人事副業 / 両立・スキル
無理なときの伝え方|人事の副業で依頼側の要求に応えられないときは、「できないことを先に、できることを添えて、判断を依頼側に返す」。曖昧に引き受けて遅れるより、その場で線を引くほうが関係は続く
定例の終わりに、担当者から「来週の面接に同席して、評価も書いてもらえませんか」と言われた。範囲外だし、その日は本業の予定がある。でも断ると角が立ちそうで、「調整してみます」と答えてしまった。結論を先に書くと、無理なときは、その場で「できないこと」を先に伝え、「できること」を添え、どうするかの判断を依頼側に返します。「調整してみます」「検討します」と曖昧に引き受けると、後で断るか遅れるかになり、その場で断るより関係を悪くします。断ることは、依頼側との関係を壊す行為ではなく、自分の範囲と稼働を依頼側に正確に伝える行為です。線を引ける担当者のほうが、依頼側からは「安心して頼める」と見られます。案件そのものの断り方は断り方に、範囲が広がる場面は範囲が広がっていくときに、遅れそうなときの連絡は遅れそうなときの連絡にまとめています。
曖昧に引き受けると起きること
「調整してみます」は、その場の空気を保ちますが、後で清算が来ます。
| 曖昧な返事 | 依頼側の受け取り方 | 後で起きること |
|---|---|---|
| 「調整してみます」 | 「やってくれる」 | 調整できず、後から断る。依頼側は「やると言ったのに」と感じる |
| 「検討します」 | 「前向き」 | 返事をしないまま時間が過ぎ、依頼側から催促される |
| 「難しいかもしれませんが」 | 「難しくてもやる」 | 引き受けたことになり、稼働を削って対応する |
| 「できるだけ」 | 「できる範囲でやる」 | 依頼側の期待と自分の想定がずれ、出したものが「足りない」と言われる |
| 「一度持ち帰ります」 | 「後で返事が来る」 | 返事を先延ばしにし、その間に依頼側の予定が組まれる |
起きることの要点は、「後で断ると、その場で断るより信頼を失う」ことです。その場で断れば、依頼側は「この人には頼めない範囲がある」と分かり、別の手を打てます。後で断ると、依頼側はその間に予定を組んでいて、手を打つ時間が無くなります。曖昧な返事は、優しさではなく、判断の先送りです。
無理の四つの種類
「無理」の中身は、四つに分かれます。種類で、伝え方と代わりの案が変わります。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 範囲の外 | 契約の範囲に入っていない業務 | 面接の評価、合否の判断、条件の交渉、社内の人事の相談 |
| 稼働の外 | 範囲内だが、稼働の枠に入らない量や時期 | 今週中に求人票を三本、繁忙期に送信数を倍に |
| 立場の外 | 外部の担当者が判断してよい範囲を超えている | 候補者に条件を約束する、依頼側の代表として媒体と交渉する |
| 自分の能力や経験の外 | 範囲と稼働は合うが、自分にはできない | 経験の無い職種の要件の設計、使ったことの無いツールでの高度な設定 |
種類の要点は、「範囲の外」と「立場の外」は、稼働があってもやらないことです。範囲の外は契約の話で、立場の外は責任の話です。「時間があればやってもよい」ではなく、時間があってもやらない。稼働の外と能力の外は、条件が変われば引き受けられるので、条件を示して依頼側に判断してもらいます。立場の線は権限がないと動けない場面と会社の代表として話す責任に、範囲の線は受ける範囲の決め方に書いています。
エラベルの見解
相談で最も多い思い込みは、「断ると、次から頼まれなくなる」というものです。実際には、依頼側の担当者が頼まなくなるのは、断った人ではなく、引き受けて出せなかった人です。担当者は、外部の担当者に頼んだことを社内に伝えていて、それが出てこないと担当者自身が困ります。その場で「それは範囲の外です。代わりに〇〇ならできます」と言われれば、担当者は社内に「〇〇の形で進める」と伝えられ、困りません。
