人事副業 / 研修講師
研修講師の副業の実務|1案件の流れ
研修講師の副業を初めて受けるとき、見えにくいのは「当日の前後に何があるか」と「何で評価されるか」です。募集文には「研修講師、〇時間」とだけあり、実際には、できるようになることの整理、受講者の状態の確認、演習の設計、教材の権利、当日の進行、翌週の現場での確認と、当日の前後に工程が並び、評価は当日の満足度か翌週の行動かで、稼働も責任も変わります。順番を知っていれば、契約前に決めておけます。結論を先に書くと、1案件は「契約前→設計→当日の前→当日→振り返りと現場での確認→次の回と終了」の六つの段階で進み、契約前に範囲・できるようになること・受講者の選定と人数・教材の権利・法令に関わる内容の扱い・研修の様子を評価に使わないこと・振り返りの有無・評価の基準を決め、受講者の状態を確かめて教える順番と演習と進行表と教材と事前事後の確認の型を設計し、当日の前に会場と事前の確認と上司への案内を整え、当日は最初の五分で翌週の姿を示して演習を長く取り受講者に答えさせ最後に翌週の一つを言ってもらい、振り返りで当日の反応と翌週から一か月の現場の行動を確かめ、次の回を直して教材と進行表を引き継ぎ、受講者の情報を残さずに終えます。案件の型と求められる経験は研修講師の副業案件に書いていますので、ここでは「1案件の流れ」に絞ります。
契約前:決めておくこと
研修は、「〇時間の登壇」で契約されやすく、設計と振り返りが無償になり、効果の責任だけが残ります。契約前に決めます。
| 決めること | 確かめる中身 | 決めていないと起きること |
|---|---|---|
| 範囲 | 単発の登壇か、設計から登壇と振り返りまでか、社内講師の育成か、教材の型作りか | 登壇だけの契約で、効果の責任を持たされる |
| できるようになること | 研修の翌週、受講者が何をしていれば成功か。行動の言葉で。会社が決める | 「意識を高める」のまま設計に入る |
| 受講者の選定と人数 | 誰が、何人。人数で演習の形が変わる。選定は会社 | 演習が回らない人数になる |
| 教材の権利 | 作った教材は会社のものか、自分のものか。他の依頼側で使えるか。会社の既存の教材を使うか | 教材を他で使えない、または会社が更新できない |
| 法令に関わる内容の扱い | 労務、ハラスメント、聞いてはいけない質問の線などは、専門家が講師か監修に入るか | 副業の人が単独で法令を教える形になる。個別の判断は専門家にご確認ください |
| 研修の様子を評価に使わないこと | 演習の出来や発言を人事評価の材料にしない。使うなら会社が受講者に事前に伝える | 受講者が本音で答えず、研修が講義になる |
| 振り返りの有無 | 翌週から一か月の現場での行動を、誰がどう確かめるか(上司の観察、記録の確認) | 当日で終わり、使われたかが分からない |
| 評価の基準 | 当日の満足度か、翌週の行動の変化か。単発の登壇なら当日まで | 単発なのに翌週の行動で評価される |
止まりやすいのは、「来月の〇日に〇時間、面接官研修を」と日程と時間だけで始めるときです。できるようになることが決まっていない研修は、講師の知っていることが並びます。範囲の決め方は業務範囲の決め方に、見積もりの出し方は見積もりの出し方に書いています。
設計:受講者の状態、教える順番、演習、進行表、教材、事前と事後の確認
当日の前に、設計を終えます。設計は「話す内容」ではなく、「できるようになること」から逆算します。
| 作るもの | 中身 | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 受講者の状態の確認 | 事前の確認(短い質問、いまの記録の見本の提出など)か、上司への聞き取りで、何ができていて何ができていないか | 状態を確かめずに、一律の内容にする |
| 教える順番 | できるようになることから逆算し、要る項目だけを、受講者が使う順に | 知っていることを網羅する |
| 演習 | 架空の例(面接官研修なら架空の候補者、評価者研修なら架空の部下)で、受講者が手を動かして確かめる。互いに見せ合う形 | 実在の事例を使う。演習が無い |
| 進行表 | 分単位。最初の五分(翌週の姿)、講師が話す、演習、見せ合い、講師が話す、演習、最後に翌週の一つ。講師が話す時間は半分以下 | 講義が半分を超える |
| 教材 | 受講者に渡す一枚(できるようになること、型、翌週の一つの欄)、演習の素材、講師の進行表。他社の教材を写さない | 分厚い資料。他社の図や文章を写す |
| 事前と事後の確認の型 | 事前(いまの状態)、当日の最後(翌週の一つ)、翌週から一か月(現場での行動)を確かめる型 | 事後の確認が無い |
止まりやすいのは、演習の例を「分かりやすいから」と実在の候補者や社員で作ることです。演習の例は架空で作り、実在の人が特定されない形にします。教材の作り方は資料の作り方に書いています。
エラベルの見解
