資格は単価に影響するか|資格で上がるのは「単価」ではなく「受けられる範囲」
人事の副業を考える人から、「資格を持っていると単価は上がりますか」と聞かれることがあります。資格手当のように、資格があるだけで金額が上乗せされるイメージを持っている人も少なくありません。結論から書くと、業務委託の副業では、資格があるだけで同じ仕事の単価が上がることはほとんどありません。資格が効くのは、その資格がないと受けられない仕事を受けられるようになる、つまり受けられる範囲が広がる場面です。
どの資格を取ると役に立つかは取っておくと役に立つ資格で整理しています。この記事では単価に絞って、資格の種類ごとに単価への効き方がどう違うかを、法令の定めに沿って書きます。以下は一般的な整理で、個別の業務が資格の要る業務に当たるかどうかは、社会保険労務士・弁護士にご確認ください。
資格は三種類に分けて考える
人事に関わる資格は、法律上の効き方で大きく三つに分けられます。単価への影響も、この違いで変わります。
| 種類 | 例 | 法律上の効果 | 単価への効き方 |
|---|---|---|---|
| 業務独占 | 社会保険労務士 | 資格がない人は、報酬を得てその業務を行えない | 受けられる業務が増え、その業務の単価で受けられる |
| 名称独占 | キャリアコンサルタント | 資格がない人はその名称を使えない | 業務そのものは無資格でも行えるため、単価への直接の効果は小さい |
| 民間資格・検定 | 各種の人事系検定など | 法律上の独占はない | 知識の裏付けにはなるが、単価の根拠にはなりにくい |
この区分で大事なのは、一つ目と二つ目の違いです。業務独占の資格は、持っていない人が受けてはいけない仕事を生みます。名称独占の資格は、名乗り方を制限するだけで、仕事そのものは誰でも受けられます。単価への効き方がまったく違うのはこのためです。
社会保険労務士:単価ではなく範囲が変わる
社会保険労務士法第2条第1項は、社会保険労務士の業務として、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成(第1号)、その提出手続の代行(第1号の2)、申請等の代理(第1号の3)、帳簿書類の作成(第2号)、労務管理などの相談・指導(第3号)などを挙げています。そのうえで第27条は、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、第1号から第2号までの事務を業として行ってはならないと定めています(他の法律に別段の定めがある場合などを除く)。
副業の人事に当てはめると、たとえば次のような仕事は、資格のない人が報酬を得て受けると問題になるおそれがあります。
- 入社に伴う社会保険・雇用保険の届出書類の作成や提出の代行
- 労働社会保険の法令に基づいて会社が作成・備え付ける帳簿書類の作成
一方、第3号の相談・指導は第27条の制限の対象に含まれていません。採用の設計、面接の進め方、評価基準づくり、スカウト運用といった採用実務は、そもそも社会保険労務士の業務とは別の領域です。
単価への影響で言えば、社会保険労務士の資格を持つ人は、採用の副業に加えて、入社手続きや労務の書類まで一続きで受けられるようになります。採用から入社までを一人に任せたい会社にとっては、窓口が一つで済むことに価値があり、案件全体の金額は大きくなります。ただし、採用実務の部分の単価が資格によって上がるわけではありません。採用実務は採用実務の単価、手続きは手続きの単価で考えるのが筋です。社会保険労務士の経験の売り方は社会保険労務士が副業でできることで詳しく扱っています。
エラベルの見解
担当する側から見ていて気をつけてほしいのは、資格がない人が、範囲の線を越えて頼まれる場面です。採用を手伝っているうちに、依頼側から「ついでに入社の手続き書類も作ってもらえませんか」と頼まれることは珍しくありません。依頼側に悪気はなく、外部の人事なら何でもできると思っているだけです。
ここで単価を上乗せして受けてしまうと、第27条の制限に触れるおそれがあります。断るときは、「その書類は社会保険労務士の業務になるので、私は受けられません。採用から入社までの流れのうち、手続きの手前までは私が整えます」と、範囲の線を言葉にして返してください。線を引ける人のほうが、依頼側からの信頼は厚くなります。資格がないことは単価を下げる理由にはなりませんが、線を引けないことは信頼を下げる理由になります。
キャリアコンサルタント:名乗れることの価値
キャリアコンサルタントは、職業能力開発促進法に定められた国家資格です。同法第30条の3は、キャリアコンサルタントが「キャリアコンサルタントの名称を用いて、キャリアコンサルティングを行うことを業とする」と定め、第30条の28は、キャリアコンサルタントでない者がその名称や紛らわしい名称を用いてはならないとしています。つまり名称独占の資格で、キャリアに関する相談そのものは、資格のない人も行えます。
単価への効き方は、社会保険労務士とは違います。名乗れること自体が単価を上げるわけではありませんが、依頼側が社外に説明するときの安心材料にはなります。たとえば、社員のキャリア面談を外部に頼む会社は、社員に「国家資格を持つ人が面談します」と説明できることを重視する場合があります。こうした案件では、資格があることが受注の条件になり、結果として単価の高い案件に手が届くことがあります。
