人事副業 / 人事の前提知識
内部通報制度|公益通報者保護法の義務と、窓口を機能させる設計
副業で人事を受けていると、依頼先から「内部通報の窓口を作りたい」「作ったが誰も使わない」と相談されることがあります。制度としては窓口があっても、通報した人が守られる仕組みになっていなければ、誰も使いません。逆に、使われないまま外部に通報が出て、初めて会社が事態を知ることもあります。この記事は、内部通報制度の前提を、消費者庁の案内に沿って整理したものです。結論を先に書くと、公益通報とは、労働者等が、役務提供先の不正行為を、不正の目的でなく、一定の通報先に通報することをいい、通報する人には労働者のほかフリーランス、退職者(退職や派遣労働終了から1年以内)、役員が含まれます。通報先は、事業者内部・権限を有する行政機関・その他の事業者外部の三つです。事業者には、公益通報対応業務従事者を指定する義務と、公益通報に適切に対応するために必要な体制を整備し労働者等に周知する義務があり、常時使用する労働者が300人以下の事業者については努力義務とされています。従事者には守秘義務があり、違反した場合には30万円以下の罰金が科されることがあります。副業の人事が持つのは、窓口の設計と運用までで、個別の事案の判断は弁護士にご確認ください。ハラスメントの相談体制はマタハラ・ケアハラ対応に、安全配慮義務は安全配慮義務にまとめています。
誰が、何を、どこに通報できるか
消費者庁の公益通報ハンドブックでは、公益通報とは「①労働者等が、②役務提供先の不正行為を、③不正の目的でなく、④一定の通報先に通報すること」だと説明されています。
通報する人(通報の主体)。労働者、フリーランス、退職者、フリーランスであった者、役員が挙げられています。「労働者」には、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマー等のほか、公務員も含まれる、とされています。「退職者」とは退職や派遣労働終了から1年以内の者、「フリーランスであった者」とは業務委託関係が終了して1年以内のフリーランス、「役員」とは取締役、監査役など法人の経営に従事する者をいう、と説明されています。取引先の労働者、フリーランス、退職者、フリーランスであった者、役員も「通報する人」に含まれる、とされています。
通報する内容。役務提供先において一定の法令違反行為が生じ、またはまさに生じようとしている旨を通報する必要があるとされ、一定の法令違反行為とは、公益通報者保護法や政令で定められた法律(対象となる法律)に違反する犯罪行為もしくは過料対象行為、または最終的に刑罰もしくは過料につながる行為をいう、と説明されています。
通報の目的。不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で通報した場合は、公益通報にはならない、とされています。
通報先。①事業者内部、②権限を有する行政機関、③その他の事業者外部のいずれかで、通報先ごとに不利益な取扱い等からの保護を受けるための要件(保護要件)が異なる、と説明されています。
保護。公益通報をしたことを理由に、通報者に対して解雇等の不利益な取扱いをすることは禁止されており、例として解雇、懲戒、降格、減給等が挙げられています。あわせて、損害賠償の制限、立証責任の転換、通報を妨げること(通報妨害)の禁止も示されています。
事業者の義務
ハンドブックでは、事業者の義務として次の二つが示されています。
①従事者を指定する義務。窓口で通報を受け付ける者や、調査等に従事する者、是正措置を実施する者等であって、通報者氏名等を伝達される人を、従事者として指定する必要があるとされています。常時使用する労働者が300人以下の事業者については努力義務です。従事者には、通報者の氏名等、通報者が誰であるか認識することができる事項について漏らしてはならないという守秘義務があり、違反した場合には30万円以下の罰金が科されることがある、と説明されています。
②公益通報に対応するための体制を整備する義務等。公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対するその周知その他の必要な措置をとる義務が課されており、常時使用する労働者が300人以下の事業者については努力義務とされています。これらの義務の具体的な内容を定めるために指針が策定され、指針の解説において具体的な取組例等が記載されている、と説明されています。
行政の関与。従事者の指定義務に関しては、消費者庁による報告徴収、立入検査や助言、指導、勧告、是正命令等の権限が規定されており、虚偽報告や検査忌避等を行った場合や是正命令違反を行った場合、過料や罰金が科されることがある、とされています。
指針。制度の指針は、令和3年内閣府告示第118号として示されています。
改正法。消費者庁のページでは、令和7年改正の公益通報者保護法が2025年6月11日に公布され、令和8年12月1日に施行予定であることが案内されています。ハンドブックも改正法(令和8年12月施行)準拠版が公表されています。改正の内容の詳細と、依頼先への影響は、消費者庁の資料と弁護士にご確認ください。
エラベルの見解
担当する側から見ると、この領域で難易度が分かれるのは、窓口を作ることではなく「使われる窓口にできるか」です。相談で見ていると、窓口があるのに使われない依頼先には共通の形があります。窓口の担当が人事部長で、通報の内容が上司に伝わることを従業員が恐れている。受付の後の流れが誰にも説明されていない。通報した人がどう守られるかが周知されていない。この三つです。窓口を作った時点で満足してしまい、「誰も使わないので問題がない」と経営が思っている、という状態も見かけます。
副業の人事が入るなら、まず周知の内容を作り直します。誰が通報できるか(退職者やフリーランスも含まれること)、何を通報できるか、通報した後どういう流れになるか、誰が知ることになるか、不利益な取扱いが禁止されていること。ハンドブックの内容をもとに、依頼先の言葉で一枚にします。次に、受付の担当を誰にするか、外部の窓口を併設するかを設計します。従事者の指定と守秘義務の設計は、指針と指針の解説に沿って、弁護士に確認しながら進めます。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、この設計ができる人は、コンプライアンスの整備を進めたい依頼先から選ばれています。
