」「業務上の秘密の漏洩」「競業による自社の利益の侵害」「名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為」の四つの場合とされています。制度を作るときの要点は、届出で確認する事項、労働時間の通算の考え方、健康管理、公表の四つで、これを就業規則と届出の様式に落とすところまでが、副業の人事の仕事です。個別の判断は、社会保険労務士や弁護士にご確認ください。法改正の追い方は法改正の追い方と情報源に、副業を始める側の視点は人事の副業の始め方にまとめています。
ガイドラインの要点:原則は認める方向、制限できるのは四つの場合
ガイドラインは、副業・兼業に関する裁判例を踏まえて、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由」であり、企業がそれを制限できるのは例外的な場合だと整理しています。そのうえで、企業の対応として「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当」とし、禁止や一律の許可制にしている企業には、自社の業務に支障をもたらすものかどうかを精査したうえで、そのような事情がなければ認める方向で検討することを求めています。
制限できるとされている四つの場合は、次のとおりです。
| 制限できる場合 | 実務で確かめること |
|---|---|
| 労務提供上の支障がある場合 | 長時間労働などで、自社の業務に支障が出ないか |
| 業務上の秘密が漏洩する場合 | 秘密の範囲を示し、漏洩しないことを注意喚起しているか |
| 競業により自社の利益が害される場合 | 正当な利益が侵害されるか。同じ業種・職種でも、侵害されないなら認めるべき場合がある |
| 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 | 届出の際に、そのおそれがないかを確かめているか |
ガイドラインは、就業規則に「原則として、労働者は副業・兼業を行うことができること」と、「例外的に、上記の四つのいずれかに該当する場合には、禁止又は制限することができること」を定めておくことを例示しています。あわせて、厚生労働省のモデル就業規則にも「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という趣旨の規定があると、ガイドラインの中で紹介されています。また、副業・兼業に係る相談や自己申告を行ったことを理由に、不利益な取扱いをすることはできない、とも書かれています。
実務でどう効くか一:届出制と、確認する事項
制度の形。ガイドラインは、副業・兼業の有無と内容を確認するために、就業規則や労働契約に届出制を定めることを「望ましい」としています。禁止でも一律の許可制でもなく、「届出で確認し、四つの場合に当たるときだけ制限する」形が、ガイドラインの示す方向に沿った制度です。
届出で確認する事項。ガイドラインが例示している確認事項は、他の使用者の事業場の事業内容、労働者が従事する業務内容、労働時間の通算の対象になるかどうか、です。通算の対象になる場合は、他の使用者との労働契約の締結日と期間、所定労働日と所定労働時間と始業・終業の時刻、所定外労働の有無と見込みの時間数と最大の時間数、実労働時間の報告の手続、確認の頻度、を確認して合意しておくことが望ましいとされています。
副業の人事がやること。依頼先の就業規則の副業の条文を、「原則可、四つの場合に制限」の形に直す案を作り、届出の様式にガイドラインの確認事項を落とし込みます。厚生労働省の施策ページには届出の様式例も掲載されているので、依頼先の実情に合わせて調整します。条文の改定と就業規則の変更の手続は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。ガイドラインは厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」、様式例は厚生労働省「副業・兼業」施策ページにあります。
エラベルの見解
担当する側から見ると、副業許可制度の整備で難易度が分かれるのは、「就業規則の条文を直せるか」ではなく「労働時間の通算を、依頼先が回せる形に落とせるか」です。相談で見ていると、依頼先が副業を認めたいと言いながら止まっている理由の多くは、「他社での労働時間を把握して通算するのが大変そうだ」という不安です。ガイドラインは、通算の原則的な方法と、簡便な「管理モデル」の両方を示しており、依頼先の副業者の人数と副業の形に合わせて、どちらで回すかを決めれば動き出せます。条文だけ直して通算の運用を決めない制度は、届出が出た瞬間に止まります。
副業の人事は、自分が副業先に労働時間を申告している側でもあるので、「申告する側にとって無理のない頻度と方法」を依頼先に提案できます。ガイドラインも、他の使用者の事業場の実労働時間は「必ずしも日々把握する必要はなく、労基法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足りる」とし、一週間分を週末にまとめて申告する、所定外労働があった場合のみ申告する、といった例を挙げています。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、自分が副業をしている人事は、その経験を「副業制度の整備を、申告する側と認める側の両方から設計できる」と書いておくと、この案件で選ばれやすくなります。
