人事副業 / 両立・スキル
案件ごとの情報の分け方|人事の副業で複数の依頼側を持つなら、「依頼側の情報は依頼側の仕組みに置き、自分の側は案件ごとに箱を分け、箱の間を渡らない」。混ざるのは置き場ではなく、頭の中と文面の型
二件目の案件を受けた。一件目で作ったスカウトの文面がよくできているので、二件目でも使いたい。一件目の依頼側で聞いた候補者の傾向も、二件目で役に立ちそうだ。どこまでが自分の知見で、どこからが一件目の依頼側の情報なのかが、はっきりしない。結論を先に書くと、複数の案件の情報は、「依頼側の情報は依頼側の仕組みに置き、自分の側は案件ごとに箱を分け、箱の間を渡らない」の三つで分けます。混ざるのは、置き場よりも、頭の中と文面の型です。一件目で作った文面の型は、依頼側の情報(会社の状況、求人の内容、候補者の反応)を抜けば自分の型として二件目に使えますが、抜かずに使えば一件目の情報を二件目に渡したことになります。一件目で聞いた候補者の傾向は、一件目の依頼側の情報で、二件目には渡しません。ツールの分け方はツールを統一するか合わせるかに、端末とアカウントの分け方は情報の取り扱いと端末の分離に、利益相反の線は本業と利益相反になる案件にまとめています。契約の秘密保持の解釈は、専門家にご確認ください。
混ざると起きる問題
依頼側の情報が別の依頼側に渡ることは、本人に悪気が無くても起きます。起きたときの問題は重いです。
| 混ざり方 | 起きること |
|---|---|
| 一件目の依頼側の求人の条件を、二件目の文面に使った | 一件目の依頼側の情報(給与の幅、募集の背景)が二件目の候補者に届く。一件目との秘密保持に反する |
| 一件目で接した候補者に、二件目の求人を案内した | 候補者の情報を別の依頼側のために使った。一件目の依頼側にも候補者にも問題になる |
| 依頼側Aの採用の状況を、依頼側Bの担当者に話した | 「他社ではこうしている」と言ったつもりが、Aの内情を漏らしたことになる |
| 同じクラウドのフォルダに二社の資料を置いた | 共有の設定を誤ると、Aの資料がBの担当者に見える |
| 一件目の文面の型に、一件目の会社名が残っていた | 二件目の候補者に一件目の会社名が届く。信頼を失う |
| 依頼側Aで聞いた媒体の運用の工夫を、Bでそのまま使った | 工夫が一般的なものなら自分の知見だが、Aの担当者がAのために考えたものなら、Aの情報 |
問題の要点は、「自分の知見と依頼側の情報の境目が曖昧なまま使う」ことから起きています。自分が案件の中で身につけた判断の仕方は自分の知見で、次の案件に持っていけます。依頼側の状況、条件、候補者、担当者の考えは依頼側の情報で、持っていけません。この境目を、置き場と文面と頭の中の三つで引きます。
混ざりやすい四つの経路
情報が混ざる経路は、だいたい四つに分かれます。経路ごとに対策が違います。
| 経路 | 混ざり方 | 対策 |
|---|---|---|
| 置き場 | 同じフォルダ、同じチャット、同じノートに二社の情報がある | 案件ごとに箱を分ける。依頼側の情報は依頼側の仕組みに置き、自分の側に置かない |
| 文面の型 | 一件目向けに調整した文面を、二件目の下書きに使う | 型は依頼側の情報を抜いた形で自分の側に持ち、案件向けの調整版は依頼側の仕組みに置く |
| 頭の中 | 一件目で知ったことを、二件目の会話や判断で無意識に使う | 「これはどこで知ったか」を自分に問う癖。依頼側の情報だと分かったら使わない |
| 候補者 | 一件目で接した候補者と、二件目で接する候補者が重なる | 候補者の情報は依頼側ごとに閉じる。重なっても、一件目で知ったことを二件目で使わない |
経路の要点は、「置き場は分けやすく、頭の中は分けにくい」ことです。置き場は箱を分ければ済みますが、頭の中は分けられません。だから、頭の中にあるものを使う前に、「これはどこで知ったか」を問う癖が要ります。依頼側で知ったことなら使わず、自分の経験から取り出した判断の仕方なら使う。この問いを繰り返すと、境目が自分の中で定まっていきます。
