人事副業 / 人事の前提知識
解雇の要件|労働契約法第16条と、禁止される場合・手続・証明書
副業で人事を受けていると、解雇の相談が持ち込まれることがあります。ここは判断が法的なもので、副業の人事が結論を出す場所ではありません。一方で、依頼先が「解雇したい」と言い出したときに、手続の全体像を示せるかどうかで、その後の進み方が変わります。この記事は、解雇の前提を、条文と厚生労働省の資料に沿って整理したものです。結論を先に書くと、労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。あわせて、一定の場合には解雇が禁止されており、解雇を行う場合には労働基準法第20条により少なくとも30日前の予告か30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払が必要で、就業規則には解雇の事由を定めておくことが必要とされています。判断は弁護士の範囲です。個別の事案は必ず専門家にご確認ください。整理解雇は整理解雇の4要素に、懲戒処分は懲戒処分の要件に、退職勧奨は退職勧奨の進め方にまとめています。
条文と、確かめる順番
労働契約法第16条(解雇)。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
厚生労働省のパンフレットは、労働契約法について、罰則はないが、解雇等に関して民法の権利濫用法理を当てはめた場合の判断の基準などを規定しており、私法上の効果を明確化するものだと説明し、民事裁判や労働審判は労働契約法の規定を踏まえて行われる、としています。
実務では、次の順番で確かめます。
| 順番 | 確かめること | 根拠として示されているもの |
|---|---|---|
| 一 | 解雇が禁止される場合に当たらないか | 労働基準法第19条・第3条、労働組合法第7条ほか |
| 二 | 就業規則に解雇の事由が定められ、周知されているか | 労働基準法第89条、第106条 |
| 三 | その事由に当たる事実があるか | 事実確認 |
| 四 | 客観的に合理的な理由を欠かないか、社会通念上相当か | 労働契約法第16条(判断は弁護士) |
| 五 | 予告または解雇予告手当の手続 | 労働基準法第20条 |
| 六 | 届出・通知の要否 | ハローワークへの届出・通知 |
| 七 | 退職時の証明の請求への対応 | 労働基準法第22条 |
解雇が禁止される場合
厚生労働省のパンフレットでは、主に次のような解雇が禁止されているとして、挙げられています。
業務上の傷病による休業期間およびその後30日間の解雇、産前産後の休業期間およびその後30日間の解雇(労働基準法第19条)。国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法第3条)。労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法第7条)。女性(男性)であること、女性の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第6条、第9条)。通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者について、パートタイム・有期雇用労働者であることを理由とする解雇(パートタイム・有期雇用労働法第9条)。障害者であることを理由とする解雇(障害者雇用促進法第35条)。労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇(労働基準法第104条ほか)。育児・介護休業等の申出等をしたこと、取得したこと等を理由とする解雇(育児・介護休業法の各規定)。育児休業等に関するハラスメントの相談を行ったことを理由とする解雇(育児・介護休業法第25条)。セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第11条、第11条の3)。パワーハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由とする解雇(労働施策総合推進法第30条の2)。紛争解決援助を求めたことまたは調停の申請をしたことを理由とする解雇。個別労働紛争解決促進法に基づく紛争解決援助を求めたこと、あっせん申請をしたことを理由とする解雇。公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法第3条)。
実務での意味。ここは、副業の人事が最初に確かめられる部分です。相談を受けた時点で、本人が直近で休業していないか、ハラスメントの相談をしていないか、育児・介護の申出をしていないか、を時系列で並べます。禁止される場合に当たるかどうかの判断は弁護士に渡しますが、材料を揃えることはできます。
手続と、就業規則の定め
解雇予告。労働基準法第20条により、解雇を行う場合には、少なくとも30日前に解雇の予告をすること(予告の日数が30日に満たない場合には、その不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要がある)、予告を行わない場合には30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うこと、とされています。
解雇事由の定め。厚生労働省のパンフレットでは、退職に関することは労働条件の重要な事項であり、定年制や解雇等の退職に関する事項は就業規則に定めておかなければならない(労働基準法第89条)とされ、就業規則は常時各作業場の見やすい場所に掲示または備え付けること、書面を交付すること等により労働者に周知しなければならない(労働基準法第106条)と説明されています。
ハローワークへの届出。やむを得ず一定期間内に相当数の離職者が発生する場合や、高年齢者・障害者・外国人を解雇する場合は、ハローワークに届出や通知を行うことが必要だと案内されています。
退職時の証明。労働基準法第22条により、労働者が退職する場合に、①使用期間、②業務の種類、③その事業における地位、④賃金、⑤退職の事由(解雇の場合は、その理由を含む)について証明書を請求したときは、遅滞なく証明書を交付しなければならないとされ、また、労働者に解雇の予告をした場合に、労働者が解雇の理由について証明書を請求したときにも、遅滞なく証明書を交付しなければならない、とされています。この証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない、とも説明されています。
