人事副業 / 単価・契約・税務

最初の1件の価格の決め方|相場ではなく「時間×自分の時給」から根拠を作る

公開 2026-09-12

最初の案件が決まりそうだ。「いくらでお願いできますか」と聞かれる。相場を調べても幅が広く、安すぎると後悔しそうで、高すぎると断られそうで、決められない。結論を先に書くと、最初の一件の価格は、相場からではなく、「作業を工程に分けて時間を見積もり、自分の時給を掛ける」ことで根拠を作ってください。根拠があれば、依頼側に説明でき、安すぎた・高すぎたの判断も後からできます。この記事では、金額や相場の数値は扱いません。単価の形(時給・月額・成果報酬)の考え方は人事の副業単価の相場に、安請け合いを避ける話は安請け合いを避けるにまとめています。報酬と税務に関わる部分は、一般的な整理にとどめ、個別の判断は専門家にご確認ください。

相場から決められない理由

「人事副業の相場」を調べると、幅が広く、一つの数字になりません。理由は、案件によって、次が全部違うからです。

業務の範囲。 スカウトの文面だけか、送信と返信対応も含むか、面談の設定まで含むか。

稼働の量。 週に数時間か、十数時間か。

専門性。 誰でもできる作業か、経験が要る判断か。

依頼側の規模と段階。 大企業か、スタートアップか。

受ける側の経歴。 人事の経験が数年か、十数年か。

相場の数字は、これらが混ざった幅です。自分の案件が幅のどこに当たるかは、相場からは分かりません。だから、相場ではなく、自分の案件の中身から価格を作ります。

手順:工程に分けて時間を見積もる

最初の一件の価格は、次の手順で作ります。

一.業務を工程に分ける。 依頼された業務を、工程に分けます。スカウト代行なら、対象の抽出、文面の作成、送信、返信対応、日程調整、レポート、定例会。頼まれていない工程は入れません。

二.工程ごとに、月の時間を見積もる。 各工程に、月に何時間かかるかを置きます。「対象の抽出に週二時間、文面に週三時間、返信対応に週二時間、レポートと定例会に月二時間」のように。最初は経験が無いので、多めに置きます。

三.合計の時間を出す。 月の合計の稼働時間。

四.自分の時給を掛ける。 後述の「自分の時給」を掛けて、月額の根拠を出します。

五.立ち上げの時間を足す。 最初の月は、対象と文面を整える時間が余分にかかります。最初の月だけ、時間を多めに置くか、立ち上げの費用を別に置きます。

六.依頼側に、工程と時間で説明する。 「この工程にこれだけの時間で、合計これだけ」。金額だけを伝えるより、根拠があれば、依頼側は納得しやすく、業務範囲の認識もずれません。

この手順で出た価格は、「自分の時間に対する対価」として説明できます。相場との比較ではなく、中身の説明です。

自分の時給の置き方

工程の時間に掛ける「自分の時給」は、次の順で置きます。

本業の時給を出す。 本業の年収を、年間の実労働時間で割ります。これが、自分の時間の「いまの値段」です。副業の時給が本業の時給を大きく下回るなら、その時間を副業に使う理由が弱くなります。

副業の事情を足す。 副業は、本業と違い、社会保険や有給や賞与が無く、営業や請求や税務の手間が自分にかかり、案件が途切れるリスクがあります。本業の時給をそのまま使うと、これらの分だけ実質的に下がります。本業の時給より高く置くのが、一般的な考え方です。

専門性を足す。 依頼された業務が、自分の経験でしかできない判断を含むなら、その分を足します。誰でもできる作業なら、足しません。

最初の一件は、少し下げてもよい。 経験が無く、時間の見積もりが不正確で、依頼側も様子を見たい。最初の一件だけ、「立ち上げの価格」として少し下げるのは、一つの考え方です。ただし、下げた理由と、二件目からの価格を、依頼側に伝えておきます。

下限を決める。 これを下回るなら受けない、という時給。本業の時給か、自分が納得できる水準。下限が無いと、交渉で際限なく下がります。

自分の時給は、他人に見せる数字ではなく、自分の判断の基準です。具体的な数値は、自分の本業と経験から置いてください。

どの形で出すか

価格は、時給・月額・成果報酬のどの形で出すかを、案件に合わせて決めます。

月額固定。 「月に〇時間の稼働で、月額〇〇」。依頼側は費用が読め、受ける側は収入が安定します。稼働の上限と、超えた場合の扱いを決めます。継続的な運用(スカウト代行など)に合います。

