人事副業 / 人事の前提知識

内定辞退への対応|やってはいけない引き止めと、減らすための設計

公開 2026-09-23

副業で人事を受けていると、採用の支援の中で「内定辞退が続いている」「引き止めたい」という相談を受けます。ここで、引き止め方を誤ると、法令上の問題になり得ます。しかも、強い引き止めは採用の評判を下げ、翌年以降の採用に響きます。この記事は、内定辞退への対応の前提を、若者雇用促進法に基づく指針のリーフレットに沿って整理したものです。結論を先に書くと、厚生労働省のリーフレットは、指針の内容として「採用内定または採用内々定と引き替えに、他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要することなどの職業選択の自由を妨げる行為などは、青少年に対する公平・公正な就職機会の提供の観点から行わないこと」「労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定者に対して、自由な意思決定を妨げるような内定辞退の勧奨は、違法な権利侵害に当たるおそれがあることから行わないこと」としています。辞退そのものを止める手段はなく、減らすには採用の設計を変えるしかありません。個別の判断は弁護士や都道府県労働局にご確認ください。内定取消しは内定取消しができる場合に、求職者等へのハラスメント対策はセクハラ対応の実務にまとめています。

指針が「行わないこと」としていること

厚生労働省のリーフレット「若者の募集・採用等に関する指針」には、青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)に基づく指針の内容として、次が示されています。

一、他社への就職活動の取りやめを強要しない。「採用内定または採用内々定と引き替えに、他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要することなどの職業選択の自由を妨げる行為などは、青少年に対する公平・公正な就職機会の提供の観点から行わないこと。」

二、自由な意思決定を妨げる内定辞退の勧奨をしない。「労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定者に対して、自由な意思決定を妨げるような内定辞退の勧奨は、違法な権利侵害に当たるおそれがあることから行わないこと。」

読み方。一つ目は、内定と引き替えに他社の選考をやめさせる形(いわゆる就職活動の終了を迫る行為)を指しています。二つ目は、内定を出した後に、会社の側から辞退するよう仕向ける勧奨を指しており、「自由な意思決定を妨げるような」ものが違法な権利侵害に当たるおそれがある、という整理です。この「自由な意思決定を妨げる」という言い方は、退職勧奨について厚生労働省の資料が引用する最高裁判決の考え方と共通します。詳しくは退職勧奨の進め方に整理しています。

就活生へのハラスメント。同じリーフレットには、雇用する労働者が就職活動中の学生やインターンシップを行っている者等に対する言動について、必要な注意を払うよう配慮するように努めることが望ましいこと、特に就職活動中の学生に対するセクシュアルハラスメント等は正式な採用活動のみならずOB・OG訪問等の場でも問題化していること、企業としての責任を自覚し、OB・OG訪問等の際も含めてセクシュアルハラスメント等は行ってはならないものであり厳正な対応を行う旨などを研修などを実施し社員に対して周知徹底すること、OB・OG訪問等を含めて学生と接する際のルールをあらかじめ定めること等により未然の防止に努めること、が示されています。あわせて、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止のため雇用管理上の措置を講ずること、令和8年10月1日から適用される求職活動等セクハラ防止指針を踏まえて必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいこと、も示されています。

引き止めと、やってはいけないことの線

実務で迷うのは、「引き止め」がどこから問題になるか、です。指針の言葉に沿って整理します。

形指針との関係
会社の魅力や入社後の姿を伝え、本人に判断してもらう問題になる形ではない
本人の迷いや不安を聞き、答えられる材料を出す問題になる形ではない
条件(配属、勤務地など)を見直して提示する問題になる形ではない
内定と引き替えに、他社の選考をやめるよう求める指針が「行わないこと」としている職業選択の自由を妨げる行為に当たり得る
誓約書などで他社の選考をやめさせる同上
何度も呼び出して翻意を迫る自由な意思決定を妨げる形に近づく
辞退を申し出た本人に、長時間の面談や強い言葉で対応する同上

辞退の申出を受けたとき。辞退は本人の判断です。会社ができるのは、理由を差し支えない範囲で聞き、今後の採用の改善に活かすことと、手続を整えて終えることです。「一度考え直してほしい」と伝えること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、回数と態様が重なると、自由な意思決定を妨げる形に近づきます。一度の申出で終える形を、あらかじめ決めておきます。

記録。辞退の申出を受けた日、誰が対応したか、本人が述べた理由、会社が伝えたことを記録します。担当者の対応がばらつかないよう、対応の型を作ります。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この相談で最も大事なのは、「辞退は止められない。減らせるのは設計だけだ」と最初に伝えることです。相談で見ていると、辞退が続く依頼先ほど、引き止めの方法を求めます。ですが、指針が示しているとおり、他社の選考をやめさせる形も、自由な意思決定を妨げる勧奨も、行わないこととされています。使える手段は、辞退が起きる前の設計にしかありません。

