人事副業 / 人事の前提知識

厚生年金の実務|標準報酬月額の決まり方と、定時決定・随時改定の運用

公開 2026-09-22

副業で人事を受けていると、給与の設計や昇給の相談の場面で、厚生年金保険の標準報酬月額の話が出てきます。「この昇給だと保険料はどう変わるか」「7月に出す算定基礎届とは何か」。手続そのものは社会保険労務士の領域ですが、給与や等級の設計を人事が担う以上、標準報酬月額がどう決まるかを知らないと設計ができません。この記事は、厚生年金保険の実務の骨格を、日本年金機構の案内に沿って整理したものです。結論を先に書くと、厚生年金保険の標準報酬月額は1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれ、資格取得時の決定、毎年の定時決定(算定基礎届)、報酬が大きく変わったときの随時改定(月額変更届)で決まります。定時決定は4月・5月・6月の報酬をもとに7月10日までに提出し、9月から翌年8月までの各月に適用されます。随時改定は、固定的賃金の変動・3か月の平均で2等級以上の差・支払基礎日数17日(特定適用事業所の短時間労働者は11日)以上の三つを満たす場合に、変動月から4か月目の標準報酬月額から改定されます。副業の人事が持つのは、給与設計と年間の運用の設計までで、届出や個別の判断は社会保険労務士や年金事務所にご確認ください。適用の範囲は社会保険の適用範囲に、入退社の手続は入退社手続きの流れにまとめています。

標準報酬月額と、報酬の範囲

等級。日本年金機構の案内では、厚生年金保険の標準報酬月額は1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれている、とされています。

報酬に含まれるもの。基本給のほか、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金等が挙げられ、あわせて現物給与(宿舎費や食事代等)も含まれる、と説明されています。

ここで実務上の要点は、通勤手当が含まれることです。給与の設計で「基本給は抑えて通勤手当を厚くする」といった調整をしても、標準報酬月額の計算では合算されます。残業手当も含まれるので、残業が多い月が続くと標準報酬月額に影響します。

標準賞与額。案内では、賞与は「賃金、給料、俸給、賞与等の名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の回数で支給されるもの」とされ、標準賞与額は実際の税引き前の賞与の額から1千円未満の端数を切り捨てたもので、支給1回(同じ月に2回以上支給されたときは合算)につき150万円が上限だ、と説明されています。

決まるタイミングは三つ(+休業後の改定)

標準報酬月額が決まるのは、次のタイミングです。日本年金機構の「標準報酬月額、賞与等」のページには、資格取得時の決定、定時決定(算定基礎届)、随時改定(月額変更届)、賞与を支給したときの手続きが並んでいます。

資格取得時の決定。入社などで被保険者の資格を取得したときに決まります。入社後の給与の実績がないので、契約上の報酬をもとに決める形になります。

定時決定(算定基礎届)。日本年金機構の案内では、次のように説明されています。対象は7月1日現在のすべての被保険者および70歳以上被用者。ただし、6月1日以降の資格取得者、6月30日以前の退職者、7月改定の月額変更届を提出する方、8月または9月の随時改定が予定されている旨を申し出た方は除かれます。4月・5月・6月の3か月間の報酬が基準で、支払基礎日数17日以上(短時間労働者は11日以上)という要件があります。提出は毎年7月10日まで(10日が土日の場合は翌営業日)。決定し直された標準報酬月額は、9月から翌年8月までの各月に適用されます。提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所で、電子申請・電子媒体・郵送・窓口持参で提出できる、とされています。

随時改定(月額変更届)。案内では、次の三つの要件をすべて満たす場合に随時改定を行う、と説明されています。

要件内容
固定的賃金の変動昇給または降給等により固定的賃金に変動があったこと。固定的賃金とは支給額や支給率が決まっているもの
2等級以上の差変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額により算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたこと
支払基礎日数変動月以後引き続く3か月の報酬の支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であること

改定されるのは、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額からで、提出は「速やかに」とされています。固定的賃金に該当する例として、昇給、降給、給与体系の変更、日給や時間給の基礎単価の変更、手当の追加・支給額変更などが挙げられ、一時帰休で継続して3か月を超えて低額の休業手当が支払われた場合も該当する、と説明されています。

そのほか。日本年金機構のページには、産前産後休業等の終了時の改定など、休業に関連する手続きも並んでいます。該当する場面では、年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

エラベルの見解

担当する側から見ると、この領域で価値が出るのは、届出を手伝うことではなく「昇給の設計に、随時改定の影響を織り込めるか」です。相談で見ていると、昇給の額を決めるときに、標準報酬月額が2等級以上動くかどうかを誰も見ていない依頼先が多くあります。そのまま昇給すると、変動月から4か月目に保険料が上がり、本人の手取りが思ったほど増えず、「昇給したのに手取りが減った」という話になります。会社の負担も同時に増えます。