エラベルの見解
相談で最も多い思い込みは、「文面の型や進め方は自分のものだから、どの案件でも自由に使える」というものです。半分は正しく、半分は違います。型の骨格(冒頭に何を書き、中盤で何を伝え、結びをどうするか)は自分のものです。ただ、一件目の案件で「返信が来やすかった言い回し」や「この職種にはこの訴求が効いた」という結果は、一件目の依頼側の求人と候補者から得られたもので、そのまま二件目に持っていくと、一件目の情報を使ったことになる場合があります。
見ていて差がつくのは、型を自分の側に持つときに、依頼側の情報を抜いて「構造だけ」にしているかです。「冒頭は会社の状況から」は構造で、「冒頭は〇〇事業の拡大の話から」は依頼側の情報です。構造だけを自分の側に持ち、案件ごとに依頼側の情報で埋める。この形にしておけば、型を使い回しても、情報は混ざりません。エラベルでは、担当者が複数の依頼側を持つとき、依頼側ごとに情報を閉じることを前提にしており、依頼側が同業の場合は、担当者の受け方そのものを依頼側と相談する形にしています。
置き場の分け方
置き場は、依頼側の仕組みと自分の側で、それぞれ分け方が違います。
| 場所 | 分け方 |
|---|---|
| 依頼側の仕組み(ATS、チャット、共有) | 依頼側のものなので、自然に分かれている。自分から別の依頼側の情報を持ち込まない |
| 自分の副業用のクラウド | 案件ごとにフォルダを分ける。依頼側の情報は原則置かない。置くなら、その案件のフォルダだけに |
| 自分の副業用のメール | 案件ごとにラベルかフォルダ。依頼側からの添付は、メールの中に留め、クラウドに落とさない |
| 自分の稼働ログ | 一枚の表で構わない。案件の列で分け、メモの欄に依頼側の情報を書かない。稼働ログの付け方 |
| 自分の判断のメモ | 一つのノートで構わない。依頼側の情報を抜いた判断だけを書く。案件のタグは付けてよい |
| ブラウザ | 案件ごとにプロファイルを分ける。ログインとダウンロード先が混ざらない。私物端末で作業してよいか |
| 紙のメモ | 案件ごとに分けるか、依頼側の情報を書かない。書いたら、その日のうちに処分する |
分け方の要点は、「自分の側に依頼側の情報を置かない」ことです。置かなければ、分ける必要そのものが減ります。稼働ログや判断のメモは、依頼側の情報を抜いた形にしておけば、一枚や一つのノートで全案件を扱っても混ざりません。混ざるのは、依頼側の情報を自分の側に持ち込んだときだけです。自分の側のツールの一組の作り方はツールを統一するか合わせるかに整理しています。
文面の型と判断のメモの扱い
型とメモは、自分の知見として案件をまたいで使うものなので、依頼側の情報を抜く作業が要ります。
| 持ち方 | 依頼側の情報を抜いた形(自分の側に持つ) | 依頼側の情報を含む形(依頼側の仕組みに置く) |
|---|---|---|
| スカウトの文面 | 「冒頭:会社の状況。中盤:役割と候補者の経歴の接点。結び:返信の負担を下げる一文」という構造 | 依頼側の会社名、事業、役割、給与の幅を入れた実際の文面 |
| 求人票の型 | 「要件は三つに絞る。必須と歓迎を分ける。仕事の一日を書く」という構造 | 依頼側の求人票そのもの |
| 面接の準備の型 | 「面接官に渡す項目:候補者の経歴の要点、確認したい点、時間の配分」という項目の一覧 | 候補者の名前と経歴を入れた実際の準備の資料 |
| 判断のメモ | 「返信が来ないときは、文面より相手の絞り方を疑う」という判断 | 「A社の〇〇職で、△△の訴求で返信率が上がった」という結果 |
| 依頼側の癖のメモ | 「この会社は状態の名前をこう使う」という運用のメモは、その案件のフォルダに。案件が終わったら消す | ― |