担当する側から見ると、この仕事は「設計の段階で、受講者のいまの状態を確かめられるか」で、当日の質が決まります。面接官研修で、受講者の面接の記録を事前に一枚見せてもらうと、「事実と所感が混ざっている」「聞いてはいけないことを聞いている」「型が無い」のどれが課題かが分かり、教える順番と演習がそこに絞れます。確かめずに一律の内容で組んだ研修は、できている人には退屈で、できていない人には広すぎます。エラベルで担当者を選ぶ企業には、「設計の前に、受講者の方のいまの記録か、上司の方の困りごとを見せてください。それで教えることを絞ります」と、私たちから先に伝えています。受ける側がその場で使える判断としては、設計の最初に「受講者の状態」の欄を作り、埋まらないまま教材を作らないこと。埋められない案件は、事前の確認を範囲に足して提案します。
当日の前:会場か接続、事前の確認の回収、上司への案内、素材の最終確認
| やること | 依頼側に持ってもらうこと | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 会場か接続の確認(演習で受講者が動ける配置か、見せ合いができるか。オンラインなら分かれる仕組み) | 会場か接続の用意 | 講義の配置で演習ができない |
| 事前の確認の回収(受講者の状態。会社の管理する場所で。個人が特定されない形で集計) | 回収と共有 | 回答を自分の端末に置く |
| 上司への案内(研修の翌週、受講者に何を見てほしいか。現場での確認の協力) | 上司への依頼は会社から | 上司が研修の中身を知らず、翌週に何も見ない |
| 演習の素材の最終確認(架空の例が実在の人と重ならないか、会社の決まりと合っているか) | 会社の決まりの確認(聞いてはいけない項目など。専門家の確認が要るものは事前に) | 会社の決まりと違う型を教える |
| 受講者への案内(目的、持ち物、事前の確認、研修の様子を評価に使わないこと) | 案内は会社から | 評価に使わないことが伝わっていない |
止まりやすいのは、上司への案内を飛ばすことです。研修の翌週、上司が何を見るかを知らなければ、現場での確認はできません。
当日:最初の五分、演習を長く、受講者に答えさせる、最後に翌週の一つ
| 順 | やること | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 最初の五分 | できるようになること(翌週の姿)を示す。研修の様子を評価に使わないことを伝える。流れと時間 | 講師の自己紹介が長い |
| 講師が話す(短く) | 型を一つ示す。理由は短く。例は架空 | 網羅して話す |
| 演習(長く) | 架空の例で、受講者が型を使って手を動かす。個人で書き、隣と見せ合う | 演習の時間を削って講義に戻す |
| 見せ合いと講師の返し | 受講者の答えを拾い、良い点と直す点を、その場で。個人を責めない | 講師が正解を言って終える |
| 二つ目の型と演習 | 同じ流れで。時間が足りなければ、型を減らす | 時間が足りず、演習を飛ばす |
| 最後 | 受講者自身に「翌週、一つ変えること」を書いて言ってもらう。教材の一枚の欄に書く | 講師がまとめて終える |
| 記録 | 当日の反応(演習で多かったつまずき、質問)を事実で。個人の出来は書かない | 個人の出来を記録して会社に渡す |
止まりやすいのは、時間が足りなくなったときに演習を削ることです。削るのは講師が話す部分で、演習は残します。進行の考え方はファシリテーションの技能に書いています。
エラベルの見解
同じ料金・同じ時間でも、結果が分かれるのは、「最後の五分を受講者に渡せるか」です。講師が「本日のまとめ」を話して終えた研修は、受講者は聞いて帰り、翌週に何をするかを決めていません。最後の五分で、受講者一人ひとりが「翌週の面接で、事実と所感を分けて記録する」と自分の言葉で書いて言った研修は、翌週の行動が変わり、上司も何を見ればよいかが分かります。受講者が自分で決めた一つは、講師のまとめより強い。エラベルで長く続いている講師は、進行表の最後の五分を「受講者の時間」として固定し、時間が押しても削りません。受ける側がその場で使える形としては、教材の一枚の最後に「翌週、私が一つ変えること」の欄を作り、当日その欄が全員分埋まったことを確かめて終えることです。
振り返りと現場での確認:当日の反応、翌週から一か月の行動、上司の観察
研修の成果は、翌週の現場で決まります。範囲に含めているなら、確かめます。
| 見ること | 誰が、どう | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 当日の反応(つまずきが多かった型、質問) | 自分の記録から | 満足度だけを見る |
| 翌週の行動(受講者が書いた「翌週の一つ」を、実際にやったか) | 上司の観察、記録の確認(面接の記録、評価の記録) | 確かめる人が決まっていない |
| 一か月後の定着(型が使われ続けているか) | 記録の確認(個人が特定されない形で傾向を) | 個人の出来を追う |
| 使われなかった箇所 | 教えたが現場で使われていない型 | 次の回でも同じことを教える |
| 上司の困りごと | 受講者の行動を見た上司から、足りない点を聞く | 上司に聞かない |