見ていて差がつくのは、断るときに「できること」を添えているかです。「できません」だけでは、担当者は手が止まります。「面接の同席と評価は範囲の外ですが、面接官に渡す準備の資料と、面接後の記録の整理ならできます」と言えば、担当者は面接官に評価を頼み、記録は外部に任せる、と組み立てられます。エラベルでは、担当者が依頼側から範囲外の要求を受けたとき、できないことを先に、できることを添えて伝える形をお願いしています。この形で線を引く担当者は、依頼側から「範囲が明確で頼みやすい」と評価され、範囲外の要求そのものが減っています。
伝え方の三段の型
無理を伝えるときは、三段の順で話します。順番を変えると、断りが曖昧になるか、冷たくなります。
| 段 | 伝えること | 例 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 一、できないことを先に、理由を一言 | 何ができないかを、最初に明確に。理由は一文 | 「面接の同席と評価は、契約の範囲の外なので、お受けできません」 | 「難しい」ではなく「できない」。理由は範囲・稼働・立場・能力のどれかを一言 |
| 二、できることを添える | 同じ目的に近づく、自分の範囲でできること | 「面接官にお渡しする準備の資料と、面接後の記録の整理はできます」 | 目的(面接をうまく進めたい)に対して、自分の範囲の手段を出す |
| 三、判断を依頼側に返す | どうするかを、依頼側が選べる形にする | 「その形で進めるか、評価も含めて別の方をご検討いただくか、ご判断をお願いします」 | 「代わりにこれをやります」と決めない。依頼側が選ぶ |
型の要点は、「一」を先に言うことです。「できることを先に、できないことを後に」の順にすると、依頼側は最初の「できること」で安心し、後の「できないこと」を聞き流します。できないことを先に、はっきり言い、それからできることを添えると、線が明確に伝わります。「三」の判断を返すのは、自分が代わりの案を押し付けないためです。依頼側が「それなら別の人に」と選んでも、それは正しい判断です。
言い換えの例
種類ごとに、曖昧な言い方と、線を引く言い方を並べます。
| 種類 | 曖昧な言い方 | 線を引く言い方 |
|---|---|---|
| 範囲の外 | 「評価は少し難しいかもしれませんが、見てみます」 | 「評価は範囲の外なので、お受けできません。面接官の評価を記録に整える形ならできます」 |
| 稼働の外(量) | 「三本ですね、頑張ってみます」 | 「今週の稼働では一本が上限です。一本を今週、残りを来週以降にするか、今週は要件の部分だけ三本分を出すか、どちらがよいでしょうか」 |
| 稼働の外(時期) | 「繁忙期ですが、何とか」 | 「〇月は本業の都合で稼働が下がるとお伝えしていた通り、送信数を倍にすることはできません。今の数を維持するか、〇月以降に増やすかをご判断ください」 |
| 立場の外 | 「候補者には、前向きに検討中とだけ伝えておきます」 | 「条件についての回答は、私の立場ではできません。御社の担当者からの回答として、私が文面をお送りする形ならできます」 |
| 能力の外 | 「その職種はあまり詳しくないですが、やってみます」 | 「その職種の要件の設計は、私の経験の範囲外です。御社の現場の方が要件を出し、私が求人票の形に整える分担ならできます」 |
| 本業の予定と重なる | 「その日はちょっと」 | 「その日は本業の予定があり、対応できません。別の日か、資料での対応でよければ調整します」 |
言い換えの要点は、「できない」と言い切り、その直後に「〜ならできます」を置くことです。「難しい」「ちょっと」は、依頼側に「押せばやってくれる」と伝わります。「できません」と言ってから「〜なら」と続ければ、線と代案が同時に伝わります。本業の予定を理由にするときは、詳しい事情を言わず、「本業の予定」で足ります。本業が忙しいときの稼働の下げ方は本業が忙しくて稼働できないときに整理しています。
依頼側の担当者を守る伝え方
断るとき、依頼側の担当者の立場を考えると、伝え方が変わります。担当者は、外部の担当者の返事を社内に持ち帰る人です。
