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業務範囲を書面で固める|「やること」より「やらないこと」と「判断は誰か」を先に書く

公開 2026-09-12

契約書の業務内容の欄に「採用支援業務一式」とある。何が含まれ、何が含まれないか、どこにも書かれていない。この状態で始めると、依頼側は「一式なのだから」と何でも頼み、受ける側は「範囲外です」と言う根拠を持てません。結論を先に書くと、業務範囲は、「やること」を並べるだけでなく、「やらないこと」と「判断は誰がするか」を先に書いてください。工程の粒度で書き、依頼側がやることも書き、変えるときの手続きも書く。その一枚が、範囲の広がりを止める唯一の根拠になります。範囲が広がったときの対処は範囲外の依頼が増えたときに、追加の見積もりは追加業務の見積もりにまとめています。契約の個別の条項については、専門家にご確認ください。

「一式」で契約すると起きること

業務範囲が「一式」や「支援業務」の一行だと、次のことが起きます。

含まれるかどうかを、毎回議論する。 「これは含まれますよね」「それは範囲外では」。基準が無いので、その場の力関係で決まります。

依頼側の期待が、際限なく広がる。 「一式」なら、採用に関わることは全部、と依頼側は考えます。

受ける側が、断る根拠を持てない。 書面に無いので、「範囲外」と言っても、「一式に含まれる」と返されます。

判断まで任される。 対象の条件、通す基準、条件提示。作業だけでなく、判断も「一式」に入り、丸投げになります。

担当者が替わったとき、範囲が分からない。 前の担当者が何をしていたかが、書面に無い。

「一式」は、依頼側にとって便利で、受ける側にとって危険な言葉です。

書面の作り方:六つの要素

業務範囲の書面には、次の六つを入れます。

一.工程の粒度で、やることを書く。 「スカウト運用」ではなく、対象の抽出・文面の作成・送信・返信への一次対応・日程調整・レポート・定例会、のように工程で。工程ごとに、頻度や量の目安(週に〇通、月に一度)を添える。

二.やらないことを、明示する。 含まない工程を、「含まない」と書く。面談の同席、求人票の作成、条件提示、内定者への連絡、他の職種の対応。書かないと、「書いていないから含まれる」と読まれます。

三.判断と作業の線を書く。 対象の条件を決める、通す基準を決める、条件を決める、範囲を変える判断。これらは依頼側の判断。受ける側が担うのは、判断に沿った作業と、判断のための案の提示。線を書けば、丸投げを防げます。

四.依頼側がやることを書く。 求人票の整備、面談枠の確保、承認の速さ、決める人の指定、返信対応の窓口(受ける側が担わない場合)。受ける側の作業が成果になるには、依頼側の作業が要ります。

五.例外の扱いを書く。 急ぎの依頼、範囲の境界にある作業、依頼側の都合で増える作業。「事前に相談し、書面で合意したうえで」。例外を認めるかどうかではなく、認める手続きを書く。

六.更新の手続きを書く。 範囲を変えるときの手続き(書面で合意、報酬と稼働の見直し)と、定期の見直しの時期(三か月ごと)。

六つが揃えば、範囲は「一行」から「一枚」になり、議論の基準ができます。

書面の型

六つの要素を、次の型で一枚にします。

項目内容
担う工程対象の抽出(週〇名)/文面の作成(一通ごと)/送信/返信への一次対応(当日中)/日程調整/レポート(週次)/定例会(隔週)
含まない工程面談の同席/求人票の作成/条件提示/内定者への連絡/〇〇職種以外の対応
依頼側が判断すること対象の条件/通す基準/条件の幅/範囲の変更
受ける側が提示すること対象の条件の案/文面の案/変えることの案
依頼側がやること求人票の整備/面談枠(週〇枠)/承認(〇営業日以内)/決める人:〇〇氏
例外の扱い急ぎ・境界の作業は事前に相談し、書面で合意のうえ
更新三か月ごとに見直し。変更は書面で合意し、報酬と稼働を見直す

一枚に収まります。契約書の別紙として添付するか、覚書として。契約書のひな型に反映できないなら、メールでの合意でも。

依頼側との合意の取り方

書面を作ったら、依頼側と合意します。

面談の後、契約の前に出す。 条件のすり合わせで決めることの八つの項目の中の、業務範囲の部分として。

「含まない」を、先に説明する。 「この工程は含んでいません。必要なら、別途お見積もりします」。後で言うより、先に言うほうが、依頼側は納得します。

判断の線を、依頼側の利益として説明する。 「対象の条件や通す基準は、御社で決めていただく必要があります。外の人が決めると、御社の実態と合わなくなります」。線を引くことが、依頼側のためであることを伝える。

