人事副業 / 採用・人事の実務
面接官トレーニングを行う|「講義」ではなく「一枚の読み合わせと、記録の振り返り」で揃える型
「面接官のトレーニングをしてほしい」と頼まれて、面接の心得を一時間の講義にすると、その場では頷かれ、翌週の面接は元のままです。講義が悪いのではなく、面接官が困っているのは「心得」ではなく、「この求人で、何を聞き、どう記録し、自分が決めるのか」という具体だからです。結論を先に書くと、面接官トレーニングは、講義ではなく、段ごとの一枚の読み合わせ・模擬の場面で掘る練習・実際の記録の振り返りの三つで行い、面接官の三つの不安(何を聞くか・どう記録するか・自分が決めるのか)に順に答え、一回で終わらせず月に一度の振り返りで続けます。一枚の作り方は面接の設計に、質問集と評価シートは面接質問集を作ると評価シートを作るに、研修を案件として受ける形は研修講師の副業の実務に書いています。ここでは、面接官向けに絞ります。
講義が残らない理由
| 講義の中身 | 面接官に起きること |
|---|---|
| 「面接官は会社の顔です」 | 分かっている。行動は変わらない |
| 「バイアスに気をつけましょう」 | 何をどう気をつけるかが分からない |
| 一般的な質問例の一覧 | この求人で何を聞くかは分からない |
| 評価の心得 | 記録の形が無ければ、印象のまま |
| 一回きり | 翌週の面接で戻る |
面接官が欲しいのは、自分が次に出る面接で使える一枚と、それを使ってみた後に「これでよかったか」を確かめる場です。トレーニングは、その二つを渡すことです。
三つの中身
| 中身 | やること | 時間の考え方 |
|---|---|---|
| 一枚の読み合わせ | 段ごとの一枚(役割・観点・聞き方・基準・聞かないこと・記録の形)を、面接官と一緒に読む | 短く。面接の直前でもできる |
| 模擬の場面で掘る練習 | 担当者が候補者役で、一般論の答えを返す。面接官が掘る問い(状況・役割・判断・行動・結果)で事実に戻す | 観点一つ分でよい |
| 実際の記録の振り返り | 面接官が書いた評価シートを、面接官と一緒に読む。事実の欄が事実か、判断が基準に照らしているか | 月に一度。一人分でよい |
三つのうち、最も効くのは三つ目です。自分の記録を読み返すと、「事実のつもりが印象だった」「基準に無い理由で判断していた」と、面接官自身が気づきます。担当者が指摘するより、自分で気づくほうが残ります。
エラベルの見解
担当する側から見ると、面接官トレーニングで最も差がつくのは、面接官の「三つの不安」に順番どおりに答えているかです。面接官が最初に持つ不安は、「何を聞けばよいか」「どう記録すればよいか」「自分が合否を決めるのか」の三つで、講義はこの三つに答えていません。一枚の読み合わせで一つ目に、記録の形で二つ目に、「観点ごとの判断は面接官、最終の決定は決める人」と役割を分けて三つ目に答えると、面接官は安心して面接に出られます。三つ目に答えないと、面接官は「自分が落としたら責任を取らされる」と思い、全員を「迷う」にします。エラベルで担当者を選ぶ企業には、「面接官は、自分が合否を決めるのだと思っていませんか」を、私たちから先に聞いています。受ける側がその場で使える判断としては、読み合わせの最初に、「あなたが決めるのは観点ごとの三択で、最終の決定は〇〇さんです」と、決める人の名前を出して伝えること。
三つの不安に答える順
| 順 | 不安 | 答え方 |
|---|---|---|
| 一 | 何を聞けばよいか | 一枚の観点と主の問い。「聞き方はご自身の言葉で」 |
| 二 | どう記録すればよいか | 評価シートの事実と判断。「事実は候補者の言葉で、判断は三択」 |
| 三 | 自分が決めるのか | 「観点ごとの三択はあなた、最終は〇〇さん」。多数決にしないことも |
この順で答えた後に、「聞いてはいけない問い」を伝えます。最初に禁止事項から入ると、面接官は身構え、残りを聞かなくなります。
聞いてはいけない問いの扱い方
性別、年齢、国籍、家族の状況、出身地、宗教や思想、健康の状態などに触れる問いは、募集や採用で法令上の決まりがあると一般に整理されています。トレーニングでは、法令の解釈を担当者が説明せず、「一覧にある問いは聞かない。雑談で出やすい言い回しも一覧にある。聞いてしまったら記録せず、〇〇さんに伝える」と、行動だけを伝えます。一覧の範囲と根拠は、依頼側の決まりと専門家の確認に従います。個別の判断は専門家にご確認ください。線の詳細は副業で法令違反をしないためにに書いています。
面接官から「なぜ聞いてはいけないのか」と問われたら、「法令上の整理があり、詳細は専門家の確認によります。ここでは聞かない、で揃えます」と答え、担当者が解釈を語りません。
経営者や現場の責任者を「受講者」にしない
| やりがちなこと | 起きること | 代わりに |
|---|---|---|
| 経営者を研修に呼ぶ | 来ないか、来ても「自分は分かっている」で終わる | 最終の一枚を個別に持って行き、五分で読み合わせる |
| 現場の責任者に「面接の基本」を教える | 現場の経験を否定されたと感じる | 現行の問いを一枚に取り込み、「〇〇さんの問いは観点〇〇に入れました」と伝える |
