人事副業 / 人事の前提知識

配置転換の限界|権利濫用とされる場合と、出向で確かめること

公開 2026-09-23

副業で人事を受けていると、配置転換や出向の相談を受けることがあります。人員の配置は会社の裁量で行うものですが、無制限ではありません。特に、退職に向かわせることを目的とした配置は、裁判例で厳しく判断されています。この記事は、配置転換と出向の前提を、厚生労働省の資料が引用する裁判例と条文に沿って整理したものです。結論を先に書くと、厚生労働省のパンフレットは、配置転換を命ずるには就業規則等にその根拠を置くことが望まれるとしたうえで、裁判例では、就業規則に配置転換を命ずることができる旨の定めがある場合でも、配置転換は無制限に認められるわけではなく、①不当な動機・目的の有無や、②配置転換命令の業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の生活上の不利益とを比較衡量した結果により、配置転換命令が権利濫用に当たると判断され無効となる場合もある、としています。出向については、労働契約法第14条が「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めています。個別の事案の判断は弁護士にご確認ください。転勤は転勤命令の有効性に、退職勧奨は退職勧奨の進め方にまとめています。

配置転換で確かめること

就業規則の根拠。厚生労働省のパンフレットでは、配置転換を命ずるには、就業規則等にその根拠を置くことが望まれる、とされています。

無制限ではない。同パンフレットは、裁判例では、就業規則に配置転換を命ずることができる旨の定めがある場合でも、配置転換は無制限に認められるわけではないとし、次の二つにより権利濫用に当たると判断され無効となる場合もある、と説明しています。

確かめることパンフレットの記載
一不当な動機・目的の有無
二配置転換命令の業務上の必要性と、その命令がもたらす労働者の生活上の不利益との比較衡量

転勤の判決との関係。同パンフレットは、配置転換等を命ずるに当たっては、最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決が示している業務上の必要性やその動機・目的および労働者が被る不利益の程度を十分に踏まえた上で対応するように、としています。この判決の内容は転勤命令の有効性に整理しています。

無効とされた裁判例。パンフレットには、配置転換命令が無効とされた裁判例として、自らの社内での配置先を探させられるほかは単純労働のみを行うような部署へ配属することは、人事権の裁量の範囲を逸脱した違法なものとして無効となる場合があるとする裁判例が紹介されています。引用されている裁判例(東京地裁立川支部平成24年8月29日判決)では、配属された社員が名刺も持たされず社内就職活動をさせられるほかは単純労働をさせられたのみであったこと、配属先が見つかればD評価、見つからなければE評価という運用がなされていたこと、電話にも出ないよう指示されていたこと等を総合すると、実質的な退職勧奨の場となっていた疑いが強く違法な制度であったといわざるを得ない、という内容が示されています。

パンフレットは、これに類似するような、社内配置転換・子会社や人材会社等への出向をさせ、配置転換先等で自らの次の配置転換先、再就職先、出向先を探させるような業務命令は、働く方々が安心して働ける職場環境という観点からは不適切である、としています。

育児・介護への配慮。育児・介護休業法第26条により、就業場所の変更を伴う配置の変更を行おうとする場合に、その変更で子育てや介護が困難になる従業員がいるときは、当該従業員の子育てや介護の状況に配慮しなければならない、とされています。

出向で確かめること

条文。労働契約法第14条(出向)は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めています。

命ずるための前提。厚生労働省のパンフレットでは、出向(在籍出向)を命ずるには、次のいずれかを満たす必要があるとされている、と説明されています。労働者に対して個別的な同意を得ること。出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが、就業規則等で、労働者の利益に配慮して整備されていること。

無効とされた裁判例。パンフレットには、出向命令が無効とされた裁判例として、一貫してデスクワークの仕事をしてきた労働者を、希望退職募集への応募の勧奨を断った段階で子会社に出向させて単純作業に従事させることは、退職勧奨を断った労働者が自主退職することを期待して行われたものであって業務上の必要性がなく、また人選の合理性も認めることもできないことから、権利の濫用として無効となる場合があるとする裁判例が紹介されています。

引用されている裁判例(東京地裁平成25年11月12日判決)では、事業内製化による固定費の削減を目的とするものである限りは出向命令に業務上の必要性を認めることができるとしつつ、余剰人員の人選が基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠けていたこと、人選は事業内製化を一次的な目的とするものではなく退職勧奨の対象者を選ぶために行われたとみるのが相当であること、子会社における作業は立ち仕事や単純作業が中心で出向者には個人の机やパソコンも支給されていないこと、それまで一貫してデスクワークに従事してきた原告らのキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難いこと等から、本件出向命令は人事権の濫用として無効というほかない、という内容が示されています。

実務で読み取れること。条文が挙げる「その必要性」「対象労働者の選定に係る事情」は、この裁判例でもそのまま問題にされています。必要性の説明と、人選の基準・過程・慎重さが、出向の運用の中心になります。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この二つの裁判例から読み取るべき最も重要な点は、「目的が後から見抜かれる」ということです。どちらの事案でも、会社は配置転換や出向として形を整えていました。それでも、名刺を持たせない、電話に出ないよう指示する、個人の机やパソコンを支給しない、配属先が見つからなければ低い評価にする、といった運用の細部から、実質的には退職に向かわせる場だったと判断されています。形式を整えても、運用の実態が残ります。