窓口を機能させる設計
副業の人事が作るのは、次の形です。
| 論点 | 決めること | 誰が持つか |
|---|---|---|
| 対象の範囲 | 誰が通報できるか(労働者、退職者、フリーランス、役員、取引先の関係者) | 依頼先。範囲の解釈は弁護士 |
| 受付の経路 | 社内の窓口、外部の窓口(弁護士事務所等)、どちらを使えるか | 経営が判断 |
| 従事者の指定 | 誰を従事者に指定するか、指定の方法と記録 | 経営と法務。指針に沿って弁護士に確認 |
| 守秘の設計 | 誰がどこまで知るか、記録の保管、アクセスの制限 | 法務と人事 |
| 受付後の流れ | 受付の連絡、調査の進め方、結果の通知、是正措置 | 法務と人事 |
| 不利益取扱いの防止 | 通報者の人事上の扱いを誰がどう確認するか | 人事 |
| 周知 | 全従業員への説明、入社時の案内、定期的な再周知 | 人事 |
| 記録と見直し | 件数と対応の記録、年に一度の見直し | 法務と人事 |
周知の一枚。通報を考える人が知りたいのは、制度の条文ではなく「自分は守られるか」「誰に知られるか」です。周知の一枚には、通報できる人の範囲、通報先の選択肢、受付後の流れ、誰が知ることになるか、不利益な取扱いが禁止されていること、を書きます。
人事が持つ部分。不利益な取扱いの防止は、人事の実務に直結します。通報があった後に、その人の評価、配置、昇給が変わっていないかを確認する工程を、人事の中に置きます。ここを設計できるのは人事の経験がある人です。
外部窓口。社内の窓口だけでは使われにくい依頼先では、外部の窓口を併設する形が選ばれます。どこに委託するか、社内の誰が報告を受けるか、守秘の範囲をどうするかは、弁護士に確認しながら決めます。
エラベルの見解
外に出してよいのは、周知の資料、受付後の流れの設計、記録の様式、不利益取扱いの防止の工程、年に一度の見直しの設計、従業員への説明の場までで、「この通報は公益通報に当たるか」「この対応は法に適合しているか」「従事者の指定はこれでよいか」といった個別の判断は、弁護士や消費者庁の相談窓口の範囲です。特に、通報の内容に副業の人事が触れることは、守秘の設計上あってはなりません。設計と周知の側に立ち、個別の事案には関わらない線を、契約の前に伝えます。
担当する側から見ると、この領域で信頼されるのは、「使われる設計にできる」ことです。使われない窓口は、会社にとってもリスクです。社内で解決できたはずのことが、外部への通報や報道という形で表に出ます。逆に、使われる窓口があれば、会社は早い段階で事実を知り、自浄作用が働きます。ハンドブックにも、体制を整備することは事業者内部の自浄作用を高めるとともに、事業者外部への通報による風評リスク等を減少させることにもつながる、と書かれています。この位置づけを経営に伝えられるかどうかが、整備が進むかどうかの分かれ目です。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この説明ができる人は、制度の整備で選ばれています。
まとめ
- 公益通報とは、労働者等が、役務提供先の不正行為を、不正の目的でなく、一定の通報先に通報すること
- 通報する人には、労働者(正社員・派遣・アルバイト・パートタイマー・公務員等)、フリーランス、退職者(退職や派遣労働終了から1年以内)、フリーランスであった者、役員が含まれる。取引先の関係者も含まれる
- 通報先は①事業者内部 ②権限を有する行政機関 ③その他の事業者外部の三つ。通報先ごとに保護要件が異なる
- 公益通報をしたことを理由とする解雇等の不利益な取扱いは禁止。損害賠償の制限、立証責任の転換、通報妨害の禁止も定められている
- 事業者には従事者を指定する義務と体制を整備し周知する義務がある(常時使用する労働者が300人以下は努力義務)。従事者の守秘義務違反は30万円以下の罰金
- 令和7年改正法は2025年6月11日公布、令和8年12月1日施行予定。副業の人事が持つのは設計と周知まで。個別の判断は弁護士にご確認ください
よくある質問
依頼先は従業員150人です。窓口を作る義務はありますか
従事者の指定と体制の整備は、常時使用する労働者が300人以下の事業者については努力義務とされています。義務ではありませんが、努めることとされている以上、何もしない状態が望ましいわけではありません。ハンドブックでも、体制を整備することは事業者内部の自浄作用を高め、外部への通報による風評リスク等を減少させることにつながると説明されています。規模に合った形(外部窓口の併設、既存の相談窓口との統合)を設計して提案します。義務の範囲の個別の判断は、消費者庁の相談窓口や弁護士にご確認ください。
退職した人からの通報も、受け付けないといけませんか
ハンドブックでは、通報する人に「退職者」(退職や派遣労働終了から1年以内の者)が含まれると説明されています。窓口の案内に「在職者のみ」と書いている依頼先では、周知の内容を見直します。あわせて、フリーランスであった者(業務委託関係が終了して1年以内)や、取引先の関係者も含まれるとされているので、窓口の対象の書き方を確かめます。個別の事案が公益通報に当たるかの判断は、弁護士にご確認ください。
通報の内容を、副業の人事が見てもよいですか
見ない設計にします。従事者には守秘義務があり、通報者が誰であるか認識することができる事項を漏らしてはならないとされ、違反には罰金が科されることがあります。外部から入る副業の人事が通報の内容に触れる形は、守秘の設計上も、依頼先のリスクとしても避けます。関われるのは、周知の資料、受付後の流れの設計、記録の様式、不利益取扱いの防止の工程、見直しの設計までです。この線を契約の前に伝えておきます。同じ考え方はマイナンバーの取り扱いにも整理しています。