扱いの要点は、「結果は依頼側の情報、判断は自分の知見」です。「〇〇の訴求で返信が上がった」は、その依頼側の求人と候補者で得られた結果で、依頼側の情報です。「返信が来ないときは相手の絞り方を疑う」は、複数の経験から取り出した判断で、自分の知見です。自分の側に持つのは判断だけにし、結果はその案件の中に留めます。判断の取り出し方は発信のネタの見つけ方に、事例として書くときの粗くし方は事例の書き方に書いています。
依頼側が同業のとき
二件の依頼側が同業や競合の関係にあると、情報を分けるだけでは足りない場合があります。
| 状況 | 扱い |
|---|---|
| 同じ職種を、同じ媒体で、同じ時期に募集している | 候補者が重なる可能性が高い。両方を受けることは、どちらの依頼側にとっても不利になり得る。受ける前に両方の依頼側に伝え、判断を仰ぐ |
| 同業だが職種や地域が違う | 情報を分ければ受けられることが多い。ただし、契約の競業の条項を確認し、依頼側に同業の案件を持っていることを伝える |
| 依頼側から「他に同業の案件を持っていないか」と聞かれた | 事実を答える。依頼側の名前は出さず、「同業の案件を一件持っている」と伝える。隠して後で分かるほうが問題になる |
| 契約に競業の制限がある | 制限の範囲を確認し、該当する案件は受けない。範囲が曖昧なら依頼側に確認する。解釈は専門家に |
| 窓口を通している案件 | 窓口に同業の案件を受けてよいかを確認する。窓口が依頼側と調整する |
同業の要点は、「受ける前に伝える」ことです。同業の案件を両方受けること自体が問題なのではなく、依頼側が知らないまま受けていることが問題になります。伝えて、依頼側が「構わない」と言えば受け、「困る」と言えば断る。判断を依頼側に委ねれば、後で「知らなかった」とはなりません。競業の線は本業と利益相反になる案件に整理しています。契約の条項の解釈は、専門家にご確認ください。
案件の終了時の箱の閉じ方
案件が終わったら、その案件の箱を閉じます。閉じ方を決めておくと、終了後に情報が残りません。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 自分の側のフォルダを消す | その案件のフォルダに依頼側の情報があれば、契約の終了の条項に従って消す。消したことを依頼側に伝える |
| 依頼側の癖のメモを消す | 「この会社は〜」の運用のメモは、その案件だけのもの。消す |
| 判断のメモを残す | 依頼側の情報を抜いた判断は、自分の知見として残す。案件のタグは残してよいが、依頼側の名前は書かない |
| 型を見直す | その案件で型を改良していれば、依頼側の情報を抜いた形で自分の側の型を更新する |
| ブラウザのプロファイルを整理する | その案件のプロファイルのログイン情報と履歴とダウンロードを消す |
| アカウントの停止を確認する | 依頼側から発行されたアカウントの停止を依頼し、確認する。アカウント管理のしかた |
| 稼働ログと請求の記録は残す | 自分の管理の記録は残す。メモの欄に依頼側の情報が無いことを確認する |
閉じ方の要点は、「消すものと残すものを分ける」ことです。依頼側の情報は消し、自分の知見は残す。この二つが分かれていれば、終了時の作業は短く、残したものに依頼側の情報が混ざることもありません。終了時の全体の手順は引き継ぎの進め方に書いています。何を消すべきかは契約の終了の条項で決まるので、契約書を確認し、迷えば専門家にご確認ください。
混ざったときの対処
気をつけていても、混ざることはあります。気づいたときの対処を決めておきます。
| 状況 | 対処 |
|---|---|
| 一件目の会社名が残った文面を、二件目の候補者に送った | すぐに二件目の依頼側に伝える。候補者への訂正は依頼側と決める。一件目の依頼側にも、名前が外に出たことを伝えるかを、内容の重さで判断する |
| 依頼側Aの内情を、依頼側Bの担当者に話してしまった | 話した直後に「今の話は他社のことなので、忘れてください」と伝える。Aに伝えるかは、内容の重さで判断する |
