人事副業 / 採用・人事の実務
研修を設計する|「教える内容」からではなく、「翌週に変わってほしい行動」から逆算して組む型
「管理職向けの研修を設計してほしい」という依頼で、教えたい内容(マネジメントの基本、コミュニケーション、評価の仕方)を並べて一日の研修を組むと、受講者は「勉強になりました」と言い、翌週の行動は何も変わりません。内容から作った研修は、内容を渡すことはできても、行動を変えることはできません。結論を先に書くと、研修の設計は、「受講者の翌週の行動を一つ決める」ことから逆算し、受講者のいまの状態・変わってほしい行動・行動に要る知識と練習・進行・翌週から一か月の確認の五つを組み、受講者の状態は上司への聞き取りと事前の確認で把握し、演習は受講者の実際の場面で行い、上司を研修の前と後に巻き込み、効果は満足度ではなく翌週の行動で見ます。講師を案件として受ける形は研修講師の副業の実務に書いています。ここでは、設計の型に絞ります。
内容から作ると「聞いて終わり」になる
| 内容から作った研修 | 何が起きるか |
|---|---|
| 教えたいことを全部入れる | 一日が説明で埋まり、練習の時間が無い |
| 一般的な教材をそのまま | 受講者の実際の場面と離れ、「うちは違う」で終わる |
| 満足度のアンケートで評価 | 「分かりやすかった」と「行動が変わった」は別 |
| 上司が関わらない | 翌週、上司が研修の内容を知らず、行動が続かない |
| 一回で全部 | 一回で変わる行動は一つ。全部は無理 |
研修で変わるのは、「一つの行動」です。一つに絞り、その行動に要るものだけを教え、練習し、翌週に上司が見る。それで初めて、研修は行動になります。
出発点は「翌週の行動を一つ」
| 依頼の言葉 | 翌週の行動に置き換える |
|---|---|
| 「管理職のマネジメント力を上げたい」 | 「管理職が、部下との1on1で、自分が話すより問いを多くする」 |
| 「面接官の見る目を揃えたい」 | 「面接官が、評価シートの事実の欄を、候補者の言葉で書く」 |
| 「新人に報連相を教えたい」 | 「新人が、判断に迷ったときに、上司に『いま迷っています』と当日中に言う」 |
| 「評価者研修をしたい」 | 「評価者が、面談で本人に場面を先に話してもらう」 |
行動は、「誰が、どの場面で、何をする」の形で、翌週に上司が見て分かるものにします。決めるのは依頼側で、担当者は依頼の言葉を行動に置き換える案を出します。
エラベルの見解
担当する側から見ると、研修の設計で最も差がつくのは、「変わってほしい行動を一つに絞る」を依頼側に通せるかです。受ける側は、依頼側の「せっかく集めるのだから」に応えて、内容を足します。足すほど、練習の時間が減り、受講者はどの行動を変えればよいか分からなくなります。「今回の研修で変わる行動は一つです。他は次回に」と、最初に線を引く。一つが変われば、依頼側は次の一つを頼みます。エラベルで担当者を選ぶ企業には、「その研修で、受講者の翌週の行動は何が変わりますか」を、私たちから先に聞いています。受ける側がその場で使える判断としては、設計の一枚の先頭に「翌週の行動」を一行で書き、内容の各項目が「その行動に要るか」で削ること。要らない項目は、次回の材料に回します。
逆算する五つ
| 決めること | 中身 | 出どころ |
|---|---|---|
| 受講者のいまの状態 | その行動を、いまどのくらいしているか。していない理由(知らない・やり方が分からない・機会が無い・やる意味が分からない) | 上司への聞き取り、事前の確認(受講者への短い問い) |
| 変わってほしい行動 | 一つ。「誰が、どの場面で、何をする」 | 依頼側と決める |
| 行動に要る知識と練習 | 知識は最小。練習は受講者の実際の場面で | 行動から逆算 |
| 進行 | 説明は短く、演習を長く。受講者が自分の場面で試し、互いに見る | 練習の設計 |
| 翌週から一か月の確認 | 上司が翌週に行動を見る。一か月後に「やったか」を一言 | 上司との合意 |
「していない理由」が「知らない」なら知識を、「やり方が分からない」なら練習を、「機会が無い」なら研修ではなく仕組みを、「やる意味が分からない」なら上司からの説明を、と手当てが変わります。研修で直せるのは前の二つで、後の二つは研修では直りません。
受講者の状態は上司と事前の確認で
| 手段 | 聞くこと |
|---|---|
| 上司への聞き取り | 「部下が、その行動をしている場面を見たことがあるか」「していない理由は何だと思うか」 |
| 受講者への事前の確認 | 「その場面で、いまどうしているか」を一問。答えは研修の演習の材料に |
| 過去の記録 | 評価シートや1on1の傾向があれば、その行動に関わる部分 |
受講者の状態を知らずに設計すると、知っていることを教えるか、できないことを飛ばすかになります。事前の確認は短く、一問か二問で足ります。受講者の答えは、研修の中で本人の場面として使い、記録には残しません。
演習は受講者の実際の場面で
