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就業規則の作成義務|常時10人以上の数え方と、記載事項・効力の三層

公開 2026-09-23

副業で人事を受けて、最初に「就業規則を見せてください」と言うと、返ってくる反応で会社の状態がだいたい分かります。すぐ出てくる会社、探しに行く会社、十年前のものが出てくる会社、そもそもない会社。結論を先に書くと、労働基準法第89条は「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」と定めています。義務の単位は会社ではなく事業場です。そして、就業規則の効力は労働契約法の側で決まります。個別の判断は弁護士や労働基準監督署にご確認ください。変更の手続は就業規則を変更する手続きにまとめています。

「常時十人以上」をどう数えるか

数える単位は事業場です。第89条の主語は「常時十人以上の労働者を使用する使用者」で、届出先も事業場を所轄する労働基準監督署です。施行規則第49条第1項は「使用者は、常時十人以上の労働者を使用するに至つた場合においては、遅滞なく、法第八十九条の規定による就業規則の届出を所轄労働基準監督署長にしなければならない」と定めています。

「労働者」には、パートも有期も入ります。労働基準法第9条は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所…に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義しています。正社員だけを数えて「九人だから不要」としている会社は、見直しが要ります。

「常時」の読み方。一時的に十人を超えたかどうかではなく、通常の状態で十人以上かどうかを見ます。繁忙期だけ十二人になる事業場と、通常十一人の事業場では扱いが変わります。自社の状況への当てはめは、労働基準監督署にご確認ください。

十人未満でも作る意味があります。作成義務がないだけで、作ってはいけないわけではありません。むしろ、労働契約法第7条は「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と定めています。就業規則があって、合理的で、周知されていれば、それが労働契約の内容になるという仕組みです。規則がなければ、労働条件は個別の合意と慣行だけで決まることになり、後から争いになりやすくなります。

記載事項の三種類

第89条が挙げる十号は、性質によって三つに分かれます。

絶対的必要記載事項(第一号〜第三号)。記載しなければならない事項です。

相対的必要記載事項(第三号の二〜第九号)。定めをする場合には記載します。

任意的記載事項(第十号)。「前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」。

第三号と第九号が、実務でいちばん効きます。解雇の事由は絶対的必要記載事項です。就業規則に解雇の事由が書かれていない会社で、解雇の相談を受けたら、そこから直す話になります。懲戒も同じで、第九号は「定めをする場合においては、その種類及び程度」を記載することとしており、規定がなければ懲戒の根拠が立ちません。懲戒の枠組みは懲戒処分の要件にまとめています。

減給の制裁には上限があります。第91条は「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」と定めています。規定を作るときに、ここを外している会社があります。

モデル就業規則。厚生労働省は「モデル就業規則」を公表しています。ゼロから書き起こすより、これを土台にして自社の実態に合わせるほうが、記載漏れが減ります。ただし、モデルの条文をそのまま使うと自社の運用と食い違うことがあるので、条文と実態を突き合わせる作業が本体です。

エラベルの見解

担当する側から見ると、就業規則の案件で最初にやるのは、条文を読むことではなく、実態と規則の突き合わせです。規則には「始業九時」と書いてあるが、実際は現場ごとに違う。「年次有給休暇は前年度からの繰越を含め」と書いてあるが、運用は別の計算をしている。「慶弔休暇は三日」と書いてあるが、誰も使ったことがない。こういうずれが、たいてい十個は出てきます。

このずれを見つける方法は単純で、規則の条文を一つずつ現場に読み上げて「そのとおりですか」と聞くことです。人事だけで読んでも見つかりません。現場のリーダーに三十分もらって読み上げると、次々に「それは違います」が出てきます。

そのうえで、直す方向を決めます。規則に実態を合わせるのか、実態に規則を合わせるのか。ここは会社の判断ですが、材料を並べるのはこちらの仕事です。労働契約法第12条は「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と定めているので、規則のほうが有利な条件を書いていれば、そちらが適用されるという構造も伝えます。実態のほうが下回っているずれは、放っておくと未払いになります。エラベルは依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この突き合わせをやり切った経験は、経歴に書いておくと効きます。

効力の順番と、作るときの手順

就業規則は、他のルールとの上下関係の中に置かれています。

関係条文内容
法令・労働協約と就業規則労基法第92条第1項就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。第2項は、行政官庁が牴触する就業規則の変更を命ずることができると定める
同上労契法第13条就業規則が法令又は労働協約に反する場合、反する部分については第7条・第10条・第12条を適用しない
就業規則と労働契約労契法第12条就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効。無効となった部分は就業規則の基準による
労働契約の内容労契法第7条合理的な労働条件が定められている就業規則を周知させていた場合、労働契約の内容はその就業規則によるもの。個別により有利な合意をした部分は除く
労基法との関係労基法第93条労働契約と就業規則との関係は、労働契約法第12条の定めるところによる