依頼側がやることを、成果の条件として説明する。 「面談枠が無いと、候補者が進んでも日程が組めません。週に〇枠をお願いしたい」。

依頼側の希望を聞き、調整する。 「この工程も含めてほしい」なら、稼働と報酬を足す。「この判断も任せたい」なら、案の提示までにする。

合意した書面を、双方で保管する。 契約書の別紙、覚書、メールの合意。どの形でも、双方が同じものを持つ。

合意の場で、「範囲を狭めようとしている」と受け取られないように、「範囲を明確にして、御社の期待とずれないようにしたい」と位置づけます。

エラベルの見解

相談で最も多い失敗は、「業務範囲を『やること』だけ並べて、『やらないこと』を書かなかった」というものです。やることの一覧はあるが、それ以外が含まれるかどうかは書いていない。依頼側は「一覧に無いが、関連するので」と頼み、受ける側は「一覧に無いから範囲外」と言うが、依頼側は「関連業務は当然含まれる」と返す。「含まない」の一覧があれば、その議論は起きませんでした。

見ていて差がつくのは、受ける側が「やらないこと」を書く勇気を持てるかどうかです。「やらないことを書くと、依頼側に悪い印象を与える」と思って書かない人と、「範囲を明確にするのは依頼側のためでもある」と位置づけて書く人がいます。後者は、依頼側から「範囲を分かっている人」と見られ、範囲外の依頼も「別途お見積もり」で自然に処理できます。

受ける側にできるのは、「含まない工程」の欄を、書面の型に最初から入れておくことです。欄があれば、埋めるのは自然なことになります。

書面が効く場面

業務範囲の書面は、次の場面で効きます。

範囲外の依頼が来たとき。 「書面ではここまでなので、追加なら別途お見積もりします」。書面が根拠になり、議論が交渉になる。

丸投げされそうなとき。 「対象の条件は、書面のとおり御社で決めていただく事項です。案はお出しします」。判断を戻せる。

依頼側が動かないとき。 「面談枠は、書面で週〇枠とお願いしていますが、確保が難しいでしょうか」。依頼側の作業を、書面で求められる。

担当者が替わったとき。 依頼側の担当者が替わっても、書面があれば範囲は変わらない。「前の人はやってくれた」に、「書面ではこうです」と返せる。

契約を更新するとき。 三か月の実績と書面を照らし、範囲を置き直す。

報酬を見直すとき。 範囲が広がった分を、書面との差で示せる。

契約が終わるとき。 何を担っていたかが明確で、引き継ぎが速い。

書面は、作った時点では「念のため」に見えますが、上の場面が来たときに、唯一の根拠になります。

書面を運用の中で育てる

業務範囲の書面は、一度作って終わりではなく、運用の中で育てます。

範囲外の依頼が来たら、記録する。 何を、いつ、誰から頼まれたか。受けたか、断ったか、追加で見積もったか。

繰り返し来る依頼は、次の見直しで範囲に入れる。 毎月来る「ついでに」は、範囲に入れて報酬に反映するか、明示的に「含まない」と再確認するか。

判断の線が曖昧だった場面を、記録する。 「これは判断か作業か」で迷った場面。次の見直しで、線を明確にする。

依頼側がやることが、行われたかを記録する。 面談枠、承認の速さ。行われていなければ、次の見直しで求める。

三か月ごとに、書面を更新する。 記録をもとに、担う工程・含まない工程・判断の線・依頼側の作業を置き直す。更新した書面を、双方で保管。

担当者が替わるときに、渡す。 依頼側の担当者、受ける側の後任。書面と記録があれば、範囲の認識は引き継がれる。

育てた書面は、その依頼側との運用の「型」になります。次の契約、次の担当者、次の案件で、そのまま使えます。

エラベルの見解

担当する側から見ると、業務範囲で最も困るのは「依頼側の担当者が替わって、前の担当者との合意が消える」ことです。前の担当者と「返信対応は御社で」と合意していたのに、新しい担当者は「一式なのだから、返信対応も」と言う。前の担当者との合意が口頭で、書面に無ければ、新しい担当者に示せません。

書面は、依頼側の担当者が替わっても残ります。「一式」の一行では残りませんが、六つの要素の一枚なら残ります。

受ける側にできるのは、合意を書面にし、依頼側の側にも保管してもらうことです。受ける側だけが持っていても、依頼側の新しい担当者には届きません。契約書の別紙か、依頼側の共有の場所に置いてもらう。それが、担当者が替わっても範囲が守られる形です。

まとめ

よくある質問

「やらないこと」を書くと、依頼側に悪い印象を与えませんか

「範囲を明確にして、御社の期待とずれないようにしたい」と位置づけて出せば、悪い印象にはなりません。むしろ、範囲を明確にできる人は「仕事の中身を分かっている」と見られます。「含まない工程は、必要なら別途お見積もりします」と添えれば、断りではなく、追加の提案になります。

契約書のひな型に、業務範囲の欄が一行しかありません

別紙として、六つの要素の一枚を添付する形を提案してください。ひな型を変えなくても、別紙で範囲を定められます。別紙も難しければ、覚書か、メールでの合意で。「一式」の一行だけで始めることは避けます。個別の条項の効力は、専門家にご確認ください。

判断と作業の線を引くと、依頼側に「使いにくい」と思われませんか

「対象の条件や通す基準は、御社の実態を知っている方が決めないと、合わなくなります。案は私が出します」と説明すれば、依頼側の利益として理解されます。判断まで任せたい依頼側は、丸投げになりやすく、成果が出ないときに受ける側の責任にされます。線を引くことは、受ける側を守るだけでなく、依頼側の成果のためでもあります。