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就業規則を変更する手続き|労契法第9条・第10条の五つの要素と、踏む順番

公開 2026-09-23

副業で人事を受けていると、就業規則の変更を任されることがあります。手当の見直し、休暇制度の整備、副業規定の新設、労働時間の変更。このとき会社が聞いてくるのは、だいたい「労働基準監督署に出せばいいんですよね」です。届出は手続の一部にすぎません。結論を先に書くと、労働契約法第9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定め、第10条が、その例外として、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が合理的なものであるときに労働条件が変更後の就業規則によるものとなることを定めています。届出は労働基準法第89条の義務で、労働条件が変わるかどうかは労働契約法の側で決まります。個別の判断は弁護士や労働基準監督署にご確認ください。作成の義務と記載事項は就業規則の作成義務にまとめています。

三つの経路を分ける

労働条件を変える方法は、条文の上で三つに分かれます。

一、合意による変更(労働契約法第8条)。「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」。本人が同意すれば変えられる、という当たり前のことを定めた条文です。ただし、合意の有無は形式ではなく実質で見られる領域なので、署名を取れば足りるとは限りません。

二、就業規則による変更(第9条・第10条)。第9条は「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」。

第10条は、その「次条」です。「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」。ただし書きで、「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない」としています。

三、労働協約による変更。労働組合との間の労働協約は別の枠組みです。労働基準法第92条第1項は「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と定め、労働契約法第13条は、就業規則が法令又は労働協約に反する場合に第7条・第10条・第12条を適用しない旨を定めています。

不利益かどうかの線引き。第9条がかかるのは「労働者の不利益に」変更する場合です。有利な変更や、中立的な整理であれば第10条の合理性の議論には入りません。ただし、何が不利益かは見る角度で変わります。手当を廃止して基本給に組み込む、労働時間を短くして賃金も下げる、といった変更は、項目ごとに見ると不利益な部分が出てきます。変更点を一つずつ並べて、それぞれ有利・不利・中立を仕分けるところから始めます。

第10条の五つの要素

第10条が挙げる考慮要素は、実務ではそのまま作業項目になります。

一、労働者の受ける不利益の程度。誰が、いくら、いつから影響を受けるのか。人数と金額を出します。「平均で月三千円」ではなく、一番影響を受ける人でいくらかを出すのが要点です。

二、労働条件の変更の必要性。なぜ今、変える必要があるのか。業績、法改正への対応、制度の整合性、人材の確保。抽象的な「将来のため」では材料になりません。数字と時期で書けるかを確かめます。

三、変更後の就業規則の内容の相当性。変更後の内容そのものが妥当か。代償措置や経過措置があるか。同業他社や一般的な水準と比べてどうか。ここが、実務でいちばん設計の余地がある部分です。

四、労働組合等との交渉の状況。組合があるなら交渉の経過、ないなら従業員代表や説明会での議論の経過。回数、日付、出た意見、それにどう答えたかを記録に残します。

五、その他の就業規則の変更に係る事情。上の四つに収まらない事情です。

「合理性」は、この五つを並べて判断される構造です。会社に説明するときは、五つの見出しを立てた一枚の資料を作り、それぞれに自社の事実を書き込んでもらいます。書けない欄が出たら、そこが足りないところです。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この案件でやってはいけないのは、条文の順番どおりに進めることです。第10条は周知と合理性を並べていますが、実務の順番は逆から組みます。先に「五つの要素のうち、自社は何を書けるか」を確かめる。書けないものがあるなら、そこを作る作業から入る。代償措置を用意する、経過措置の年数を決める、説明会を二回に増やす。変更案を固めてから説明するのではなく、説明できる形に変更案を寄せる、という順番です。

実務で効くのは、影響額の一覧です。全従業員について、変更前後の年収や労働時間の差を出す。これを作ると、会社は自分で気づきます。「この五人だけ影響が大きいな」「この層には代償が要るな」。数字を見ると、経過措置の設計が具体的になります。逆に、影響額を出さずに進める変更は、後から個別に揉めます。

もう一つ、記録を作る習慣です。説明会の日付と出席者、出た質問、回答。従業員代表の選出手続。意見書の内容と、それを受けて修正したかどうか。第10条の「労働組合等との交渉の状況」は、後から作れません。進めながら残すしかない材料です。エラベルは依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、規程変更を最後まで回した経験は、経歴に書いておくと効きます。

踏む順番と、三つの手続

労働基準法の側の手続は三つです。意見聴取・届出・周知。

意見聴取(第90条)。「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない」。第2項は「使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない」。

条文は「意見を聴く」であって、同意ではありません。反対意見が付いていても届出自体は受理されます。ただし、第10条の合理性の判断では「労働組合等との交渉の状況」が考慮要素なので、反対意見を無視して進めれば、その事実が残ります。手続としては通るが、効力の議論では不利に働き得る、という二段構えです。