| 共有の設定を誤って、Aの資料がBに見える状態だった | すぐに設定を直し、見えた期間と範囲をAに伝える。隠さない |
| 一件目で接した候補者が、二件目の候補として出てきた | 一件目で知ったことを二件目で使わない。二件目では初めて接する候補者として扱う。迷えば二件目の依頼側に「別の案件で接点のある候補者がいる」とだけ伝える |
| どこで知ったか分からない情報を使いそうになった | 使わない。分からないなら依頼側の情報として扱う |
対処の要点は、「伝える」ことです。混ざったことを隠して、後で分かると、混ざったこと自体より、隠したことで信頼を失います。気づいた時点で、関係する依頼側に事実を伝え、訂正の方法を依頼側と決めます。トラブルの整理はトラブルへの対処に書いています。
エラベルの見解
担当する側から見ると、複数の依頼側を長く持てている人は、「自分の側に依頼側の情報を置かない」を徹底しています。置かないから、分ける必要が減り、終了時に消すものも少なく、混ざる経路も置き場ではなく頭の中だけになります。頭の中は、「これはどこで知ったか」を問う癖で分けています。逆に、自分の側に依頼側の情報を溜めている人は、案件が増えるほど分ける作業が増え、どこかで混ざります。
順番として、最初の一件のときから、依頼側の情報は依頼側の仕組みに置き、自分の側には判断と型の構造だけを残す。二件目を受ける前に、一件目の型から依頼側の情報を抜いておく。同業の可能性があれば、受ける前に両方に伝える。この順番なら、案件が増えても、情報の分け方は変わりません。エラベルでは、依頼側が担当者を選ぶとき、その担当者が他にどの業界の案件を持っているかを確認できる形にしていて、依頼側の側でも重なりを避けられるようにしています。情報を分ける責任は担当者にありますが、分けやすい形を作るのは、窓口と依頼側の側でもできることです。
まとめ
- 分け方は依頼側の情報は依頼側の仕組みに置き、自分の側は案件ごとに箱を分け、箱の間を渡らない
- 混ざる経路は置き場・文面の型・頭の中・候補者の四つ。置き場は分けやすく、頭の中は「どこで知ったか」を問う癖で分ける
- 自分の側に依頼側の情報を置かない。稼働ログと判断のメモは、依頼側の情報を抜けば一つで全案件を扱える
- 結果は依頼側の情報、判断は自分の知見。型は構造だけを自分の側に持ち、案件ごとに埋める
- 依頼側が同業なら受ける前に両方に伝え、判断を依頼側に委ねる。契約の競業の条項は専門家に
- 終了時は依頼側の情報を消し、自分の知見を残す。混ざったら隠さず伝える
よくある質問
一件目で作った文面が、二件目でもほぼそのまま使えそうです。使ってよいですか
文面の構造(冒頭・中盤・結びに何を置くか)は自分の知見なので使えます。ただし、一件目の会社の状況、事業、役割、条件、候補者の反応から得た言い回しは、一件目の依頼側の情報です。「そのまま」使えるように見えるなら、一件目の情報が残っている可能性が高いので、一度、構造だけの型に戻し、二件目の依頼側の情報で埋め直します。手間はかかりますが、その手間が情報を分ける作業そのものです。
一件目の依頼側で覚えた媒体の使い方は、二件目で使ってよいですか
媒体の機能や一般的な使い方は、誰でも知り得る情報なので使えます。一件目の依頼側の担当者が、その会社のために考えた運用の工夫(検索の条件の組み方、送信の時間帯の決め方など)は、依頼側の情報に近く、そのまま持ち出すのは避けます。境目に迷うなら、「一件目の担当者が、二件目でこれを使われて嫌がるか」を考えます。嫌がりそうなら、依頼側の情報です。
依頼側から「他社ではどうしていますか」と聞かれました
他社の内情は答えません。「一般的には〜という進め方があります」と、自分の判断の仕方や、公開されている一般的な方法として答えます。「A社ではこうしていました」と言えば、Aの情報を漏らしたことになり、聞いた依頼側も「うちのことも他で話されるのでは」と感じます。答えないことが、その依頼側からの信頼にもつながります。