年収相場の調べ方|公的統計と公開求人を組み合わせて「提示できる幅」を出す手順

実務スキル採用・人事の実務 更新日 2026-10-16

採用の副業をしていると、依頼先から「この職種、いくら出せば採れますか」と聞かれる場面がよくあります。求人票をつくるとき、スカウトの条件を決めるとき、内定の条件を考えるとき、どれも年収の目安がないと進みません。ところが、相場を「だいたいこのくらい」と感覚で答えると、外れたときに採用が止まり、依頼先からの信頼も失います。この記事では、公的な統計と公開されている求人を組み合わせて、依頼先がそのまま判断に使える「提示できる幅」を出す手順を書きます。

具体的な職種の年収の数字はこの記事では扱いません。数字は職種・地域・時期で変わるため、毎回調べ直すことを前提に、調べ方と渡し方を書きます。

この仕事の成果物は「相場メモ」

年収相場を調べる仕事の成果物は、数字一つではありません。依頼先が求人の条件を決めるために使える、短い資料です。この記事では「相場メモ」と呼びます。相場メモには、少なくとも次の四つを入れます。

項目中身ないと何が困るか
幅下限と上限、その中で多いあたり1点の数字だと、少し外れただけで「相場と違う」になる
根拠どの統計・どの求人を見たか、件数依頼先が社内で説明できない
前提職種の範囲、経験年数、地域、月給か年収か比べる相手がずれていても気づけない
示唆依頼先の今の条件がどこにいるか、変えるならどこか調べただけで判断につながらない

いちばん抜けやすいのが前提です。同じ「営業」でも、法人向けか個人向けか、経験何年を見るかで数字は大きく変わります。前提を書かずに数字だけを渡すと、依頼先は自社の求める人と違う相場をもとに条件を決めてしまいます。

手順1:公的統計で「全体の位置」をつかむ

最初に見るのは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。調査の概要によれば、この調査は統計法に基づく基幹統計で、主要産業に雇用される労働者の賃金の実態を、雇用形態・就業形態・職種・性・年齢・学歴・勤続年数・経験年数別などに明らかにするものです。調査年の6月分の賃金について7月に調査が行われ、賞与などの特別給与は調査前年1年間の額が調べられます。

この統計の強みは、たくさんの事業所の実際の賃金をもとにしていることです。一方で、使うときには次の点に気をつけます。

そのため、統計は「この職種の人は、だいたいこの位置にいる」という全体の位置をつかむために使います。年齢や経験年数、企業規模で区切った数字を見ると、依頼先が求める人がどのあたりにいるかが見えてきます。

手順2:公開されている求人で「今の募集の幅」を見る

次に、今まさに出ている求人を見ます。職業安定法第5条の3は、労働者の募集を行う者などに、業務の内容や賃金、労働時間などの労働条件を明示することを求めています。このため、公開されている求人には賃金が書かれており、今の募集の条件を知る材料になります。ハローワークインターネットサービスのほか、民間の求人サイトや競合する会社の採用ページも見ます。

求人を集めるときは、次の手順で進めると幅がぶれにくくなります。

  1. 条件をそろえる:職種・経験年数・地域・雇用形態を、依頼先の求める人に近いものにしぼる
  2. 件数を決める:数件だけだと偏るため、集める件数をあらかじめ決めておく
  3. 下限と上限を分けて記録する:「月給◯円〜◯円」の下限と上限を別の列に書く
  4. 年収と月給をそろえる:賞与や固定残業代の扱いを確かめ、同じ物差しに直す
  5. 外れ値を分ける:極端に高い・低い求人は、理由(管理職込み、歩合が大きいなど)を書いて別にする

求人の上限は、その会社が「この経験なら出してもよい」と考えている額で、実際に入社する人の多くは下限寄りのことがあります。上限だけを見て相場を高く見積もらないよう、下限と上限を分けて記録してください。

エラベルの見解

年収相場の調べ方でよくある失敗は、統計か求人のどちらか一方だけで答えることです。統計だけで答えると、今の募集の動きが反映されず、提示額が低すぎて応募が集まらないことがあります。求人だけで答えると、目立つ高い条件に引っぱられ、依頼先が払えない額を相場として伝えてしまうことがあります。

担当する側から見ると、価値があるのは二つの数字の差を説明できることです。「今いる人の賃金はこのあたりだが、今の募集ではこのくらい上で出ている。差があるのは、経験者の取り合いになっているからだ」と言えれば、依頼先は条件を上げるか、求める経験を広げるかを判断できます。二つを並べて差の理由まで書けることが、相場メモの質を分けます。

品質の基準:依頼先が社内で説明できるか

相場メモの品質は、依頼先の担当者がそれを持って社内の決裁者に説明できるかで決まります。担当者が「なぜこの額なのか」と聞かれて答えられなければ、条件は変わりません。次の点を確かめてから渡してください。

確認すること合格の目安
根拠が追えるか見た統計の表、集めた求人の件数と条件が書いてある
前提がそろっているか職種・経験・地域・月給か年収かが、依頼先の求める人と合っている
幅になっているか下限・上限・多いあたりが分かれている
判断につながるか依頼先の今の条件が幅のどこにあり、変えるならどこかが書いてある

数字の出どころを書くのは手間に見えますが、ここを省くと、依頼先が別の資料を見つけたときに「どちらが正しいのか」という話になり、説明に時間をとられます。根拠を書いておけば、違いが出ても前提の差として説明できます。

よくある差:同じ職種でも相場が割れる理由

調べていると、同じ職種なのに求人の額が大きく割れることがあります。この差を読み違えると、相場メモの示唆がずれます。よくある理由は次のとおりです。

エラベルの見解

もう一つ見てほしいのは、相場は「いくら出すか」だけでなく「誰を求めるか」とセットで変えられるということです。依頼先の予算が相場の下限に届かないとき、条件を上げるしかないと考えがちです。けれども、求める経験年数を少し広げる、必須の条件を一つ外すといった形で、予算の中で採れる人に合わせる道もあります。

採用の実務に関わってきた人は、額と求める人の組み合わせをいくつか並べて示せます。「この予算なら、この経験の人が現実的」「この経験を求めるなら、この額が要る」という形で選択肢を出すと、依頼先は判断しやすくなります。相場を調べるだけでなく、選択肢として渡せることが、この仕事を依頼先から頼られる仕事にします。

まとめ

よくある質問

統計の数字と求人の数字、どちらを優先すればよいですか

どちらか一方を優先するのではなく、両方を並べて差の理由を書いてください。統計は今いる人の賃金、求人は今の募集の条件で、見ているものが違います。中途採用の提示額を決めるなら求人の幅を軸にし、統計は全体の位置を確かめるために使う形が多くなります。

求人がほとんど見つからない職種はどう調べればよいですか

近い職種や、同じ仕事を別の職種名で募集している求人まで広げて集めてください。それでも件数が少ない場合は、相場メモに「件数が少なく幅の確かさが低い」と書いたうえで、統計の位置と合わせて示します。足りない材料を隠さずに書くことも、品質の一部です。

依頼先の予算が相場より大きく低い場合はどう伝えればよいですか

数字だけを突きつけるのではなく、予算の中で採れる人の像と、求める人を採るのに要る額を並べて示してください。どちらを選ぶかは依頼先が決めることです。担当者の役割は、選んだ場合に何が起きるかを分かる形で示すことです。

出典

本記事は 2026-10-16 時点の公開情報にもとづいて作成しています。

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