採用代行 / 採用の課題
前任者から引き継ぎがないまま採用を任された|資料を探すより先に、いま動いている候補者と契約を止めない
前任の人事が急に辞めた。引き継ぎの資料は無く、共有のフォルダには古い求人票が数枚。媒体のアカウントのパスワードも、採用代行との契約の内容も、面接の途中の候補者が何人いるかも、分からない。責任者からは「採用を頼む」とだけ言われた。結論を先に書くと、引き継ぎが無いとき、最初の一週間でやることは、資料を探すことではなく、「いま動いている候補者」と「いま動いている契約」を止めないことです。候補者を待たせず、契約の期限を落とさず、そのうえで社内と外部から情報を集め、自分の代で引き継ぎの形を作ります。代行を切り替えるときの引き継ぎ項目は採用代行を切り替えるときの引き継ぎ項目に、引き継ぎ資料の作り方は引き継ぎ資料にまとめています。
最初の一週間でやること
引き継ぎが無いとき、最初の一週間の優先順位です。
| 順位 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 一 | 動いている候補者を把握し、連絡が止まっている人に連絡する | 候補者は待っている。三日で他社に進む |
| 二 | 動いている契約(代行・紹介・媒体)を把握し、期限と担当者を確認する | 更新や解約の期限を落とすと、費用や停止が起きる |
| 三 | 媒体のアカウントにアクセスできる状態にする | 応募が来ているのに見られない状態を無くす |
| 四 | 応募の受付の窓口(メール・フォーム)を自分に向ける | 前任者宛てのメールに応募が来ていて、誰も見ていない |
| 五 | 責任者に、把握できたことと把握できていないことを報告する | 「分からない」を早く言う。後で分かると、責められる |
資料を探す、整理する、型を作る、は二週目以降です。一週目に資料を探していると、候補者と契約が落ちます。
動いている候補者の把握
候補者は、最初に止めてはいけないものです。把握の仕方です。
応募の窓口を、全部開ける。 前任者のメール、媒体の応募の受信箱、応募フォームの通知先、紹介会社からの連絡。情報システムの担当や責任者の許可を得て、前任者のメールを見られる状態にします。個人情報の扱いは社内の規程に沿います。
媒体ごとに、応募者と選考の状態を書き出す。 媒体の管理画面には、応募者と、既読・返信・面接の設定の記録が残っています。そこから「返信していない人」「面接の日程が未定の人」「面接後に結果を伝えていない人」を拾います。
面接官に聞く。 「最近、面接した人はいますか。結果は伝えましたか」。面接官は、自分が面接した候補者を覚えています。前任者が結果を伝えていない候補者が、ここで見つかります。
紹介会社に聞く。 「いま、選考中の候補者はいますか。どの段階ですか」。紹介会社は、自社の候補者の状態を把握しています。
候補者に、担当が替わったことを伝える。 「担当が替わりました。お待たせして申し訳ありません。現在の状況をお伝えします」。止まっていた期間を謝り、次の予定を伝えます。連絡が無いまま放置されるより、担当が替わったと伝えられるほうが、候補者は続けやすいです。
一枚の表にする。 候補者名、応募の経路、職種、段階、最後の連絡日、次の予定。この表が、自分の代の引き継ぎの最初の一枚になります。
候補者を止めないことが、最初の一週間の大半の仕事です。
契約と媒体の把握
候補者の次は、契約と媒体です。
| 把握するもの | 探す先 | 確認すること |
|---|---|---|
| 採用代行の契約 | 契約書(経理・法務・共有フォルダ)、担当者への連絡 | 期間、更新の条件、解約の予告期限、費用、担当者の連絡先、任せている工程 |
| 人材紹介の契約 | 契約書、紹介会社への連絡 | 手数料の条件、返金の条件、選考中の候補者 |
| 媒体の契約 | 契約書、媒体の担当者への連絡、請求書 | 掲載の期間、更新の期限、費用、アカウントの管理者 |
| 媒体のアカウント | 前任者のメール(登録の通知)、媒体の担当者 | ログインの可否、管理者の変更の手続き。手続きは各媒体の公式の案内で確認 |
| 求人票 | 媒体の管理画面、共有フォルダ | 現在掲載中の求人票の内容、更新日 |
| 応募の仕組み | 応募フォーム、自社の採用ページ | 通知先のメール、フォームの管理者 |