| 一般的な演習 | 実際の場面の演習 |
|---|---|
| 架空の事例で議論 | 受講者が事前の確認で書いた「自分の場面」で試す |
| 講師が模範を見せる | 受講者同士で、一人が試し、一人が見て、一つ気づきを言う |
| 正解を教える | 型(問いの順、記録の欄)を渡し、型で試す |
| 全員で一つの事例 | 各自の場面。互いに見ることで、他の場面も学ぶ |
演習の時間が全体の半分以上を占める形にします。説明は、演習に要る型の説明だけです。型の作り方は、面接質問集を作るや1on1を設計するのように、「一枚で渡せる型」があれば、研修は型の練習の場になります。
エラベルの見解
相談で最も多い思い込みは、受ける側の「研修の効果は、終了後のアンケートで測る」というものです。アンケートで分かるのは、受講者がその日に感じたことで、翌週の行動ではありません。「分かりやすかった」研修で行動が変わらないことも、「難しかった」研修で行動が変わることもあります。効果は、翌週に上司が「その行動をしたか」を見て、一か月後に「続いているか」を一言で受け取ることで見ます。受ける側がその場で使える判断としては、研修の設計の一枚に「翌週、上司が見ること」の行を置き、上司に研修の前に「翌週、この行動を見てください」と伝えること。上司が見ると分かっていれば、受講者も行動します。
上司を前と後に巻き込む
| 時期 | 上司にしてもらうこと |
|---|---|
| 研修の前 | 受講者に「なぜこの研修か」「翌週に何を見るか」を一言伝える |
| 研修の後(翌週) | その行動をした場面を一つ見て、本人に一言(良かった点) |
| 一か月後 | 「続いているか」を人事に一言 |
上司が関わらない研修は、翌週に「研修で何をやったの」で終わります。上司の負担は、前と後に一言ずつで足ります。上司への案内の一枚を、担当者が作ります。
既製の教材や外部の講座を使うとき
| 使い方 | 線 |
|---|---|
| 既製の教材 | 「翌週の行動」に要る部分だけを使う。全部を使わない |
| 外部の講座 | 講座の内容を「翌週の行動」に対応させ、前後の上司の関わりを担当者が設計する |
| 他社の研修の資料 | 写さない。構造の参考まで |
| 教材の費用 | 依頼側の判断。担当者は「行動に要るか」で選定の項目を並べるまで |
外部の講座や教材の内容と費用は変わるので、担当者が断定しません。既製のものを使う場合も、「翌週の行動」から逆算する設計は同じです。
よく起きる詰まりと直し方
| 詰まり | 直し方 |
|---|---|
| 依頼側が内容を足したがる | 「翌週の行動」を一つに。足す内容は次回に |
| 受講者の状態が分からない | 上司への聞き取りと、一問の事前の確認 |
| 演習が架空の事例 | 受講者の実際の場面に。事前の確認の答えを使う |
| 満足度で評価される | 翌週の行動を見る形を、研修の前に上司と合意 |
| 上司が関わらない | 前と後の一言の案内を作り、上司に渡す |
| 一回で全部を変えようとする | 一つずつ。三か月に一回、次の一つ |
まとめ
- 内容から作ると聞いて終わり。出発点は翌週の行動を一つ
- 逆算する五つはいまの状態・変わってほしい行動・要る知識と練習・進行・翌週からの確認
- 「していない理由」で手当てが変わる。研修で直せるのは「知らない」「やり方が分からない」だけ
- 受講者の状態は上司への聞き取りと一問の事前の確認で
- 演習は受講者の実際の場面で、全体の半分以上。説明は型の説明だけ
- 効果は満足度ではなく翌週の行動。上司が見る形を研修の前に合意
- 上司を前と後に一言ずつ巻き込む
- 既製の教材は「行動に要る部分」だけ。費用と内容は断定しない
よくある質問
依頼側が「一日の研修」を前提にしています
一日で変わる行動は一つで、一つなら半日で足りることが多い。「半日で一つの行動を変え、三か月後に次の一つ」と提案します。一日にする場合は、午前に一つ、午後にもう一つ、と分け、それぞれに演習と翌週の確認を付けます。一日で五つの内容を詰めると、どれも行動になりません。時間の長さより、行動の数と演習の時間で設計します。
受講者が「忙しくて研修に出られない」と言います
出られない理由が「やる意味が分からない」なら、研修の前に上司から「なぜこの研修か」を伝えてもらいます。研修の時間を短くする(半日、二時間)ことも有効です。出席の判断は依頼側で、担当者は「短くしても行動は変えられる」設計を示します。出席を強いるより、出た人の翌週の行動が変わり、周りが「出てよかった」と聞く形のほうが、次の回の出席につながります。
研修の内容が、法令や制度に関わるもの(労務、ハラスメント防止など)です
法令や制度の内容を教える研修は、内容の正確さに専門家の確認が要ります。担当者は「翌週の行動」から逆算する設計と進行を担い、内容は専門家(社労士等)が監修するか、専門家が講師を務める形にします。担当者が法令の内容を断定して教えることはしません。個別の判断は専門家にご確認ください。線の詳細は副業で法令違反をしないためにに書いています。