| 全員を一部屋に集める | 段が違う面接官に同じ話をすることになる | 段ごとに、その段の一枚で |
トレーニングは「教える」ではなく「揃える」です。揃える相手が上位の人ほど、個別に、短く、その人の言葉を取り込んで行います。導入の順番は構造化面接を導入するに書いています。
エラベルの見解
相談で最も多い思い込みは、受ける側の「トレーニングは一回やれば終わり」というものです。実際には、一回の読み合わせで変わるのは最初の数回の面接だけで、記録の振り返りを続けないと戻ります。月に一度、面接官一人につき一人分の評価シートを一緒に読む。それだけで、事実の欄が事実になり、判断が基準に沿うようになります。担当者の稼働は月に短時間で済み、依頼側にとっても負担が軽い。「研修」という言葉で大きな枠を取るより、「振り返り」という小さな枠を続けるほうが残ります。受ける側がその場で使える判断としては、トレーニングの提案を「初回の読み合わせ+月一回の振り返り」の形で出し、効果は「記録が揃うこと」までに限定して伝えること。「面接の精度が上がる」「良い人が採れる」とは言いません。
記録の振り返りのやり方
| 手順 | 中身 |
|---|---|
| 一 | 面接官が書いた評価シートを一人分、面接官と一緒に開く |
| 二 | 事実の欄を読む。「これは候補者が語った言葉ですか、印象ですか」と聞く |
| 三 | 判断の欄を読む。「この判断は、基準のどの一行に照らしましたか」と聞く |
| 四 | 迷うが付いた観点で、次の段に引き継がれたかを見る |
| 五 | 面接官が「次はこう聞く」と自分で言ったことを、一行で残す |
担当者は評価しません。問いを投げ、面接官が自分で気づく形にします。振り返りの記録に、候補者の氏名は書かず、観点と気づきだけを残します。振り返りの形はヒアリング力の磨き方の「振り返る形」と共通です。
踏み込まない線
| 線 | 理由 |
|---|---|
| 面接官の「適性」を評価しない | 揃えるのは型。人の評価は依頼側の人事の領域 |
| 合否の判断を担当者が示さない | 決めるのは依頼側 |
| 法令の解釈を語らない | 行動(聞かない)だけを伝え、根拠は専門家へ |
| 面接官の人事評価に使わない | トレーニングの記録が評価に使われると、面接官が本音で振り返らなくなる |
トレーニングの記録の扱いは、依頼側と最初に決めます。「振り返りは面接官の評価には使わない」を合意に入れます。
よく起きる詰まりと直し方
| 詰まり | 直し方 |
|---|---|
| 依頼側が「一時間の研修を」と言う | 「初回は一枚の読み合わせと模擬で短く、月一回の振り返りで続けます」と形を提案する |
| 面接官が集まらない | 集めない。段ごとに、面接の直前に個別で読み合わせる |
| 模擬の練習を嫌がる | 観点一つ分、二〜三分で。担当者が候補者役で一般論を返すだけ |
| 振り返りで面接官が防御的になる | 担当者が評価しない形を先に伝える。「私が指摘するのではなく、一緒に読みます」 |
| 経営者が面接の型を使わない | 最終の一枚を「決め手と候補者の迷いへの答え」に絞り、個別に五分で |
まとめ
- 講義は残らない。面接官が欲しいのは次の面接で使える一枚と、使った後に確かめる場
- 中身は一枚の読み合わせ・模擬で掘る練習・実際の記録の振り返りの三つ。最も効くのは振り返り
- 面接官の不安は何を聞くか・どう記録するか・自分が決めるのか。この順で答え、決める人の名前を出す
- 聞いてはいけない問いは行動だけを伝え、解釈を語らない。個別の判断は専門家にご確認ください
- 経営者と現場の責任者は受講者にせず、個別に短く、その人の言葉を取り込む
- 一回で終わらせず、月に一度の振り返り。効果は「記録が揃う」までに限定して伝える
- 面接官の適性評価・合否・法令の解釈に踏み込まない。振り返りは人事評価に使わない
よくある質問
面接官が多く、全員の振り返りをする稼働がありません
段ごとに一人ずつ、月に一人分で足ります。全員を毎月見る必要はなく、順番に回します。振り返った面接官が、同じ段の他の面接官に「事実の欄はこう書く」と伝える形になれば、担当者の稼働はさらに減ります。振り返りの記録(観点と気づき)を共有の場所に置き、他の面接官も読める形にします。
依頼側から「面接官の合格・不合格を判定してほしい」と言われました
面接官の適性の評価はしません。「揃えるのは型で、人の評価は御社の人事の領域です」と伝えます。代わりに、「記録が揃っているか(事実の欄が事実か、判断が基準に沿っているか)」を段ごとに見て、揃っていない段の一枚を直す提案をします。個人の評価ではなく、型の改善として返します。
トレーニングをしたのに、入社後のミスマッチが減りません
トレーニングで変わるのは記録の揃い方までで、ミスマッチの原因は要件・募集・内定後にもあります。入社後のずれを、評価シートの記録に戻って見ると、「観点が足りなかった」「迷うを引き継がずに通した」「要件そのものがずれていた」のどれかが見えます。それを要件の一枚と面接の設計に戻します。原因の分け方は早期離職が続くのは採用のどの段階の問題かに書いています。トレーニングの効果を「ミスマッチが減る」と約束していないことが、ここで効きます。