| 費用の支払い | 経理 | 採用に関わる支払いの一覧、支払いの期限 |
契約は、経理が請求書を持っていることが多いので、経理に「採用に関わる支払いを全部教えてください」と聞くのが早いです。請求書から契約先が分かり、契約先に連絡すれば、契約の内容が分かります。
期限が近い契約(更新・解約)は、責任者に報告して判断を仰ぎます。自分で判断しません。媒体のアカウントを引き継ぐ手順は媒体アカウントを代行に渡すときの注意点にも書いています。
社内から集める情報
引き継ぎの資料が無くても、社内には情報があります。
責任者に聞く。 「いま採ろうとしている職種と人数」「前任者に何を任せていたか」「困っていたこと」。責任者は、採用の目的を知っています。
面接官と現場に聞く。 「最近の面接で、どんな人が来たか」「求人票のどこが合っていないと思うか」「前任者が現場に頼んでいたこと」。現場は、採用の実態を知っています。
経理に聞く。 採用に関わる支払いの一覧。契約先と費用が分かります。
情報システムの担当に聞く。 前任者のメールとアカウントの扱い。共有フォルダの権限。
最近入社した人に聞く。 「応募から入社まで、どんな流れだったか」「どこで困ったか」。候補者の側から見た、自社の選考の流れが分かります。
前任者に、連絡できるなら聞く。 退職後でも、連絡が取れるなら、三十分の電話で分かることは多いです。ただし、退職者への依頼は社内の規程と、本人の意向に沿います。無理に頼みません。
集めた情報は、その場で書き留めます。聞いた人の頭の中にある情報は、聞いた瞬間にしか取り出せません。
エラベルの見解
相談で最も多い失敗は、「引き継ぎが無いので、まず資料を整理してから採用を再開しようとして、二週間、候補者に誰も連絡しなかった」というものです。二週間後、面接の途中だった候補者は全員が他社に決まっていました。整理した資料は立派でしたが、候補者はいません。最初の一週間で候補者に「担当が替わりました」と連絡していれば、半分は残っていました。
見ていて差がつくのは、担当者が「引き継ぎが無い会社に入ったとき、最初に候補者の表を作れる」かどうかです。「まず契約書を見せてください」から始める担当者と、「まず、媒体の管理画面を一緒に見て、返信していない候補者を今日中に洗い出しましょう」から始める担当者がいます。後者は、候補者を落としません。
発注側にできるのは、引き継ぎが無い状態で担当者に頼むとき、「最初に候補者を止めないことを優先してほしい」と伝えることです。
外部から集める情報
社内に無い情報は、外部の契約先が持っています。
採用代行の担当者に聞く。 前任者と何をどう進めていたか、いまの候補者の状態、求人票の経緯、媒体の運用の記録。代行の担当者は、前任者の仕事の相当部分を見ています。引き継ぎの資料の代わりになる情報を、最も多く持っている相手です。
紹介会社の担当者に聞く。 選考中の候補者、過去に紹介した候補者の結果、自社の求人の市場での見え方。
媒体の担当者に聞く。 掲載の履歴、応募の推移、求人票の変更の記録、アカウントの管理者。
前任者が使っていた道具(日程調整、ATSなど)の履歴を見る。 道具に、候補者と選考の記録が残っていることがあります。アクセスの権限は、情報システムの担当と確認します。
外部の契約先に「担当が替わりました。引き継ぎがありません。これまでの経緯を教えてください」と正直に伝えれば、大半の担当者は協力します。隠すと、契約先も状況を把握できず、動けません。
自分の代で引き継ぎを残す
引き継ぎが無い苦労をした人が、次の人に同じ苦労をさせない形です。
候補者の表を、更新し続ける。 最初の一週間で作った表を、そのまま運用の表にします。候補者名、経路、職種、段階、最後の連絡日、次の予定。これが常に最新なら、引き継ぎの半分は済んでいます。
契約の一覧を、一枚にする。 契約先、期間、更新と解約の期限、費用、担当者の連絡先、任せている工程。期限が近づいたら分かる形に。
アカウントの一覧を、安全な場所に。 媒体、道具、応募フォーム。管理者を自分にし、パスワードは社内の規程に沿った安全な方法で管理します。個人のメモに書かない。
求人票の型と、面接の基準を、共有の場所に。 採用のやり方が分かる人が社内にいないに書いた六種類の書面を、共有のフォルダに。