副業の人事が入るなら、昇給の案を作る段階で、対象者ごとに「この昇給額だと等級がいくつ動くか」を並べます。等級の幅は決まっているので、あと少しで次の等級に届く人、2等級動いてしまう人、が見えます。そのうえで、本人に「4か月目から保険料が変わります」と説明する形にすると、昇給の納得度が変わります。金額の調整そのものを目的にするのではなく、影響を知ったうえで決めることが要点です。計算の確認は社会保険労務士にお願いします。エラベルでは、依頼側が担当者の経歴を見て選ぶ仕組みなので、給与設計と社会保険の両方を見られる人は、制度の整備を任せたい依頼先から選ばれています。

年間の運用に落とす

副業の人事が作るのは、次の年間の流れです。依頼先の担当者が見て動ける粒度にします。

時期やること根拠
入社のつど資格取得届(5日以内)と、資格取得時の標準報酬月額の決定適用と届出
昇給・降給の設計時等級が2等級以上動くかを対象者ごとに確認し、本人への説明を準備随時改定の要件
変動月から3か月3か月の平均と支払基礎日数を確認。該当すれば月額変更届を速やかに提出随時改定
4月〜6月報酬の集計。7月の算定基礎届に向けて支払基礎日数も確認定時決定の対象月
7月10日まで算定基礎届の提出定時決定
9月〜翌年8月決定された標準報酬月額の適用。給与計算への反映を確認定時決定の適用期間
賞与の支給のつど賞与支払届。年3回以下の支給が賞与に当たること、1回150万円の上限を確認標準賞与額
退職のつど資格喪失届(5日以内)適用と届出

4月〜6月の残業。定時決定は4月・5月・6月の報酬をもとに決まるので、この3か月の残業が多いと、9月からの1年間の標準報酬月額が高くなります。これは制度の仕組みであって操作するものではありませんが、繁忙期がこの時期に重なる依頼先では、本人に「9月から保険料が上がることがあります」と事前に説明しておくと、驚かれません。

支払基礎日数。定時決定でも随時改定でも、支払基礎日数の要件(17日、特定適用事業所の短時間労働者は11日)が出てきます。欠勤が多い月や入社直後の月が絡むと判断が変わるので、該当性は社会保険労務士や年金事務所にご確認ください。

役割の分担。届出そのものは社会保険労務士の領域が大きいので、依頼先に社労士がいる場合は「給与設計と年間の運用の設計は私、届出は先生」と分けます。いない場合は、依頼先の誰が出すかを決めて、期限の一覧と対象者の抽出の手順を渡します。

エラベルの見解

外に出してよいのは、給与設計への影響の整理、昇給の案と等級の動きの突き合わせ、本人への説明の資料、年間の運用の流れ、対象者の抽出の手順、期限の一覧までで、「この手当は報酬に含まれるか」「この人は随時改定の対象か」「支払基礎日数はこの数え方でよいか」「届出の代行」は、社会保険労務士や年金事務所の範囲です。報酬に含まれるかどうかは手当の性質によって判断が分かれるので、副業の人事が決め切る場所ではありません。

担当する側から見ると、この領域で信頼されるのは、制度の説明より「昇給の意思決定の場に、影響を並べて出せる」ことです。経営が昇給の総額を決める会議に、等級の動きと保険料の影響を並べた資料が出てくると、意思決定の質が変わります。人事の経験がある人は、給与制度の設計と社会保険の実務がつながっていることを知っているので、この資料が作れます。制度に詳しいだけの人にも、給与設計だけの人にも作れない資料です。エラベルでは、依頼側が担当者を選べるので、この両方を見られる人は、給与制度の整備の案件で選ばれています。

まとめ

よくある質問

昇給の額を、等級が動かないように調整してもよいですか

等級の動きを知ったうえで昇給の額を決めること自体は、設計の一部です。ただし、目的を「保険料を上げないこと」に置くと、本人の処遇を保険料の都合で決めることになり、昇給の意味が変わります。まず処遇として妥当な額を決め、その結果として等級がどう動き、いつから保険料が変わるかを本人に説明する、という順番にします。固定的賃金の変動に当たるかどうかや、改定の要否の判断は、社会保険労務士にご確認ください。

4月から6月の残業が多いと、保険料が上がると聞きました

定時決定は4月・5月・6月の報酬をもとに決まり、決定された標準報酬月額は9月から翌年8月までの各月に適用されます。この3か月の残業が多ければ、その分が報酬に含まれます。これは制度の仕組みなので、残業を操作するのではなく、繁忙期がこの時期に重なる依頼先では、本人に事前に説明しておく形にします。支払基礎日数の要件や、除かれる人の範囲は、年金事務所にご確認ください。適用の範囲は社会保険の適用範囲に整理しています。

副業の人事が、算定基礎届の作成まで受けてもよいですか

届出の作成や提出は業として行える範囲に限りがあるので、依頼先に社会保険労務士がいるかを確かめ、いる場合は「対象者の抽出と集計の手順、年間の運用の設計は私、届出は先生」と分けます。いない場合は、依頼先の誰が出すかを決めて、期限の一覧と手順を渡します。副業の人事が持てるのは、給与データの整理、対象者の抽出の考え方、年間の流れ、本人への説明の資料までです。受ける範囲は契約の前に決めておきます。受ける前に確認することは人事の副業の始め方に、手続の全体像は入退社手続きの流れに整理しています。

出典