止まりやすいのは、振り返りを「当日のアンケート」で終えることです。アンケートは満足度で、行動の変化ではありません。翌週から一か月の現場を、上司の観察と記録で確かめます。
次の回と終了:直す、教材と進行表の引き継ぎ、受講者の情報を残さない
| やること | 中身 |
|---|---|
| 次の回を直す | 使われなかった型を削り、つまずきが多かった型に演習を足す。受講者の状態が違えば順番を変える |
| 社内講師の育成(範囲に含む場合) | 社内の人に進行表と教材を渡し、同席して直す。二回目から自分は出ない |
| 残すもの | 教材(権利の取り決めに沿って)、進行表、演習の素材(架空)、事前と事後の確認の型、当日の記録(事実のみ)、現場での確認の記録(個人が特定されない形) |
| 返すもの | 事前の確認の回答、受講者の名簿、演習の提出物。自分の手元に残さない |
| 次の提案 | 同じ研修の次の回、別の受講者、社内講師の育成、教材の型作り |
止まりやすいのは、教材の権利を決めずに終わり、会社が更新できない、または自分が他で使えない、のどちらかになることです。契約前に決めます。引き継ぎの型は引き継ぎの仕方に書いています。
受講者の情報の扱い
研修では、受講者の名簿、事前の確認の回答、演習の提出物、当日の発言に触れます。会社の管理する場所でだけ扱い、自分の端末に残しません。演習の出来や発言は、個人の評価に使わせず、記録は「多かったつまずき」など個人が特定されない形にします。受講者から研修の場の外で個別に相談を受けたら、会社の上司か人事に取り次ぎ、自分が答えません。演習の例は架空で作り、実在の候補者や社員が特定される例を使いません。研修の様子を撮影や録画する場合は、会社の決まりと受講者の同意に従います。個別の判断は専門家にご確認ください。扱いの詳細は候補者の個人情報の扱いに書いています。
稼働時間は何で決まるか
一回の研修にかかる時間は、「設計(受講者の状態の確認、順番、演習、進行表、教材)」「当日の前(会場、事前の確認、案内)」「当日(準備、本番、片付け、記録)」「振り返りと現場での確認(範囲に含む場合)」「次の回の直し」の合計で決まり、当日の時間は全体の一部です。設計は初回が重く、二回目以降は直しだけになります。受講者の人数で演習の形と見せ合いの時間が変わります。受ける前に「設計を含むか」「振り返りを含むか」「回数」「人数」を決めておけば、見込みが立ちます。数値は案件ごとに違うので、初回の実績で見直します。稼働の管理は稼働時間の管理に書いています。
まとめ
- 1案件は契約前→設計→当日の前→当日→振り返りと現場での確認→次の回と終了の六つの段階
- 契約前に範囲・できるようになること・受講者の選定と人数・教材の権利・法令に関わる内容の扱い・評価に使わないこと・振り返りの有無・評価の基準を決める。日程と時間だけで始めない
- 設計は受講者の状態を確かめ、できるようになることから逆算し、架空の例で演習を作り、講師が話す時間を半分以下にした進行表と、一枚の教材と、事前事後の確認の型
- 当日の前に演習ができる配置・事前の確認の回収・上司への案内(翌週何を見るか)・素材の最終確認
- 当日は最初の五分で翌週の姿と評価に使わないことを示し、演習を長く、受講者に答えさせ、最後の五分は受講者が「翌週の一つ」を書いて言う。時間が押したら講義を削る
- 振り返りは翌週から一か月の現場での行動を、上司の観察と記録で。アンケートで終えない
- 終了は教材の権利に沿って引き継ぎ、受講者の情報を残さない
- 受講者の情報は評価に使わせず、個人が特定されない記録にし、個別の相談は取り次ぐ
よくある質問
会社の既存の教材をそのまま使ってほしいと言われました
既存の教材の中身を確かめてから決めます。他社の教材や書籍の図や文章がそのまま入っている場合は、権利の問題があるので、会社に確認を勧め、自分はそれを使いません。会社が作った教材でも、講義が中心で演習が無ければ、演習を足す形を提案します。既存の教材をそのまま話すだけの登壇は、単発の登壇の型として、効果の責任を持たない条件で受けるか、設計を足す提案をします。
演習で、受講者の一人が実在の候補者の話を持ち出しました
その場で「ここでは架空の例で進めます。実在の方の話は、上司の方と別の場で」と、演習を架空の例に戻します。実在の候補者や社員の話が研修の場で共有されると、個人情報の扱いと、その人への評価が場に残ります。事前の案内で「実在の方の例は出さない」ことを伝え、進行の最初に一言添えておくと、起きにくくなります。持ち出された話の中身は、記録に残しません。
研修のあと、上司から「受講者の〇〇さんはどうだったか」と聞かれました
個人の出来は答えません。「演習で多かったつまずきはこれで、次の回ではここに演習を足します。〇〇さん個人の様子は、研修の場では評価に使わないと伝えているので、お答えできません」と返します。上司が受講者の行動を知りたいなら、翌週の現場で、受講者が書いた「翌週の一つ」をやっているかを見てもらう形にします。研修の場の様子が評価に使われると分かると、次の回から受講者は答えなくなります。