第7条の二つの条件を忘れないこと。「合理的な労働条件が定められている」ことと、「周知させていた」こと。作っただけでは、労働契約の内容にはなりません。

副業の人事が作るのは、次の形です。個別の適否の判断は弁護士や労働基準監督署にご確認ください。

段階やること
1 事業場の確認事業場ごとに労働者数を数える。パート・有期を含める。届出先の監督署を特定
2 既存規程の棚卸し本則のほか、賃金規程・退職金規程・育児介護休業規程・旅費規程など別規程の有無
3 実態との突き合わせ条文を現場に読み上げて確認。ずれを一覧にする
4 記載事項の点検第89条の一号〜三号(絶対的)、三号の二〜九号(相対的)の漏れ
5 解雇と懲戒第三号の解雇の事由、第九号の制裁の種類及び程度。第91条の減給の上限
6 上下関係の確認法令・労働協約に反していないか。別規程との矛盾がないか
7 意見聴取第90条。過半数代表者の選出手続から確かめる
8 届出第89条・施行規則第49条。意見を記した書面に代表者の氏名を記載して添付
9 周知第106条・施行規則第52条の2の三つの方法。日付を記録
10 運用の設計誰が保管するか、入社時にどう渡すか、次の見直しはいつか

別規程との矛盾が抜けます。本則を直しても、賃金規程や育児介護休業規程が古いままになっていることがよくあります。規程の一覧を作って、最終改定日を並べると、手をつけていないものが見えます。

育児介護や安全衛生の改正にも連動します。法改正で就業規則の見直しが必要になる場面は定期的に来ます。追い方は法改正の追い方と情報源にまとめています。

エラベルの見解

外に出してよいのは、事業場ごとの人数の整理、既存規程の棚卸し、実態とのずれの一覧、記載事項の点検、意見聴取・届出・周知の段取り、運用の設計までで、「この条項が法令に適合しているか」「この労働条件が就業規則の基準に達しているか」といった個別の判断は、弁護士や社会保険労務士、労働基準監督署の範囲です。副業の人事が持つのは、手続と材料と設計であって、法的な結論ではありません。

担当する側から見ると、就業規則の仕事は、会社の記憶を書き起こす作業です。なぜこの手当があるのか、なぜこの休暇の日数なのか、なぜこの役職から管理職なのか。聞いていくと、十年前の誰かの判断が理由だったり、誰も理由を知らなかったりします。ここを一つずつ言語化していくと、会社は自分の姿を見ることになります。

そして、この作業は採用にも待遇差の整理にもつながります。就業規則の条項を実態に合わせる過程で、職務の内容と責任の程度が言語化され、雇用区分ごとの違いの理由が出てきます。同一労働同一賃金の整理も、有期雇用と無期転換の設計も、土台は同じです。就業規則から入って人事制度全体に広がる案件が多いのは、そのためです。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この広がりを経験した人は、次の案件で選ばれやすくなります。

まとめ

よくある質問

パートを含めると十人を超えますが、正社員は八人です

労働基準法第9条は「労働者」を、職業の種類を問わず事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者と定義しています。雇用形態による限定は置かれていません。したがって、パートタイム労働者や有期雇用労働者も含めて数えるのが条文の読み方です。また、義務の単位は事業場なので、本社と支店、店舗ごとに数えます。自社の状況への当てはめは、所轄の労働基準監督署にご確認ください。

就業規則がない会社では、どこから手をつければよいですか

まず事業場ごとの労働者数を数え、第89条の作成義務がかかる事業場を特定します。そのうえで、厚生労働省が公表しているモデル就業規則を土台に、第89条の一号から十号までの記載事項を埋めていきます。実務では、条文を先に書くより、現在の運用(始業終業の時刻、休日、賃金の締めと支払、休暇の扱い、退職の手続)を聞き取って一覧にするほうが早く進みます。義務がない規模であっても、労働契約法第7条は合理的な労働条件が定められている就業規則を周知させていた場合に労働契約の内容がそれによるとしているので、作る意味はあります。個別の判断は労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。

就業規則と個別の労働条件が食い違っています

労働契約法第12条は「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と定めています。個別の合意が就業規則を下回る場合は、就業規則の基準が適用される構造です。一方、第7条ただし書きは、労働契約において就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分について、第12条に該当する場合を除き就業規則によらない旨を定めています。実務では、食い違いを条項ごとに洗い出し、どちらが有利かを確かめたうえで整理します。個別の判断は弁護士にご確認ください。

出典