人事副業 / 人事の前提知識
社会保険の適用範囲|適用事業所・被保険者の要件と、短時間労働者への拡大
副業で人事を受けていると、依頼先から「このパートの人は社会保険に入れるのか」「入れたくないと言われたらどうするか」と相談されることがあります。ここは判断を間違えると、後から遡って保険料が発生したり、本人との関係が壊れたりします。しかも短時間労働者への適用は段階的に広がってきたので、数年前の知識で答えるとずれます。この記事は、健康保険・厚生年金保険の適用範囲を、日本年金機構の案内に沿って整理したものです。結論を先に書くと、法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用で、個人の事業所は常時5人以上の従業員を雇用する場合に(一部の業種を除いて)強制適用です。被保険者になるのは、適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方で、国籍や性別、年金の受給の有無を問いません。短時間労働者は、通常の労働者の4分の3以上という基準に加えて、特定適用事業所等では週20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・学生でない、の3要件をすべて満たす場合に被保険者となります。届出は5日以内です。副業の人事が持つのは、判定の材料づくりと運用の設計までで、該当性の個別の判断は年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。雇用保険は雇用保険の適用範囲に、入退社の手続は入退社手続きの流れにまとめています。
適用事業所:強制と任意
日本年金機構の案内では、適用事業所について次のように整理されています。
強制適用事業所。株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて強制適用となります。個人の事業所は、常時5人以上の従業員を雇用する場合に対象になりますが、農林漁業、サービス業などの場合を除く、とされています。令和4年10月から、法律・会計関連の士業で常時5人以上を雇用する事業所も強制適用になった、と説明されています。
任意適用事業所。強制適用の要件に該当しない事業所でも、従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることにより、適用事業所になることができる、とされています。
依頼先で確かめること。法人なら強制適用なので、ここで迷うことはほとんどありません。個人事業の依頼先では、従業員の数と業種を確かめます。士業の事務所を支援している場合は、令和4年10月からの扱いを確かめます。該当性の個別の判断は、年金事務所にご確認ください。
被保険者:常用的使用関係と、70歳未満
基本の要件。日本年金機構の案内では、厚生年金保険に加入している適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となる、とされています。
常用的使用関係。雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係を指す、と説明されています。試用期間中でも報酬が支払われれば認められる、ともされています。ここは実務でよく誤解されるところで、「契約書がないから対象外」「試用期間だから入れない」という扱いはできません。
4分の3基準。平成28年10月1日より、1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である方が被保険者になる、とされています。
特定適用事業所等での短時間労働者。「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」または「国・地方公共団体に属する事業所」では、次の3要件をすべて満たす場合、4分の3未満でも短時間労働者が被保険者となる、とされています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 |
| 賃金 | 所定内賃金が月額8.8万円以上 |
| 学生 | 学生でないこと |
適用除外。日々雇用、2か月以内の期間を定めて使用される方、季節的業務(4か月以内)、臨時的事業の事業所(6か月以内)に使用される方は原則として対象外とされています。ただし、1か月を超えて引き続き使用される場合や、予定された期間を超えた場合には被保険者となる、とされています。また、所在地が一定しない事業所に使用される人は、いかなる場合も被保険者にならない、と説明されています。
エラベルの見解
担当する側から見ると、この領域で難易度が分かれるのは、要件を覚えていることではなく「判定を、採用の前の段階に持ってこられるか」です。相談で見ていると、判定が問題になるのは入社した後です。「週何時間で契約したか」「所定内賃金がいくらか」が先に決まっていて、その結果として社会保険に入るかどうかが決まる。そこで本人が「手取りが減るなら困る」と言い出し、慌てて時間を削る、という話になります。
副業の人事が入るなら、求人票を書く段階で、その条件だと社会保険の対象になるかどうかを確かめ、募集の条件と本人への説明をそろえます。所定内賃金が月額8.8万円以上になるかは、時給と週の時間の組み合わせで決まるので、募集の条件を決める時点で分かります。「入ってから知らされた」をなくすだけで、入社後のトラブルはかなり減ります。ここは制度の知識と採用の実務がつながるところで、両方を見られる副業の人事に向いた仕事です。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、「募集の条件を決める段階から社会保険の判定を入れられる」ことは、パートやアルバイトの採用が多い依頼先に効く経歴になります。