実務でどう効くか二:労働時間の通算と、管理モデル
通算の原則。ガイドラインは、労働基準法第38条第1項の「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」という規定について、「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含む、と整理しています。副業先でも雇用されて働く労働者については、自社の労働時間と、労働者からの申告等で把握した副業先の労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分が時間外労働になります。
通算の順番。ガイドラインの整理では、副業の開始前に、自社と副業先の所定労働時間を、労働契約の締結の先後の順に通算し、法定労働時間を超える部分があれば、後から契約を締結した使用者の側で時間外労働になります。副業の開始後は、自社と副業先の所定外労働時間を、所定外労働が行われた順に通算します。時間外労働と休日労働の合計が単月百時間未満、複数月平均八十時間以内という要件も、通算して守る必要があるとされています。
通算されないもの。ガイドラインは、フリーランスや業務委託、役員など労働基準法が適用されない働き方や、管理監督者など労働時間規制が適用されない場合には通算されない、と整理しています。また、休憩、休日、年次有給休暇は労働時間に関する規定ではないので通算されず、36協定で延長できる時間の限度も事業場ごとに定めるものなので通算されない、としています。
管理モデル。通算の手続の負担を軽くする簡便な方法として、ガイドラインは「管理モデル」を示しています。先に労働契約を締結していた使用者(A)の法定外労働時間と、後から締結した使用者(B)の労働時間の合計が、単月百時間未満・複数月平均八十時間以内になる範囲で、それぞれの上限をあらかじめ設定し、各使用者がその範囲内で働かせる、という枠組みです。導入後は、設定した上限の範囲内で働かせる限り、他の使用者の実労働時間を把握しなくても労働基準法を守れるとされています。上限を変更するときは、労働者を通じて相手方に通知する、といった留意点もあります。
副業の人事がやること。依頼先の副業者が「雇用で副業するのか、業務委託で副業するのか」を届出で確認し、雇用の場合に原則的な通算と管理モデルのどちらで回すかを、依頼先の人数と副業の形に合わせて提案します。申告の頻度と方法(週末にまとめて、所定外があったときだけ、上限に近づいたら、など)を決め、様式に落とします。割増賃金の計算や36協定との関係は、社会保険労務士に確認してください。Q&Aは厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aにあります。
実務でどう効くか三:健康管理と、公表
健康管理。ガイドラインは、使用者が労働者の副業・兼業の有無にかかわらず、労働安全衛生法に基づく健康診断、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックとその事後措置を実施しなければならないとし、副業を認めている場合には、健康保持のための自己管理を指示すること、心身の不調があれば相談を受けること、副業の状況を踏まえて必要に応じて法律を超える措置を実施すること、が適当だとしています。使用者の指示で副業を始めた場合は、副業先との情報交換や労働者の申告で把握した労働時間を通算して、健康確保措置を実施することが適当とされています。
公表。ガイドラインの令和4年7月の改定で、企業が副業・兼業を許容しているかどうか、条件付きで許容している場合はその条件を、自社のホームページ等で公表することが望ましい、という項目が加わりました。労働者のキャリア形成と職業選択に資するため、という位置づけです。
副業の人事がやること。届出の様式に「健康状態と、副業の状況を報告する」欄と頻度を入れ、依頼先の産業医や健康相談の窓口と、副業者の情報をどう共有するかを決めます。公表については、依頼先の採用サイトや会社案内に「副業可(届出制、条件あり)」のような一文を入れる案を作ります。副業を認めていることは、採用の場面で候補者に伝わる情報にもなります。安全配慮の義務の考え方は法令の整理に沿い、個別の判断は専門家に確認してください。
エラベルの見解
外に出してよいのは、ガイドラインに沿った就業規則の条文の案、届出の様式、通算の運用の設計、申告の頻度と方法、健康管理の報告の欄、公表の一文の案までで、「就業規則の変更の手続そのもの」「割増賃金の計算と36協定との関係の判断」「特定の副業を制限してよいかの個別の判断」「懲戒に当たるかの判断」は、社会保険労務士や弁護士の範囲です。ガイドラインも、形式的に就業規則に抵触しても職場秩序に影響せず労務提供に支障がない程度のものは禁止違反に当たらないとした裁判例に触れ、懲戒処分は実質的な要素を考慮して慎重に判断するよう求めています。副業の人事が「この副業はだめです」と個別に判断するのは、線を越えます。