届出(第89条、施行規則第49条)。第89条は「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」。施行規則第49条第1項は、常時十人以上を使用するに至った場合の遅滞ない届出を、第2項は「前項の届出に添付すべき意見を記した書面は、労働者を代表する者の氏名を記載したものでなければならない」と定めています。

周知(第106条第1項、施行規則第52条の2)。第106条第1項は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、各種の労使協定・決議を「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない」と定めています。施行規則第52条の2は、その方法を次の三つとしています。

周知は、第10条の要件でもあります。労働契約法第10条は「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ…合理的なものであるとき」と書いています。周知がなければ、そもそも第10条の入口に立ちません。社内ポータルに置くなら、各作業場で常時確認できる機器があるかを確かめます。工場や店舗で端末がない職場は、ここが抜けます。

労働契約法第11条は「就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法第八十九条及び第九十条の定めるところによる」と定め、両法をつないでいます。

副業の人事が作るのは、次の形です。個別の適否の判断は弁護士や労働基準監督署にご確認ください。

段階やること
1 変更点の棚卸し条項ごとに、有利・不利・中立を仕分ける
2 影響の算定誰が、いくら、いつから。最も影響が大きい人の数字を出す
3 必要性の言語化数字と時期で書く。抽象的な理由にしない
4 代償・経過措置内容の相当性を支える設計。年数と対象を決める
5 説明の段取り説明会の回数・対象・資料。質疑と回答の記録
6 過半数代表者組合の有無を確認。ない場合の選出手続(投票・挙手等)と記録
7 意見聴取第90条。意見書に代表者の氏名を記載してもらう
8 届出第89条。所轄の労働基準監督署へ、意見書を添付
9 周知第106条・施行規則第52条の2の三つの方法のいずれか。日付を記録
10 個別の合意必要に応じて第8条の合意を取る場合の書面と説明

周知の日付を残します。いつから周知したのかが分からないと、第10条の要件を満たしたと言えません。掲示した日、配布した日、ポータルに載せた日を記録します。

副業規定や休暇制度の新設も同じ流れです。副業の許可制を入れる場合の設計は企業側から見た副業許可制度に、テレワークに伴う費用負担などの規定はテレワークの労務管理にまとめています。

エラベルの見解

外に出してよいのは、変更点の棚卸し、影響額の算定、必要性の資料化、代償・経過措置の案、説明会の設計と記録、過半数代表者の選出手続、意見聴取・届出・周知の段取りまでで、「この変更が合理的と認められるか」「この同意で足りるか」といった個別の判断は、弁護士や労働基準監督署の範囲です。副業の人事が持つのは、手続と材料と設計であって、法的な結論ではありません。

担当する側から見ると、この案件でいちばん価値が出るのは、過半数代表者の選出手続を直すときです。多くの会社は、総務が「今年はあなたね」と指名しています。第90条は過半数を代表する者の意見を聴くことを求め、施行規則第49条第2項は意見書に代表者の氏名を記載することを求めていますが、そもそも代表者が適切に選ばれていなければ、手続全体の土台が揺らぎます。ここを直すと、就業規則だけでなく、三六協定も、裁量労働制も、労使協定方式の派遣も、全部の土台が固まります。

地味な作業ですが、会社は気づきません。だから、規程変更の案件に入ったとき、最初に「代表者はどう選ばれていますか」と聞きます。ここで詰まる会社は多く、詰まった時点で、この案件の本当の仕事が見えます。表面の条文を直すのではなく、手続が成り立つ土台を作る。これができる人が、制度まわりで長く頼まれています。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この経験は経歴に書いておくと効きます。

まとめ

よくある質問

労働者代表が反対しても、就業規則は変更できますか

労働基準法第90条第1項が求めているのは「意見を聴かなければならない」ことであり、同意ではありません。第2項により、届出には意見を記した書面を添付します。したがって、反対意見が付いていても届出の手続としては成り立ちます。ただし、労働契約法第10条は変更の合理性を判断する要素の一つとして「労働組合等との交渉の状況」を挙げているので、反対意見にどう対応したかは、労働条件が変更されるかどうかの議論に影響し得ます。個別の判断は弁護士や労働基準監督署にご確認ください。

社内ポータルに掲載すれば、周知したことになりますか

労働基準法施行規則第52条の2は、周知の方法として、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し又は備え付けること、書面を労働者に交付すること、使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること、の三つを挙げています。電磁的な方法による場合は、各作業場に常時確認できる機器があることが条件に含まれています。端末のない現場がある会社では、掲示や書面の交付を併用するのが実務です。個別の判断は労働基準監督署にご確認ください。

手当を廃止する代わりに基本給を上げるのは、不利益変更ですか

労働契約法第9条がかかるのは、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更する場合です。実務では、変更点を条項ごとに並べ、それぞれについて有利・不利・中立を仕分けたうえで、個々の労働者ごとの影響額を算定します。総額で増える人と減る人が混在することが多く、減る人がいれば不利益な部分があるという整理になります。そのうえで、第10条の五つの要素(不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の事情)に沿って材料を揃えます。当てはめの個別の判断は、弁護士にご確認ください。

出典