副業の人事が入るなら、まず「その配置で、本人は何をするのか」を具体的に確かめます。任せる業務、必要な設備、評価の扱い、期間、その後の見通し。これが空欄のままの配置は、目的が配置ではなく別のところにある可能性があります。ここで「本人に何をしてもらうか決まっていないなら、配置ではありません」と言えるかどうかが、副業の人事の役割です。経営に同調して形だけ整えると、後から会社も本人も傷つきます。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この場面で立ち止まれる人は、結果的に強く信頼されています。

運用に落とす形

副業の人事が作るのは、次の形です。命令の有効性の判断は弁護士に渡します。

論点整えること
根拠就業規則等に配置転換・出向を命ずることができる旨の定めがあるか
必要性なぜその配置が必要か、なぜその時期か、なぜその人か
配置先の中身任せる業務、必要な設備、指揮命令、評価の扱い、期間、その後の見通し
人選基準、当てはめの過程、記録(出向では条文が「対象労働者の選定に係る事情」を挙げている)
不利益本人の生活上の不利益(通勤、家庭、職務内容の変化)を聞き取り、記録する
育児・介護就業場所の変更を伴う場合、子育てや介護の状況への配慮(育児・介護休業法第26条)
出向の条件個別的な同意を得るか、就業規則等で賃金・労働条件・期間・復帰の仕方が労働者の利益に配慮して整備されているか
本人への説明内示の前に事情を聞く場、伝える内容、考える時間
記録検討の過程、聞き取った事情、会社の対応

「配置先の中身」が空欄なら止める。裁判例が問題にしたのは、まさにここです。任せる業務が決まっていない、設備が用意されていない、評価の扱いが不利に設計されている。こうした状態で配置を進めると、後から実態が問われます。

出向は条件を先に確かめる。個別的な同意を得るのか、就業規則等の整備に拠るのか。後者の場合、賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方が、労働者の利益に配慮して整備されているかを確かめます。整備されていないなら、先に整備します。

復帰の道筋。出向は復帰が前提の仕組みなので、復帰の仕方が決まっていることが要ります。「いつまで」「どういう条件で戻るか」が空欄の出向は、本人にとって先が見えません。

エラベルの見解

外に出してよいのは、就業規則の根拠の確認、必要性と人選の説明の整理、配置先の業務と設備と評価の設計、本人の事情の聞き取りと記録、出向の条件(同意か就業規則等の整備か)の確認、復帰の道筋の設計までで、「この配置転換は有効か」「この出向命令は権利濫用に当たるか」「拒否されたらどうするか」といった判断は、弁護士の範囲です。

担当する側から見ると、この領域で最も大事なのは、経営に「それは配置ではありません」と言える立場を保つことです。人員を減らしたい、辞めてほしい、という動機がある局面で、配置や出向が手段として選ばれることがあります。そのとき、副業の人事が形式を整える役に回ってしまうと、会社の側の道具になります。任せる業務が決まっているか、設備はあるか、評価は不利に設計されていないか、復帰の道筋はあるか。この四つを聞くだけで、目的が配置なのかどうかが見えます。外部から入る立場だからこそ、この問いを出せます。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この問いを出せる人が、結果として長く関わっています。

まとめ

よくある質問

「辞めてもらうために、別の部署に移したい」と言われました

その目的での配置は、引用されている裁判例が問題にした構図に近くなります。厚生労働省のパンフレットも、自ら次の配置転換先や再就職先を探させるような業務命令は、安心して働ける職場環境という観点から不適切だとしています。実務としては、「その配置で本人に何をしてもらうのか」を具体的に確かめ、決まっていないなら配置としては進められないことを伝えます。人員の見直しが必要なら、別の手段(配置の見直し、退職勧奨、整理解雇)をそれぞれの手続に沿って検討する形になります。判断は弁護士にご確認ください。

出向に本人の同意は要りますか

厚生労働省のパンフレットでは、出向(在籍出向)を命ずるには、労働者に対して個別的な同意を得るか、出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが就業規則等で労働者の利益に配慮して整備されていることの、いずれかを満たす必要があるとされている、と説明されています。後者に拠る場合は、就業規則等の整備の内容を確かめます。整備されていない状態で命じると、前提を欠きます。個別の事案での判断は弁護士にご確認ください。

配置転換で職務内容が大きく変わる場合、何に気をつけますか

厚生労働省が引用する裁判例では、それまで一貫してデスクワークに従事してきた労働者のキャリアや年齢に配慮した異動とはいい難いことが、判断の要素として挙げられています。職務内容が大きく変わる配置では、なぜその変更が必要か、本人のこれまでの経験とどうつながるか、必要な教育や引き継ぎをどう行うかを設計し、本人に説明します。評価や処遇が不利になる場合は、その扱いも先に決めます。設計と説明の記録を残すことが、後の説明の根拠になります。個別の判断は弁護士にご確認ください。

出典