届出と、依頼先の運用に落とす手順
届出の期限。日本年金機構の案内では、事業主は、新たに従業員を採用したときまたは退職者等があったときは、被保険者について「被保険者資格取得届」または「被保険者資格喪失届」を5日以内に日本年金機構(事務センターまたは年金事務所)へ提出する、とされています。
運用に落とす手順。副業の人事が作るのは、次の形です。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 募集の条件を決めるとき | 週の所定労働時間と所定内賃金から、社会保険の対象になるかを確かめる |
| 求人票 | 条件を明記し、社会保険の有無についての表記を実態と合わせる |
| 内定・条件提示 | 本人に、社会保険に入るかどうかと、その理由を説明する |
| 契約 | 所定労働時間・所定労働日数・所定内賃金を契約書に明記する |
| 入社日〜5日 | 資格取得届を提出(該当する場合) |
| 契約の変更時 | 時間や賃金が変わったら、該当性が変わらないか確かめる |
| 退職日〜5日 | 資格喪失届を提出 |
契約の変更が盲点。入社時に対象外だった人が、シフトを増やして対象になることがあります。契約の変更や、実態としての勤務時間の変化があったときに該当性を見直す工程を、運用に入れておきます。判定そのものは、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。
本人への説明。社会保険に入ると手取りが変わるので、本人が驚かないよう、条件提示の段階で説明します。「入りたくない」と言われても、要件に当たれば加入の対象になるので、時間や賃金の条件を変えるかどうかという話になります。ここを曖昧にしたまま入社させると、後から揉めます。
エラベルの見解
外に出してよいのは、判定の材料の整理、募集の条件と社会保険の該当性の突き合わせ、求人票と条件提示の表記、契約書に書く項目、届出の期限の一覧、契約変更時の見直しの工程までで、「この人は被保険者に当たるか」「この事業所は特定適用事業所に当たるか」「この賃金は所定内賃金に含まれるか」といった個別の判断は、年金事務所や社会保険労務士の範囲です。特に、所定内賃金に何が含まれるかは判断が分かれやすいので、副業の人事が決め切る場所ではありません。
担当する側から見ると、この領域で信頼されるのは、判定そのものより「判定が要る場面を見つけられる」ことです。採用のとき、契約更新のとき、シフトを増やすとき、賃金を上げるとき、役割を変えるとき。このどれでも該当性が変わりえます。依頼先の人事の年間の流れに、判定の工程を埋め込んでおくと、後から遡る事態を防げます。制度を説明するだけの人と、運用に埋め込む人では、依頼先に残るものが違います。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、運用に埋め込める人は続けて頼まれています。
まとめ
- 法人の事業所は事業主のみの場合を含めて強制適用。個人の事業所は常時5人以上で(農林漁業・サービス業などを除いて)強制適用。令和4年10月から士業で常時5人以上も強制適用
- 要件に該当しない事業所も、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可で任意適用事業所になれる
- 被保険者は適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方。国籍・性別・年金の受給の有無を問わない。雇用契約書の有無とは関係なく、試用期間中でも報酬が支払われれば認められる
- 短時間労働者は4分の3基準に加え、特定適用事業所等では週20時間以上・所定内賃金が月額8.8万円以上・学生でないの3要件をすべて満たす場合に被保険者となる
- 日々雇用、2か月以内、季節的業務(4か月以内)、臨時的事業(6か月以内)は原則対象外。ただし期間を超えて使用される場合は被保険者となる
- 届出は5日以内。副業の人事が持つのは判定の材料と運用の設計まで。該当性の判断は年金事務所や社会保険労務士にご確認ください
よくある質問
本人が「社会保険に入りたくない」と言っています
要件に当たるかどうかは本人の希望で決まるものではないので、「入らない」という選択はできません。実務としてできるのは、所定労働時間や所定内賃金の条件を変えるかどうかを、本人と会社で話すことです。ただし、実態として要件に当たる働き方をしているのに契約だけを変える形は、後から実態で判断されることになります。判定と対応は、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。募集の段階で条件と社会保険の有無をそろえておくと、この相談自体が減ります。
試用期間中は入れなくてよいですか
日本年金機構の案内では、常用的使用関係は雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係を指すとされ、試用期間中でも報酬が支払われれば認められる、と説明されています。試用期間を理由に加入を遅らせる運用は、この整理と合いません。入社日から5日以内という届出の期限も変わらないので、入社の手続の流れに組み込んでおきます。手続の流れは入退社手続きの流れに整理しています。
シフトを増やして要件に当たるようになった人がいます
契約の変更や実態の変化で該当性が変わることがあるので、変わった時点で判定をやり直します。副業の人事としては、契約更新やシフトの見直しのタイミングで該当性を確かめる工程を、依頼先の運用に入れておきます。遡って加入が必要になる場合の扱いや、いつから被保険者になるかの判断は、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。標準報酬月額の決め方や、報酬が変わったときの改定は厚生年金の実務に整理しています。