月に一度、引き継ぎの一枚を更新する。 「いまの候補者、いまの契約、いまの求人、止まっていること」を一枚に。自分が急に抜けても、この一枚があれば次の人が動けます。
責任者に、引き継ぎの一枚の場所を伝える。 自分しか場所を知らない引き継ぎの資料は、引き継ぎになりません。
引き継ぎは、辞めるときに作るものではなく、毎月更新しているものです。
外注する場合の範囲
引き継ぎが無い状態を、採用代行に出す場合の範囲です。
出せる工程。 候補者の把握と表の作成、止まっている候補者への連絡文の作成、契約と媒体の把握の支援、アカウントの整理の支援、求人票の点検と案の作成、社内と外部からの情報の集約、引き継ぎの一枚の型の作成と月次の更新。
社内に残す判断。 契約の更新と解約、候補者の判定、責任者への報告、アカウントの管理者、個人情報の扱い。
外注の効きどころ。 引き継ぎが無い会社では、担当者が「外部の目で全体を把握する」役になります。社内の人は目の前の候補者と契約に追われ、全体が見えません。担当者が候補者の表、契約の一覧、アカウントの一覧を一週間で整え、社内の人は候補者への連絡と責任者への報告に集中できます。
外注しても動かない場合。 責任者が契約の判断を先送りする、情報システムがアカウントの権限を出さない、経理が支払いの一覧を出さない。社内の判断で、代行を替えても直りません。
引き継ぎが無い問題は、一週間で止血し、一か月で形を作れば、収まります。外注は、その一週間と一か月を速くする手段です。
エラベルの見解
担当する側から見ると、引き継ぎが無い相談で最も多いのは、「新しい担当の方が、前任者を責めることに時間を使っている」ことです。「前任者が何も残していかなかった」と責任者に訴え、責任者も「困ったものだ」と応じる。その間、候補者は待っています。前任者を責めても、候補者は戻りません。
前任者が資料を残さなかった理由は、大半が「忙しくて残す時間が無かった」か「残す型が無かった」かです。人事が一人で抱えていた会社ほど、引き継ぎは残りません。責める代わりに、自分の代で型を作れば、次の人は苦労しません。
発注側にできるのは、新しい担当の方に「前任者のことは置いて、候補者と契約を止めないことから」と伝えることです。
まとめ
- 最初の一週間は動いている候補者に連絡・動いている契約の期限を確認・アカウントにアクセス・応募の窓口を自分に向ける・責任者に報告。資料の整理は二週目以降
- 候補者は応募の窓口を全部開け・媒体の管理画面から拾い・面接官と紹介会社に聞き・担当が替わったと伝え・一枚の表に
- 契約と媒体は経理の支払い一覧から契約先を辿り・契約先に直接聞き・期限が近いものは責任者の判断
- 社内からは責任者・面接官と現場・経理・情報システム・最近入社した人・連絡できるなら前任者
- 外部からは代行の担当者(最も多く知っている)・紹介会社・媒体の担当者・道具の履歴
- 自分の代では候補者の表・契約の一覧・アカウントの一覧・六種類の書面・月次の引き継ぎの一枚を残し、場所を責任者に伝える
- 外注できるのは把握・表と一覧の作成・情報の集約・型の作成と更新。社内に残るのは契約と判定と個人情報の判断
よくある質問
前任者のメールを見てもよいですか
社内の規程と、情報システムの担当、責任者の許可のもとで見ます。応募者の個人情報が含まれるので、扱いは規程に沿います。許可なく見ることは避けます。許可が下りるまでの間は、媒体の管理画面と応募フォームの通知先を自分に向けることを先にやります。応募の窓口を自分に向ければ、前任者のメールに新しい応募が来ることは無くなります。
採用代行との契約を、続けるべきか切るべきか分かりません
一週目に判断しません。まず、担当者に「担当が替わり、引き継ぎが無い。これまでの経緯を教えてほしい」と連絡し、任せている工程と、いまの候補者の状態と、契約の期限を確認します。担当者が経緯を説明でき、候補者の状態を把握しているなら、引き継ぎの資料の代わりになる相手です。少なくとも一か月は続けて、全体が見えてから、責任者と判断します。
引き継ぎの資料を、どこまで作ればよいですか
候補者の表、契約の一覧、アカウントの一覧、求人票の型と面接の基準、月次の引き継ぎの一枚。この五つで足ります。分厚い手順書は、作る時間も読む時間も無く、更新されません。一枚ずつ、毎月更新される形にします。自分が急に抜けても、次の人がこの五つで一週間で動ける状態が、引き継ぎの完成です。