設計として効くのは、次の三つです。一つ目は、内定を出す前の段階で、候補者の迷いを聞いておくこと。何を比べていて、何が決め手になるのかを面接や面談で把握しておけば、内定の出し方も、その後の関わり方も変わります。二つ目は、内定から入社までの期間の設計。誰が、どの頻度で、何を伝えるのか。放置すれば他社に気持ちが移り、過度に接触すれば負担になります。三つ目は、条件の出し方。配属や勤務地が決まっていないまま内定を出すと、候補者は判断できません。この三つは採用の実務そのもので、副業の人事が最も力を出せる領域です。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、採用の設計に関わった経験がある人は、この相談で選ばれます。

辞退を減らすための設計と、理由の集め方

設計の論点。

段階設計すること
選考中候補者が何を比べているか、何が決め手かを聞く工程。迷いを把握する
内定を出す前条件(配属、勤務地、業務内容、処遇)をどこまで確定して伝えるか
内定の通知何を書面で伝えるか、いつまでに返答をもらうか(強要にならない形で)
内定から入社まで誰が、どの頻度で、何を伝えるか。過度でも放置でもない形
不安への対応本人が相談できる窓口。配属や働き方の質問に答えられる体制
辞退の申出受けたときの対応の型。理由を差し支えない範囲で聞く。一度で終える
振り返り辞退の理由を集計し、選考や条件の設計に反映する

理由の集め方。辞退の理由は、本人が本当のことを言いにくい場面です。「他社に決めました」で終わることも多くあります。聞くなら、選考の過程のどこで気持ちが動いたか、何が決め手だったか、を差し支えない範囲で聞く形にします。答えたくない場合は、そこで終えます。無理に聞き出す形は、最後の印象を悪くし、その候補者が周囲に語る内容に影響します。

辞退の理由を設計に戻す。集めた理由を、選考の段階ごとに分けて見ます。面接での印象、条件、決定までの速さ、配属の見通し、内定後の関わり方。どこで差がついているかが見えると、打ち手が具体的になります。この分析は、採用の支援をしている副業の人事が担えます。

ハラスメントの観点も。リーフレットが指摘するとおり、OB・OG訪問等の場でのセクシュアルハラスメント等が問題化しています。令和8年10月1日からは、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます。学生と接する際のルールをあらかじめ定めることは、指針でも未然の防止の方法として挙げられています。詳しくはハラスメント防止措置の義務に整理しています。

エラベルの見解

外に出してよいのは、選考の設計、内定から入社までの関わり方の設計、辞退の申出を受けたときの対応の型、理由の集め方と集計、学生と接する際のルールの設計までで、「この引き止めは違法か」「この誓約書は有効か」といった判断は、弁護士や都道府県労働局の範囲です。

担当する側から見ると、この領域で信頼されるのは、経営や現場から「もっと強く引き止めてほしい」と言われたときに、指針の記載を示して止められることです。強い引き止めは、その場では効いたように見えても、入社後の早期離職につながり、学生の間での評判にも残ります。指針が示している線を伝えたうえで、「引き止めではなく設計で減らしましょう」と提案できるかどうかが、副業の人事の価値です。断るだけでは役に立たず、代わりの手段を出せることが要点です。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この提案ができる人は、翌年の採用も任されています。

まとめ

よくある質問

「他社の選考を辞退したら内定を出す」という進め方を提案されました

厚生労働省のリーフレットでは、指針の内容として、採用内定または採用内々定と引き替えに他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要することなどの職業選択の自由を妨げる行為などは行わないこと、とされています。この記載を示したうえで、代わりの手段(条件を確定して伝える、迷いを聞いて答える、決定までの期間を明確にする)を提案します。強要に当たるかどうかの判断は弁護士や都道府県労働局にご確認ください。

内定を辞退したいと言われました。一度は引き止めてよいですか

本人の判断を尊重することが前提です。「差し支えなければ理由を教えてください」「もし迷っている点があれば説明します」と伝えること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、回数と態様が重なると、指針が「行わないこと」としている自由な意思決定を妨げる形に近づきます。一度の申出で終える形をあらかじめ決めておき、担当者が判断に迷わないようにします。対応の記録も残します。

辞退が多い原因を知るには、どうすればよいですか

辞退の理由を、選考の段階ごとに分けて集計します。面接の印象、条件(配属・勤務地・処遇)、決定までの速さ、配属の見通し、内定後の関わり方。本人に聞ける範囲は限られるので、聞けた内容と、選考の記録(どの段階で時間がかかったか、どの面接の後に連絡が途絶えたか)を組み合わせて見ます。聞くときは、差し支えない範囲で、答えたくなければそこで終える形にします。無理に聞き出すと、最後の印象が悪くなります。

出典