担当する側から見ると、うまくいく人は、依頼先の経営者に「原則は認める方向で、制限は四つの場合だけ」というガイドラインの立場を最初に伝え、「禁止したままでよいか」を経営者に判断してもらってから制度を作っています。経営者の意向を聞かずに「認める制度」を作ると、後から「うちは禁止のつもりだった」で覆ります。逆に、経営者が禁止を望んでも、ガイドラインの整理と裁判例の傾向を示したうえで、「制限できる四つの場合を就業規則に書く形なら、必要な制限は残せます」と提案できると、経営者も動きやすくなります。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この提案を最初にできる人は、制度の整備を任せられる担当者として選ばれています。
よくある誤解
「副業を認めるかどうかは、会社が自由に決められる」。ガイドラインは、裁判例を踏まえて、労働時間以外の時間の利用は基本的に労働者の自由で、制限できるのは四つの場合だと整理しています。「認めるかどうか」ではなく「四つの場合に当たるかどうか」で考える制度にします。
「業務委託の副業も、労働時間を通算する」。ガイドラインは、フリーランスや業務委託など労働基準法が適用されない働き方は通算の対象にならないと整理しています。ただし、過労で業務に支障が出ないよう、申告等で就業時間を把握して長時間にならないよう配慮することが望ましい、ともしています。
「副業先の労働時間は、毎日把握しないといけない」。ガイドラインは、必ずしも日々把握する必要はなく、労働基準法を守るために必要な頻度で足りるとし、まとめて申告する例を挙げています。管理モデルを使えば、上限の範囲内で働かせる限り、実労働時間の把握は要らないとされています。
「届出を出さずに副業した社員は、すぐ懲戒できる」。ガイドラインは、形式的に就業規則に抵触しても、職場秩序に影響せず労務提供に支障がない程度のものは禁止違反に当たらないとした裁判例に触れ、懲戒は慎重に判断するよう求めています。個別の判断は弁護士に確認してください。
まとめ
- ガイドラインは原則、副業・兼業を認める方向を示し、制限できるのは労務提供上の支障・秘密の漏洩・競業による利益の侵害・名誉や信用を損なう行為の四つの場合
- 制度は届出制にし、届出で副業先の事業内容・業務内容・通算の対象かどうか・所定労働時間・所定外の見込み・報告の手続を確認する
- 雇用での副業は労働時間を通算する。所定労働時間は契約の先後の順、所定外労働時間は発生の順。管理モデルを使えば上限の範囲内で把握の負担を減らせる
- 健康管理は副業の有無にかかわらず実施し、副業の状況を踏まえた自己管理の指示と相談の受付を入れる。公表は令和4年7月の改定で加わった項目
- 副業の人事が持つのは条文の案・様式・運用の設計まで。就業規則の変更の手続、割増賃金と36協定、個別の制限や懲戒の判断は社会保険労務士や弁護士に
- 個別の判断は、社会保険労務士や弁護士にご確認ください
よくある質問
依頼先の就業規則が「副業禁止」のままです。まず何をすればよいですか
経営者に、ガイドラインが「原則、認める方向」を示していることと、制限できる四つの場合を伝え、「禁止のままでよいか、四つの場合に絞った制限に変えるか」を判断してもらいます。変える場合は、条文の案(原則可、四つの場合に制限、届出制)と届出の様式と通算の運用を一式で作り、就業規則の変更の手続は社会保険労務士に確認してもらいます。禁止のままにする判断を経営者がした場合も、裁判例の傾向を示した記録を残しておきます。制度を整えるときの順番は法改正の追い方と情報源に、副業を始める側の視点は人事の副業の始め方に整理しています。
自分自身が副業をしていることを、依頼先に言ったほうがよいですか
副業の人事として受けている時点で、依頼先は副業であることを知っています。制度の整備の場面では、「自分も副業先に労働時間を申告する側なので、申告する側にとって無理のない頻度と方法を設計できます」と伝えると、依頼先の信頼につながります。本業の会社に対しては、自社の就業規則の副業の条文と届出の手続を確かめ、届出が要るなら出しておきます。本業の会社との関係は人事の副業の始め方の「本業の会社に知られずに始められますか」に書いています。
副業者の労働時間が上限に近づいたら、依頼先はどうすればよいですか
ガイドラインは、時間外労働の上限規制の水準に近づいてきた場合に申告させる運用を例示し、通算して上限を超えないよう、自社の事業場では上限を超えて働かせないこと、必要に応じて時間外・休日労働の免除や抑制を行うことを、労使で話し合っておくことが適当だとしています。管理モデルを使っている場合は、設定した上限の範囲内で働かせる限り守られる形なので、上限の設定を月の初めに確かめる運用にします。上限の計算と割増賃金の扱いは、社会保険労務士に確認してください。労働時間の把握の考え方はテレワークの労務管理にも整理しています。