| 配慮 | 内容 |
|---|---|
| 担当者が社内で言える形にする | 「範囲の外なので」は、担当者が上長に「契約の範囲外だった」と言える理由。「やりたくない」は言えない |
| 担当者の依頼を否定しない | 「そういう依頼が来るのは当然で」と、依頼自体は受け止める。断るのは依頼ではなく、自分の側の条件 |
| 代わりの案を、担当者が社内で使える形にする | 「面接官に評価を、記録は外部に」のように、担当者が社内の分担として説明できる形 |
| 範囲を広げる道を残す | 「次の更新で範囲に入れる形なら、稼働と条件を含めてご相談できます」と、将来の道を示す |
| 文面でも残す | 口頭で断った後、「先ほどの件、〇〇はお受けできず、△△の形で進める方向でよろしいでしょうか」と一文送る。担当者が社内に転送できる |
守る要点は、「担当者が社内で言える理由を渡す」ことです。担当者は、上長や面接官から「外部の人に頼めないのか」と聞かれます。「契約の範囲外」「稼働の上限」「外部の立場では判断できない」は、担当者が社内で使える理由です。「本人がやりたくないと言った」は使えません。断りの理由を、担当者が社内で使える言葉にすると、担当者は自分を守れ、外部の担当者を守ることもできます。担当者の社内での立場は外部の立場だからできることに書いています。
それでも押されたときの扱い
線を引いても、依頼側が「そこを何とか」と押してくることがあります。そのときの扱いを決めておきます。
| 押され方 | 扱い |
|---|---|
| 「今回だけ」 | 「今回だけ」は次も来る。「今回は〇〇の形でお受けし、次回以降は範囲の見直しとしてご相談する」と、条件を付けて一度だけにする。条件は文面で残す |
| 「他の人はやってくれた」 | 「他の方の条件は分かりませんが、私の契約の範囲では」と、自分の条件で答える。比較に乗らない |
| 「追加の報酬を出すから」 | 範囲の外を報酬で埋める形は、範囲の話として更新の節目で整理する。その場では「範囲と条件を含めて、改めて整理させてください」。更新時の条件見直し |
| 「やってくれないなら契約を考える」 | 契約の継続と引き換えの要求は、応じても続かない。「範囲の外をお受けすることはできません。契約のご判断はお任せします」と、判断を返す。契約を切られたとき |
| 立場の外を強く求められる | 候補者への条件の約束、依頼側の代表としての交渉は、押されても受けない。責任の所在が自分に来る |
| 法令に関わることを求められる | 一般に問題になり得ることは、「専門家にご確認ください」と伝え、自分は行わない |
押されたときの要点は、「立場の外と法令に関わることは、押されても受けない」ことです。範囲の外や稼働の外は、条件を付けて一度だけ受ける余地がありますが、立場の外は、受けた時点で責任が自分に来て、後から戻せません。「契約を考える」と言われても、立場の外を受けて続く契約は、次も同じことを求められます。契約の解釈は専門家にご確認ください。
線を引いた後にやること
断った後、その断りが「面倒な人」の印象にならないように、やることがあります。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 代わりの案を、その日のうちに動かす | 「準備の資料ならできます」と言ったなら、その日に着手する。断りだけで終えない |
| 議事録に残す | 「〇〇は範囲外のため、△△の形で進めることになった」と、決まったこととして。議事録の残し方 |
| 範囲外の要求が続くなら、範囲の話にする | 同じ種類の要求が繰り返し来るなら、更新の節目で「範囲に入れるか」を条件と一緒に相談する。範囲が広がっていくとき |
| 断った依頼の目的を、別の形で満たせないか見る | 「面接の評価」の目的が「面接の質を上げたい」なら、面接官向けの準備の型で近づけるかもしれない |
| 自分の範囲の一言を見直す | 範囲外の要求が来るのは、範囲の伝わり方が曖昧なことが多い。プロフィールや契約の範囲の書き方を見直す。プロフィールの書き方 |