もう一つ、同法第30条の27第2項は、キャリアコンサルタントに業務上知り得た秘密を漏らしたり盗用したりしてはならない義務を定めています。資格を失った後も同じです。候補者や社員の個人的な事情に触れる仕事では、この義務が法律で定められていることが、依頼側にとっての信頼の根拠になります。
民間資格・検定:単価より説明のしやすさ
人事に関する民間の資格や検定は数多くあります。体系的に学んだことの証明にはなりますが、法律上の独占はないため、資格そのものを根拠に単価を上げるのは難しいのが実情です。
ただし、役に立つ場面はあります。経験の浅い領域を受けるときに、「実務経験は2年ですが、この分野は体系的に学んでいます」と言える材料になります。依頼側が判断に迷っているときの後押しにはなりますが、それで単価が決まるわけではありません。単価を決めるのは、その業務を何回、どの規模でやったかです。経験年数と単価の関係は経験年数は単価にどう効くかで書いています。
エラベルの見解
資格を単価に結びつけたいなら、資格名ではなく、資格があることで受けられる仕事の名前で見積もりを出してください。「社会保険労務士なので時給を上げます」では依頼側は納得しませんが、「採用の設計に加えて、入社手続きの書類作成まで一括で受けます」と出せば、依頼側は手続きを別の事務所に頼む手間と費用が省けることを理解します。
逆に、資格の勉強を始めようとしている人には、取る前にどの仕事を増やしたいのかを決めることをすすめています。今受けている採用実務の単価を上げたいのであれば、資格より実績の記録のほうが効きます。採用の前後の仕事まで受けたいのであれば、業務独占の資格は意味があります。目的によって、取るべきかどうかの答えが変わります。
まとめ
- 業務委託の副業では、資格があるだけで同じ仕事の単価が上がることはほとんどない
- 資格は業務独占・名称独占・民間資格の三種類に分けて考える
- 社会保険労務士は、第27条により資格がない人が報酬を得て行えない業務があるため、受けられる範囲が広がる
- キャリアコンサルタントは名称独占。依頼側の安心材料として、受けられる案件が広がることがある
- 見積もりは資格名ではなく、資格で受けられる仕事の名前で出す
よくある質問
資格がないと人事の副業はできませんか
採用の設計、面接の進め方、スカウト運用といった採用実務は、資格がなくても受けられます。ただし、労働社会保険の法令に基づく書類の作成や提出の代行などは、社会保険労務士でない人が報酬を得て行うことが制限されています。どこまでが制限に当たるか迷う場合は、社会保険労務士にご確認ください。
キャリアコンサルタントの資格がないと、キャリア面談は受けられませんか
キャリアコンサルタントは名称独占の資格なので、資格がない人もキャリアに関する相談を行うことはできます。ただし、キャリアコンサルタントや紛らわしい名称を名乗ることはできません。依頼側が資格保有を条件にしている案件もあるため、案件の条件をよく確認してください。
資格を取るなら、どの資格がよいですか
増やしたい仕事によって変わります。採用から入社手続きまで一続きで受けたいなら社会保険労務士、キャリア面談や社員の相談を受けたいならキャリアコンサルタントが候補になります。今の仕事の単価を上げたいだけなら、資格より実績の記録を整えるほうが近道です。資格ごとの特徴は取っておくと役に立つ資格にまとめています。
本記事は 2026-10-15 時点の公開情報にもとづいて作成しています。
この記事のタグ
関連記事
- 大手人事の経験は単価に効くか|社名が効く相手と、効かない相手 大手企業の人事経験は、副業の単価を上げる根拠になるのか。社名が効く依頼先と効かない依頼先、大手の中でも単価に効きやすい経験と効きにくい経験、社名に頼らず単価を出す方法を整理しました。 人事副業単価・契約・税務
- 本業年収と副業単価の関係|年収を時給に割っただけでは足りない理由 人事の副業単価を本業の年収から考えるときの計算の仕方。年収を労働時間で割った数字に何を足し、何を引くべきか。会社が負担していた費用、請求できない時間、税金の扱いを順に整理しました。 人事副業単価・契約・税務
- 時給型の相場と決め方 人事・採用の副業を時給型で受けるとき、時給をどう決めるかを整理しました。相場を外から拾うのではなく、本業の時間単価から下限を出し、準備と往復の時間を織り込み、工程ごとに単価を分けるという順番です。業務委託には最低賃金が適用されない一方、雇用契約で受けるなら適用されること、賃金構造基本統計調査で見える一般的な時間あたり賃金の水準、消費税とインボイス登録が手取りに与える影響、給与所得者の確定申告の20万円の線まで、公表資料に沿ってまとめています。個別の判断は税理士・社会保険労務士にご確認ください。 人事副業単価・契約・税務
- 経験年数は単価にどう効くか|年数ではなく「同じ仕事を何回やったか」で見られる 人事の副業で、経験年数は単価にどれだけ影響するのか。依頼側が年数の代わりに見ているもの、年数が短くても単価を出せる条件、年数が長くても単価が上がらない理由を整理しました。 人事副業単価・契約・税務