時給。 「時給〇〇で、実働の時間分」。稼働が読めない案件、スポットの案件に合います。時間の記録と報告が要ります。

成果報酬との組み合わせ。 月額を下げて、面談設定などの成果に報酬を乗せる。成果報酬型は受けるべきかで書いた条件を満たす場合に限ります。

成果物ごと。 「求人票の作成一件で〇〇」「面接の設計一式で〇〇」。成果物が明確な案件に合います。

最初の一件は、月額固定か時給が、最も根拠を説明しやすく、リスクも小さい形です。成果報酬は、依頼側の体制と成果の定義を確認してからです。

エラベルの見解

相談で最も多い失敗は、「相場を調べて、その下限で受けた」というものです。相場の下限は、業務範囲が狭く稼働が少ない案件の数字で、自分の案件とは中身が違う。受けてみると、想定の倍の時間がかかり、時給に直すと本業の半分以下。それでも「最初だから」と続け、二件目も同じ価格を求められる。相場ではなく、自分の案件の工程と時間から作っていれば、避けられました。

見ていて差がつくのは、受ける側が「この工程にこれだけの時間で、合計これだけです」と説明できるかどうかです。金額だけを伝える人と、工程と時間で説明する人がいます。後者は、依頼側から「この工程は要らないので、その分下げてほしい」という、中身の交渉ができます。前者は、「もう少し安く」という、金額だけの交渉になります。

受ける側にできるのは、最初の一件から、工程と時間で価格を作ることです。最初の一件で作った根拠が、二件目以降の土台になります。

安すぎる・高すぎるの見分け方

最初の一件を受けた後、価格が適切だったかを見分けます。

安すぎたサイン。 実際の稼働が見積もりを大きく超え、時給に直すと下限を下回った。依頼側から追加の業務を頼まれ続け、断りにくい。同じ業務を他の人が受けている価格を聞いて、大きく差があった。

高すぎたサイン。 依頼側から、価格を理由に契約が見送られた。実際の稼働が見積もりを大きく下回り、依頼側から「思ったより少ない」と言われた。(高すぎることは、安すぎることより起きにくい。)

適切だったサイン。 実際の稼働が見積もりに近く、時給が下限を上回り、依頼側が価格に納得し、二件目の話が来た。

安すぎたなら、二件目で直します。同じ依頼側なら、「最初の一件で実際の稼働が分かったので、二件目からはこの価格で」と、根拠を示して上げます。高すぎたなら、工程を絞るか、時間の見積もりを直します。

最初の一件は、価格の見積もりの精度を上げるための一件でもあります。実際の稼働を記録しておけば、二件目の見積もりは正確になります。

二件目以降に活かす

最初の一件で得たものを、二件目以降に活かします。

実際の稼働の記録。 工程ごとに、実際に何時間かかったか。見積もりとの差。これが、二件目の見積もりの根拠になります。

依頼側との合意の形。 工程と時間で説明した形が、依頼側に受け入れられたか。受け入れられたなら、同じ形で二件目も出します。

業務範囲の線。 最初の一件で、「頼まれていなかったが、やることになった」業務があれば、二件目からは範囲に入れて価格に反映します。

自分の時給の見直し。 最初の一件で、自分の時給が適切だったか。下限を下回ったなら、二件目は上げます。

価格表の原型。 工程ごとの時間と、自分の時給から、「この業務範囲なら、この価格」という一覧を作ります。二件目以降は、一覧から出せます。

最初の一件は、価格を決めるための実験でもあります。記録を残せば、二件目からは迷いません。

エラベルの見解

担当する側から見ると、最初の案件の価格で最も困るのは「安く受けたまま、価格を上げられずに続けている」ことです。最初の一件を「実績のため」と安く受け、二件目も同じ依頼側から同じ価格で頼まれ、断れずに続け、時給は本業の半分以下のまま。上げたいが、「最初はこの価格だった」と言われて上げられない。

安く受けるなら、「最初の一件だけ、立ち上げの価格」と依頼側に伝え、二件目からの価格も同時に伝えておきます。伝えておけば、二件目で上げることは、約束の実行です。伝えていなければ、値上げの交渉になります。

受ける側にできるのは、最初の一件の価格を「安くする」のではなく「根拠を作る」ことに使うことです。根拠があれば、安くても高くても、次に直せます。

まとめ

よくある質問

依頼側から「いくらですか」と聞かれて、すぐに答えられません

その場で答えず、「業務の範囲を確認して、工程と時間で見積もります」と伝えて、持ち帰ってください。工程に分けて時間を見積もり、自分の時給を掛けて、根拠とともに出します。その場で金額だけを答えると、相場の下限に引っ張られます。

最初の一件は、実績のために安く受けてもよいですか

受けてもよいですが、「最初の一件だけ、立ち上げの価格」と依頼側に伝え、二件目からの価格を同時に伝えてください。伝えずに安く受けると、二件目も同じ価格を求められ、上げられなくなります。また、安くても、自分の時給の下限は下回らないようにします。

依頼側の予算が、自分の見積もりより低いです

工程を絞る交渉をしてください。「この予算なら、この工程まで。返信対応は御社で」のように、価格ではなく業務範囲で合わせます。工程と時間で見積もっていれば、この交渉ができます。金額だけで見積もっていると、「もう少し安く」に応じるしかなくなり、時給が下がります。