有期労働契約の場合。労働契約法第17条第1項により、有期労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ契約期間が満了するまでの間に解雇することはできないとされ、期間の定めのない労働契約を結んでいる場合の解雇よりも解雇の有効性は厳しく判断される、と説明されています。
エラベルの見解
担当する側から見ると、この相談を受けたときに最初にやるべきことは、可否を考えることではなく「解雇以外の選択肢を並べる」ことです。相談で見ていると、経営が「解雇したい」と言うとき、実際に困っているのは、成績が上がらない、遅刻が多い、周囲と合わない、といった状態です。解雇はその解決手段の一つですが、最も強く、最も覆りやすい手段でもあります。配置の変更、業務の見直し、注意と指導の記録を残しながらの改善の機会、本人との話し合い、退職勧奨。それぞれについて、必要な期間と手続と、想定される結果を並べます。
厚生労働省のパンフレットには、勤務成績を理由とする解雇について、就業規則に「労働能力が劣り、向上の見込みがない」ことを解雇事由として掲げていても、相対評価の考課順位が下位であることを理由に直ちに著しく労働能力が劣るとはいえないとし、労働能力の向上を図る余地があったにもかかわらず体系的な教育・指導が行われなかったとして解雇を権利の濫用と認めた裁判例が紹介されています。ここから読めるのは、「指導と改善の機会をどう設けたか」が問われるということです。この記録を作ることは、人事の仕事です。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この局面で選択肢と記録を整えられる人は、強く求められます。
副業の人事が持てる範囲
| 持てる(副業の人事) | 持てない(弁護士・社会保険労務士) |
|---|---|
| 禁止される場合に当たらないかの時系列の整理 | 該当するかどうかの法的な判断 |
| 就業規則の解雇事由の確認と、周知の確認 | 規定の有効性の判断 |
| 事実確認の段取りと記録の様式 | 事実の法的な評価 |
| 指導と改善の機会の設計と記録 | 解雇の可否と相当性の判断 |
| 解雇以外の選択肢の整理 | どの選択肢を選ぶべきかの法的な助言 |
| 予告・手当・届出・証明書の期限と担当の一覧 | 手続の代行、除外認定の要否の判断 |
線を伝える。契約の前に「解雇の可否は弁護士に確認してください。私は手続と記録を整え、確認するための材料を作ります」と伝えます。この線を引かずに「難しいと思います」「いけると思います」と言うと、依頼先の判断を誤らせます。
エラベルの見解
外に出してよいのは、禁止される場合の時系列の整理、就業規則の確認、事実確認の段取りと記録、指導と改善の機会の設計、解雇以外の選択肢の整理、手続の期限と担当の一覧までで、「この解雇は有効か」「この事由に当たるか」「予告除外認定を取れるか」といった判断は、弁護士や社会保険労務士、労働基準監督署の範囲です。
担当する側から見ると、この領域で最も価値が出るのは、平時の設計です。解雇の相談が来てから指導の記録を作ることはできません。日頃から、問題が起きたときに注意した記録、改善の目標と期限、面談の記録が残る形にしておくと、いざというときに材料があります。逆に、記録が何もない状態で相談が来たら、まずそこから作ることになり、時間がかかります。平時に「注意と改善の記録の型」を入れておくことが、結果として依頼先を守り、本人にも改善の機会を与えます。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、平時の設計から入れる人が、この領域で続けて頼まれています。
まとめ
- 労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めている
- 一定の場合には解雇が禁止されている(業務上の傷病や産前産後の休業期間とその後30日間、国籍・信条・社会的身分、ハラスメントの相談、公益通報など)
- 解雇を行う場合、少なくとも30日前の予告か、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)が必要(労働基準法第20条)
- 就業規則に解雇の事由を定め、周知しておく(労働基準法第89条、第106条)
- 退職時の証明(労働基準法第22条)。請求があれば遅滞なく交付し、請求しない事項は記入しない
- 有期労働契約はやむを得ない事由がなければ期間中に解雇できず、有効性はより厳しく判断される。判断は弁護士にご確認ください
よくある質問
「勤務成績が悪いので解雇したい」と言われました
厚生労働省のパンフレットには、就業規則に「労働能力が劣り、向上の見込みがない」ことを解雇事由として掲げていても、相対評価の考課順位が下位であることを理由に直ちに著しく労働能力が劣るとはいえないとし、体系的な教育・指導が行われなかったとして解雇を権利の濫用と認めた裁判例が紹介されています。実務としては、これまでにどういう指導をし、どういう改善の機会を設け、その結果どうだったかを整理します。記録がない場合は、これから作る形になります。可否の判断は弁護士にご確認ください。
試用期間中なら、自由に解雇できますか
試用期間中であっても、解雇には労働契約法第16条の枠組みが及びます。「試用期間だから自由」という扱いはできません。また、解雇予告の手続や、解雇が禁止される場合の確認も同じように必要です。採用の段階で、試用期間中に何を見るのか、どういう場合に本採用としないのかを明確にし、その基準に沿って評価と面談の記録を残す形にしておきます。個別の判断は弁護士にご確認ください。採用内定の段階の扱いも、別の枠組みで判断されます。
解雇の理由の証明書を求められました
労働基準法第22条により、労働者に解雇の予告をした場合に、労働者が解雇の理由について証明書を請求したときは、遅滞なく証明書を交付しなければならないとされています。また、退職する場合に、使用期間・業務の種類・その事業における地位・賃金・退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)について請求があったときも、遅滞なく交付することとされています。証明書には労働者の請求しない事項を記入してはならない、とも説明されています。記載の内容は、後の紛争にも関わるので、弁護士や社会保険労務士に確認したうえで作成します。手続の流れは入退社手続きの流れに整理しています。