| 稼働報告に書く | 「〇〇の依頼を受けたが、範囲外のため△△で対応」と一行。断ったことを隠さない |
やることの要点は、「代わりの案を、その日のうちに動かす」ことです。断って、代わりの案を言って、それが動かなければ、依頼側は「断られただけ」と感じます。代わりの案がすぐ動けば、「断られたが、別の形で進んでいる」になります。断りの信頼は、代わりの案の速さで決まります。
エラベルの見解
担当する側から見ると、依頼側から「頼みやすい」と言われている人は、何でも引き受ける人ではなく、できないことをその場で言い切り、できることを添え、代わりの案をすぐ動かす人です。依頼側の担当者は、外部の担当者に何を頼めて何を頼めないかが分かっていると、社内の分担を組み立てやすく、その人に頼む場面が増えます。何でも引き受ける人は、引き受けたものが出てこない場面が一度でもあると、「頼みにくい人」になります。
順番として、要求が来たら、その場で種類(範囲・稼働・立場・能力)を見分け、できないことを先に理由を一言添えて言い切り、できることを添え、判断を依頼側に返し、決まった代わりの案をその日に動かし、議事録に残す。この順番で、断りは関係を壊す行為ではなく、範囲と稼働を正確に伝える行為になります。エラベルでは、依頼側と担当者の契約の際に範囲を明確にしていて、範囲外の要求が出たときは、担当者が個別に断るのではなく、窓口を通して範囲の見直しとして扱う形も取っています。線を引くのは、担当者一人の負担ではなく、仕組みで支えるものでもあります。
まとめ
- 無理なときはできないことを先に・できることを添えて・判断を依頼側に返す。「調整してみます」は判断の先送り
- 曖昧に引き受けると後で断るか遅れるかになり、その場で断るより信頼を失う
- 無理は範囲の外・稼働の外・立場の外・能力の外の四つ。範囲の外と立場の外は、稼働があってもやらない
- 型はできないことを言い切り(理由は一言)→できることを添える→判断を返すの三段。順番を変えない
- 「難しい」「ちょっと」ではなく「できません。〜ならできます」
- 担当者が社内で言える理由を渡す。「範囲外」「稼働の上限」「外部の立場」は使える理由
- 押されても立場の外と法令に関わることは受けない。「今回だけ」は条件を付けて文面に残す
- 断った後は代わりの案をその日に動かし、議事録に残し、続くなら範囲の話にする
よくある質問
断ったら、担当者の機嫌が明らかに悪くなりました
その場の反応と、その後の関係は別です。担当者は、社内に持ち帰る返事が変わったことで、一時的に困っています。代わりの案をその日のうちに動かし、「先ほどの件、△△の形で本日から進めています」と伝えれば、担当者の困りごとは減ります。それでも関係が戻らないなら、その担当者は「何でも引き受ける外部」を求めていて、その案件は自分の範囲と合っていない可能性があります。合わない案件の見分け方は合わない案件の見分け方に書いています。
範囲外だが、やれば依頼側の採用が良くなると自分でも思います。それでも断るべきですか
やれば良くなると思うなら、断るのではなく、範囲に入れる相談をします。「これは範囲の外ですが、やる価値があると思います。稼働と条件を含めて、範囲に入れる形でご相談できますか」と、範囲の見直しとして出します。範囲外のまま無償で引き受けると、範囲が曖昧になり、次から同じ種類の要求が範囲内として来ます。やる価値があるものほど、範囲と条件を整えてから受けます。範囲の広げ方は次の案件へ広げるに整理しています。
稼働の外の要求を、本業の時間を削れば対応できます。やってよいですか
本業の時間を削って副業に対応することは、本業の会社の規定に触れることが多く、削った分は本業か体調に戻ってきます。一度削ると、依頼側は「その稼働で対応できる」と認識し、次からも同じ量が来ます。稼働の外は、稼働の外として伝え、「一本を今週、残りは来週」のように分ける形で対応します。本業との線は本業と利益相反になる案件と稼働時間の上限に書いています。規定の解釈は専門家にご確認ください。